第2話 透明人間のためのアマービレ
「おまえのこと、結構嫌いだわ」
うららかな春がもうすぐそこの、冬のことだった。意を決して告白したら、これが帰ってきた。普段優しいはずの先輩だったから、その歪んだ表情が思った以上に堪える。
「え、えーっと…理由を訊かせてもらえませんでしょうか」
面と向かってそんなことを言われたのは初めてのことだったので、涙が出そうになったけれど、冗談めかして言うことで抑えつけた。理由も聞きたかったし、一石二鳥だ。
「いや、どことなく嫌いだわ」
そんな曖昧な。その言葉の代わりに、「はあ…」と返事をした。
「もういい?」
いっそう、先輩は顔を歪める。
「あ、はい…お手数おかけしました…」
私はなぜここまで下手に出たのだろうか。先輩だから、尊敬の念を込めて丁寧な言葉遣いをしなければならないというのはその通りだが、この状況で言うなら、女の子の告白に対してこんな返答をする先輩に対して、そこまで気を遣う必要はあったか。いや、ないだろう。
ここで気を遣えた私は、何なのだろうか。
先輩はため息を残して去っていた。吐きだされたその息がまだ滞留している空間で、私もため息を吐く。今現在、この体育館裏という空間の酸素濃度は他の場所より希薄なことだろう。健康に悪い。
私は場所を移動した。
通学路に、河原がある。何の変哲もない、小さな河原、とらえようによっては沢だ。そこへ体育座りして、黄昏ていた。正しい失恋だ、とひとしきり浸った後、滔々と考える。
私の何がいけなかったのだろう。何が先輩にあそこまで言わせてしまったのだろう。なんであんな先輩に惚れてしまったのだろう。
答えは簡単。
恋をしてみたかった。
おっと、言葉が足りない。人並みの恋がしたかったのだ。誰でも一度は経験するような、苦々しくも甘酸っぱい、愛すべき青春の一ページに当然のように刻まれる経験をしたかったのだ。
けれど少し失敗したかもしれない。これじゃあ、あまりに結果が悪い。苦々しいだけで、この思い出を愛せる自信がない。そもそも、人気者との恋愛をするには、私にはその器がなかった。どう考えても私はクラスの目立たないやつに告白して、オーケーをもらえるかどうか、くらいの人間だ。明るくもなければ卑屈でもなく、そうかと思えばあまり肯定もしない。どう好意的に受け取っても『普通』という言葉でしか表現できないような、そんな人間だった。
その『普通』が何を思ったか『人気者』に告って、呆気なく大破した。人気者の人気者たるゆえんは、人に好かれるかどうかだろう。
誰だって、徹頭徹尾正義を貫くことはできない。多くの人と接する『人気者』は悪い部分を見抜いてしまうのかもしれない。そのうえで、その悪い部分をどれだけ見ないふり出来るか、それが『人気者』になれるかどうかの分岐点。
だから、さっきの場合は目を瞑ることが出来なかったのだろう。
『どの口で人に告白しているのか』と私の悪い部分を見抜いてしまった先輩はそう思ったことだろう。
言わずにはいられなかったのだ。お前のことなんか嫌いだと、はっきり言わなければいけなかったのだ。
「だからってさぁ…」
こんな結果じゃあ、どう転んでも私は真っ当な恋が出来ないじゃないか。清潔な水で薄めるための恋だったはずが、どういうわけか別の劇薬のようだった。予期しない化学反応が起きたらどうしよう、と気が気でない。
現に今、死にたくなっている。
好きな先輩に振られたから死ぬ。なかなか悪い筋書きではないと思うけれど、私のキャラでは無い。普段の私の性格を考慮すれば、この程度で死ぬような繊細さは欠片もなく、次の日もしれっと部活にでるような、本当に感情が付いているのか疑いたくなるような奴だ。
ただし、すべてにおいてそういうわけでは無いことをここに明言しておく。あくまで、人間関係に対してだけだ。親が転勤族で私が転校族だったためか、友情とか信頼とか、人間関係におけるアレコレをあまり重視しないタイプだった。
だからだろうか。
こんなに後に引きづるのは。
初めて感じた強い気持ちだったから、思った以上に愛着があったのかもしれない。
自分の感情に対して、愛着、とか使っちゃうあたり切り離し具合が顕著だ。
「やっほー」隣でそんな大声がして、私はその方へ目を遣る。
水流に向かって、両手でメガフォンを作っている。私と同じ制服を着る、背の低い女の子だった。へたすりゃ私より低いかもしれない。よくわからないけれど、こんな沢みたいなところで「やっほー」とか言ったところで自然は返事してくれないだろうし、帰ってくるとしたら近所迷惑だ、と近隣住民の怒声だろう。
何が目的なんだ、この子。
「どうしたの?」少女は前を向いたまま言った。
私に言っているのだろうか。あたりを見渡すが、やはり私とその少女しか沢周辺にはいなかった。
「こっちの台詞なのだけれど。こんなところで叫んじゃって」おずおずと、私は答える。
「私が先に訊いたのに…」不貞腐れたように彼女は言ってから、「別に。沢に来たら普通やっほーって言わない?」
やばいやつだと一瞬で判断した。なかなか可愛い子だと思った数秒前の自分を慰めてやりたい気分だ。
「言うのかな」
「冗談だよ。そんなこと言うやつ見てみたいな」
あなたの望みは私が代わりに叶えてあげましたよ。
「じゃあ、こっちから、質問良い?」
「どうぞ」
「どうしたの?」
さっきとだいたい同じトーンで、しかし今度はこちらを見つめて言った。吸い込まれるような黒い瞳だった。暗さはない、カラスの濡れ羽色、みたいな感じ。いつまででも見ていられる気分だった。
私に一つでもこんな魅力があればなあ、と漫然と思った。
「別にどうも…」
「女の子が
「何でも無いもんはないよ」
「まあ、他人には言えないことだろうとは思うけど、今会ったばかりの他人は貴方のことにあまり興味がないから、三歩あるいたら忘れるものだよ」
「興味がないなら訊かないでもらえない?」
「雑談の範囲だよ」
こんな話、雑には話したくない。雑に話せるのならとっくに克服しているし、こんな沢原に座り込んでいない。
「私は透明人間だから」
さて、これまた意味の分からない発言である。透明人間とは何ぞや。読んで字のごとし、透明の人間だ。この少女は? がっつり見えている。
「私は透明人間だから」
「何で二回言ったの?」
「いや返事がなかったから。聞こえてないのかと」
「…うん。そうだね」なに言ってんだろう、この子。
「私は透明人間だから、その私に何を言ったところで独り言と同じなんだ」
「はあ…」これはたぶん、話さないと帰してくれないな。
ああ、なんでこんな変なやつに返事をしてしまったのだろう。こっち向いてなかったんだから、無視すればよかった。明らかにやばいやつだと解っていたのに。いつもであれば気付かれないようにゆっくりとその場を立ち去るような状況だ。
傷心だったからだろうか。
「あのね。失恋したの」
「うん」
「……」
「……」
「…いや、それだけなんだけど」
「そんなわけないでしょ」
ええー。どうしよう。本当にこれだけなのだ。いやまあ、強いて言うなら親友を一人失ったし、もっと言うなら応援してくれた友達に『ごめん、無理だった(笑)』というのが心苦しいというのがあるけれど、本当に失恋した以外に何も無いのだが。
それ以外なにも変わらないはずなのだ。
ん…? うん、変わらない。
でも、たぶんこの子、そのことを言っても納得しないだろうよ。
よし。でっちあげよう。
「…両親が離婚してさ」
「へえ。私みたいだね。いやまあ、私の場合は両親ともに行方不明だけど」
「……」
軽々しくこんな嘘を吐いていいのだろうか、という罪悪感からくる自分への軽蔑が頭をかすめた。駄目だ、ここで貫いたら大事な何かを失う。
「言いたくないかー。まあ、失恋って言うのはのは嘘じゃ無いから、別に良いけど」少女はため息交じりに言った。
何だろう、この少女、全部知っているかのように言うな。もしかして、告白したところを見ていたのだろうか。だとするなら、言いふらさないでくれと、釘をさしておくべきだが、本当は何も知らないくせに思わせぶりなことを言って、鎌をかけている可能性もある。
処置なし。
「もういい?」私は言って、立ち上がる。これ以上この場にいたら何かボロを出しそうな気がする。ここは退散すべきだろう。
「うん。最後に一つ言っておくけど」少女は言って、人差し指を立てる。「それは勘違いだと思うな。貴方が思っているほど、人生は辛くないんだよ」
つらくない、じゃなく、からくない? 『甘くない』の対義語ってこと? 普通だったら、苦しくないとか、厳しくないとか、そんな様な言葉を使うが、この子ちょくちょく言葉選びのセンスが他の人とズレている。
さっきもこの辺りを、さわら、とか言っていたし。
…伝わりづらいけれど、励ましてくれているのだろうか。
「…ありがと」私は少し笑って言ってから、その場を後にした。
告白した相手と同じクラスでなかったのは、不幸中の幸いである。もしも教室で顔を合わせなければいけない、なんて事態に陥ったら、それこそ本当に私はおかしくなってこの窓から飛び降りてしまうかもしれない。
背面飛びで。
まあ、他のクラスの相手を選んだ、わけでは無いけれど、いつも一緒にいないからこそ魅力的に見えた部分もあったのかもしれない。人気者の話では無いけれど、悪い部分が見えないから、惚れることが出来たのかもしれない。分からないけれど。何にせよ、廊下なんかで出くわさなければ、やがて忘れて行けるだろう。
この実るはずのない恋は、時間に圧し潰されて形を無くすだろう。
それはそれで悲しい気がしてしまうのは、まだ失恋明けだからだろう。きっと時間が経って、冷静に考えてみればそこまで大切な感情でも無いし、憶えておきたい記憶でもないはずだ。
その証拠にほら、泣いていない。普通、初恋で、大事な恋だったりすると、失恋した後涙を流して、しっとりとしたバラード曲なんか聴いて感傷に浸るものだろう。それがどうだ、私は。失恋したことなんておくびにも出さず、今日も寝る前にユーモアミステリーで笑い転げていた。これが失恋した女の子のその日の夜だって言うのだから、おかしい。
何がおかしいかって、いつも通りなのがおかしい。もう少し悲しめば? と自分に言いたくなる。
だからたぶん、私にとってみれば、あまり重要な意味を持たなかったのかもしれない。じゃあ、何で告白なんてしたんだ、と訊かれると困ってしまうが、ノリと勢いという答えを出しておこう。
「ごめん、無理だった(笑)」
自室の姿見の前でさわやかに言う練習をしてから、登校した。
教室の賑わいは、しかしながら、私にはあまり縁のないものばかりだ。はたから見れば『賑わい』という塊のような印象だが、一つ一つをとってみると、まったく関係の無いこと柄が絡まりあって構成されている。それらをすべて把握することは、少し難しいだろう。当たり前の話だが、それを再確認した、というそれだけのことだ。
「おはよう、名前を聞いてなかったね」
沢原にいた少女が、今私の目の前にいる。自分のクラスに入ったはずの私だったが、この少女がいるということは別のクラスのようだ。
再度、廊下に出てつりさげられたクラス名を確認する。
うん。毎日登校している、私のクラスだ。
「…何で居るの?」
「そりゃ、同じクラスだからだよ」少女はなんでもないように言って、「言ったでしょ。私は透明人間だから、認識されないと分からないんだ」
「なるほど」まあ、要するに影が薄いということなのだろう。それを自虐的に透明人間、と称しているわけか。
なんか、重い…。
「それより、ご友人が呼んでいるけど、行った方が良いのは?」少女は親指でそちらを示す。気取った仕草や言葉づかいだと思った。「私は近くで聞いとくから」
「え、なんで?」
「どうせ失恋の話をするんでしょ。気になる」
「やめて」
「怒るよ」
「それは私の台詞だろ」
まともに取り合うのも面倒なので、勝手にしてくれという思いを込め、友人の方へ足を進めた。
「どうだった!?」開口一番そう言ったのは速水という女の子だった。いわゆる、ゴシップ好きな子だ。
「ごめん、無理だった(笑)」練習の成果を示した。
「そっかー、無理だったかー」
半笑いで速水は言う。なんというのだろう、ゴシップ好きの特性が私は好きでは無い。人の不幸を笑う、というと聞こえが悪いから別の言葉で表すけれど、他人事のように俯瞰して軽んじる、みたいな傾向がある。自分には無いのかといわれると、ない、と自信を持って言うことはできないけれど、苦手なのはその特性自体では無く、それを隠そうとしないことなのだ。
まあ、それで友人関係を断ち切るかといわれると、それほどでもないけれど。
「そっか、何でかな」深刻な顔をしている子は日暮という子だった。同じ部活である。なんというか、彼女には申し訳ないことをしたかもしれない。私は振られたって平気で部活に出られるけれど、彼女には気まずい思いをさせてしまうだろう。
「なんか、シンプルに嫌い、って言われた」
「最悪かよ! あの先輩そんなこと言うのか。ちょっとイメージダウンだわ」
「そだねえ。もっと爽やかな人間だと思っていたけど、そうでもないんだ」
「え、なんであんた先輩の事知ってんの?」
「私の情報網をなめてもらっちゃ困るんだよ。めぼしい男子生徒はだいたいリサーチしてるもの。そしてそれを売っている」
「やべえやつだ…」
ゴシップ好きもここまで来たら尊敬できるな。この熱量は素晴らしい。私にはほとんど無いものだし、売れるほどの精度を持った情報を手に入れるのは並大抵のことでは無い。
速水は透明人間の少女のことも知っているだろうか、と一瞬考えたが、男子生徒に限定されているのでたぶん知らないだろう。
少女は宣言通り、近くの席に座って聞き耳を立てていた。誰の席なんだ。
「まあでも、良いんじゃない? 女の子に向かって平気で好きじゃない、とか言っちゃえる男、付き合っても良いことないって」日暮が慰めるように言う。
「そうだね」私はそれに頷いた。
「おいおい…ずいぶんあっさりしてんだね」速水が言った。
鋭いな、と少女が小声で言ったのが聞こえた。鋭いと勝手に決めないでほしかった。
「まあ、早く忘れたいし。結構傷ついたんだよ、これでも。好きじゃないって言われたの、初めてだったし」
「よしよし」日暮が私の頭を撫でた。
要注意だったのが、体育の時間だった。体育の時間は通常二クラスが合同でやる。理由はよく知らないが、だいたいのクラスの人数が奇数なので、全体で偶数にするためだと思う。そうしたら、理論上誰もあぶれないけれど友達のいないやつはそれでもあぶれるのだから不思議だ。
とまあ、そんなわけで、告った相手と出くわす可能性が増すのだ。
今日は授業の前半に準備運動、ランニングをした後、自由時間だった。テスト前は大体こんな感じである。体力をみだりに奪わないための配慮、らしい。まあ、テスト直前まで部活動はやっているので、意味がないという気がしないでもないが。
わーわーと、楽しげな声がそこかしこから聞こえてくる。私は一人で、隅っこに座っていた。友達にバトミントンとかバレーボールとかに誘われたが、運動が苦手なため、足を引っ張ってしまうのだ。それゆえに、運動をした後さわやかな気分になれたことが無い。少しならずわだかまりを残して終わってしまうことは目に見えていたので、必要な時以外、運動はしないことにしていた。
バトミントンはともかく、バレーボールなんて団体競技、私一人がいるだけで雰囲気が悪くなってしまうこと請け合いだ。
こうして隅っこでぼーっとしていると、余計なことが頭に浮かんでしまう。後悔とか、どうすれば良かったのかとか、あとは先輩の歪んだ顔とか。あのままでいた方が確実に良かった。何に感化されてしまったのだろうか、と記憶を手繰った。
あー…たぶん妹だな。妹が年下の彼氏ができてかわいーとかなんとか抜かしていて、羨ましくなったのだろう。か弱いものを可愛いと思う気持ちは解らなくもなかった。
ただまあ、男はか弱いより、強い方が良いだろう、何かあった時に守ってくれる様な強さを持った人が良いだろう。まあ、自分が持っていないくせに他人に要求するなという気もする。
何にせよ、なるほど、妹のせいか。姉の権力を持って制裁を食らわせようか。
姉の権力か…あって無いようなものだが、今は有効なのだろうか。分からん。
「あなたは運動しないの?」いつの間に少女が隣にいて、びくりと体が震える。
「いきなり話しかけないでよ」
「ん…どういう意味?」
「どういう意味も何も…いきなり話しかけられるとびっくりするじゃん」
「いやでも、これから話しかけますよ、と宣言してから話しかけたとしても、これから話しかけますよ、と突然声をかけたわけで、結果は変わらないと思うけど」
「私が言っているのは、姿を現してから話しかけて、って事」
「ふうむ。いかんせん透明人間なものでね。姿を現せと言われても、自分ではがっつり見せているつもりなんだよ」
「……」その設定、重いから辞めてほしいのだが。どう反応していいのやら。笑ったらいいのか同情したらいいのか、それとも、私が友達になってあげればいいのやら。
かきーんと、快い音が鳴る。誰かが野球をしていて、見事ボールを打ち返したようだった。誰もがその方を見る。もちろん私もその一人だ。その瞬間だけ、周りの生徒が全員いなくなったように感じた。それから、ボールは意外なまでに遠くへ飛ばず、内野フライに終わった。
ざわざわと、また喧騒が息を吹き返す。その中で私は、今の一瞬の世界に出来るだけ長くいるにはどうしたらいいのだろう、と本気で考えた。
「透明人間になりたい?」見透かしたように少女が訊く。
「そんなわけないでしょ」
「本当に?」
「しつこいなあ」私は言ってから、「あ、話し替わるけどさ、良い?」
「話を変えることに対しての了承なら、大丈夫」
「その他に何があるのよ」
「その話が私への質問だとしたら、内容によるということ」
「ああ、成る程」鋭いなあ、この子。なんだか少しずれた印象があるけれど、人の思考を読むのは何で得意なんだろう。私は躊躇してから、結局訊いた。「あんた、友達いないの?」
「何だ、そんなものか」つまらない、といわんばかりに少女は言った。「ああ。今はいない。昔はいたんだよ。何人かいたんだ。でも、成長するとともにいなくなってしまったんだ。道が分かれてしまったんだよ。私が今歩んでいる道と、彼が歩んでいる道が、変わってしまったんだ。残念で仕方がない」
「そうか」まあ、進級と共に疎遠になるのはよくある話だ。私も中学校の頃の友人とはまったく連絡を取っていない。小学校の友人とも…幼馴染とは連絡を取っていたが、結局駄目になった。
じゃあ、私が友達になってあげる。そうは言わなかった。恩着せがましい言い方だし、あまり関わりたくない人だから、口に出すのが躊躇われた。
しかし、完全に嫌いかといわれれば、それも悩んでしまうのはやはり激しい感情が私の中に備わっていない証拠だろう。意思を持つのにも、カロリーを使う。私はどうやら使い果たしたようだった。
「気を遣ってくれなくても構わない」少女はきっぱりと言った。「私とあなたは既に友達じゃないか」
「ちょっと待って…いつそうなった?」
「昨日、街で出くわした時から、あなたのことは気になっていたんだ。だから、今決めた」
「ああ…そう…」ん?街? 出会ったのは沢原のはずだが。
「嫌?」
「嫌じゃあないけれど…勝手に決められるのは不服だし」
「そうか。じゃあ、どうしたらいい? 友達の儀式でもするか」
「友達の儀式? お互いの血でも交換するの?」
「そんな気持ちの悪い事できるわけないだろう…ううぇえ」
「えずかなくても…」
「ううぇえ」本当に吐しゃ物を零すのかと思うほどえずいてから、少女は言った。「さあ、いっしょに笑おう」
「は? 何いきなり」
「あはははー」
少女は私の疑問を無視して快活に笑った。結構な大声である。まあ、そこかしこで怒声がなっているので、あまり目立たないことではあるけれど、近くにいる生徒は訝しんでいた。
私も私で、何だこいつ頭おかしいのか、と小声で呟いてしまうほどには驚いてしまっていた。何をいきなり笑っているのだろう。何か面白いことがあったわけでも無いのに。
って、ああ、友達の儀式か。そう言えば、一緒に笑おうと誘われたな。
ええー、どうしよう。
「あ、あははー」控えめな声でそう笑った。
というか、一緒に笑ったら友達になれるものなのだろうか。それでいくならお笑いのライブにいる客は全員その場で友達になったってことだが、それは違くないか。尺度がおかしいだろう。
「あはははー。ばかじゃないのー。ばーか。あはは」罵倒を交えて、一層声を上げて笑う少女。いや、罵倒されるいわれはないのだけれど。どちらかといえば罵倒したい気分だった。
これ、いつまで続くのだろう。そろそろ周りの目が集まってきて辛いのだけれど。なまじ他のクラスも一緒なだけに、変な噂とかたったら困るのだけれど。
徐々に静寂が広がり、私達の笑い声だけが抽出されるようだった。
「……」女の子が近寄ってくる。「あ、あの」
何でこんなタイミングで話しかけてくるのだろう。いつもなら嬉しいのだが、今だけはやめてほしかった。
「はははー」私は笑ったまま少女の腕を引っ掴み、ギリギリ体育に参加している風の人気のない場所へ急いで移動した。
「いやあ…は、晴れて私たち、は…と、友達だね…」少女が息を切らしながら言った。
「はあ…? やっぱり、こ…れが、とも…だちの儀式な…わけ…?」
「あたり…」
「やっぱ…あんたおかしいわ」
まあ、私も同じことをしたわけで、だから私もおかしいってことになるんだろうけれど。あー、絶対変な噂でるわ。これから平穏な学生生活が送って行けるのだろうか。友達が離れて行ってしまったら絶対に無理だな。そうして私だったら謎の奇声を発するような奴と友達をやっていける気がしない。
まあ、別に良いけどね。一人は確保しているわけだし。いや、この一人のために犠牲にしたものが多すぎる。割に合わない。
「昔ね、一緒に遊んでいたお兄さんに教わったんだ」息を整えた少女が言った。
「ふうん…」
昔一緒に遊んでいたお兄さん。とてつもなく怪しい響きであると思うのは私だけだろうか。警察に通報したい気分になったのだが。
「あんなふうに罵倒しながら笑っていると友達ができるそうだ」
「そんなわけあるか…むしろいなくなるわ…」
「初めからいないやつじゃないと、効果がないんじゃないか?」
「なんだそれ…」じゃあ私はやる必要なかったのか。不味いことをしてしまったなあ。
かきーんとまた快音が鳴った。それから怒声も。さっきから同じ声なので守備側のキャプテンがワンマンなのだろうか。
「さ、次はあなたの番だよ」少女が急かすように言った。
「ん? 何が?」
「暴露話」
「私の番、ということはあなたの番があったわけか」
「うん」
「どれのことだよ…」
「さっきの、お兄さんに教わったってやつ」
「それ暴露ってことになるわけ?」
「うん」
「…えー、ずるいよ」この子、あらゆる手を使ってでも私の失恋を聞き出したいようだな。そんなに興味があるものだろうか。あんまり他人に興味を持ったこととか無いからな。愚痴とか聞かされると現実逃避に走って、数列とか数えちゃうタイプだ。「…そう言えば、私にもお兄ちゃんが居てね」
「お兄ちゃんネタは被るから別のにしてよ」
「えー…あ、じゃあお姉ちゃん」
「んー。それならいいけど…」
同じようなもんじゃないだろうか。まあ、それを言ったらまた何か提案しないといけないので黙っておくけれど。
大体、少女と同じような話だった。本当の姉妹では無かったが、幼馴染だった女の子のお姉さんに色々と教えてもらったことを話す、もとい、暴露した。
「ふうん…当たらずとも遠からず」少女は何度か頷いた。
「…? どういう意味?」
「それより、あなたさっき、私の事変なやつだと思ったでしょう」
話が変わったことにまず当惑、それからその内容に、『今更?』という思いが先行して困惑、さらにあたかも変なやつではないとでも言うような表現に驚愕した。
「…おもって、ないぜ」
「だよね」
怪しさたっぷりに言ったが、少女は意外と信じやすい性格をしているようだった。さっきの一緒に遊んでくれたお兄さんの話も、もしかしたらその人は冗談で言ったつもりのことを、この少女は信じて実践したのかもしれなかった。
…だとしたら。
「私、本当は失恋なんてしてないんだよねえ」
「…? その嘘に何の意味が…?」
本当に不思議がっていて、気がふれたのかといわんばかりの口調だった。
「まあ、安心しなよ。これ以上詮索しないからさ」少女は何かを察したのか、そう言った。それから、「ただ、あまり後悔ばかりしていると、もっと大きな何か見逃すことになると思うよ。自分にとって都合の良い何かを嘘だと思って意地を張っていると、いつか痛い目に遭う。それは一応、言っておく」
警告であるということだけは解ったが、意図が汲めなかった。この少女が言っていることの八割は私には理解できないことだが、こればかりは本当にわからない。身に覚えがない。
しかし内容から察するに、少女には、私が何か私にとって都合の良いことを見逃しているように思えるらしい。私にとって都合のいいこと…んー曖昧だ。何だろう、次のテストのことだろうか。もしかしたら、私の得意な範囲なのかも。いや、なんでこの少女が私の得意な分野を知っているかって話だけれど。
…もしくは。
もしくは、私が失恋したことに関してかもしれない。そうだとしたら詳しく訊きたいところだけれど、訊くからには私から話さなければいけないので、黙るしかなかった。
そうしているうちに、もうすぐ体育の時間が終わりそうだった。続々と、教師の元へ生徒が集まっている。その中の一人を注視して、また眼を逸らした。
「なんか、今日の体育で変なやつがいたらしいね」日暮が言った。ぎくっ、と私は肩を震わせる。
「そうなんだよー。なんかいきなり大声で笑いだしてさー。なんか面白いことでもあったんかね」速水が頷いた。「そういや、近くにいなかったっけ?」と、私に水を向けた。
「え…えっと、いやあーどうかなー? わかんないやー…」
「マジか。何かその後引っ張って行かなかったっけ」
「気のせいなんだと思う」
「そうかー」
弁当の時間だった。体育で殆ど運動していないため、私はまったくもって空腹ではないが、折角親に作ってもらった弁当を無駄にするのもなんなので、いつも通りの弁当をほおばっていた。彩のない、茶色い弁当だった。
「……」件の、悪目立ちした自称透明人間はやはり近くで聞き耳を立てていた。よほど暇なのだろう。
というか、何だろう、弁当持ってきていないのだろうか。何もせずに目を瞑っている。
「男子の方に交じってハンドボールやってたからなあ」
「本当、動くの好きだよね、日暮」運動神経も良いし、私と対照的な趣味を持っているのに、なんで私と同じ部に入っているのだろう。
「そりゃ、音楽も好きだからだよ。あと吹奏楽部は文化部を自称するのをやめた方が良いと思う」
「ま…確かに」
ふうん吹部だったのか、と少女が呟いた。
「無所属の私からすりゃ、大差ないけれどね」速水がため息交じりに言った。
確かにそうだ。部活に出るだけでそれなりに気力を使うもので、さらに吹奏楽部はランニングとか腹筋とか、運動部のような内容をやったりする。にも拘らず毎日休まず出ているものだから、自分でも物好きだと思う。
少し違えば、私だってたぶん無所属で高校生活を送っていたことだろう。
「私は日暮がいたから入ったんだよ」
「もー。嬉しいこと言ってくれるなあ」日暮はにやにやしながら私の頭を撫でる。何故年下の扱いなのだろう。
「むかっ」速水が口で言ってから、「話を変えていいかしら」
「え、どうした。嫉妬しちゃったか」日暮が言う。
「べっつにー…」速水がだるそうに言った。「アイドルの隠し子の話、知ってる?」
「いや…」私は首を振る。
「ニュース観てないな…ワイドショウとかそれで持ちきりじゃないの」日暮が言った。
「まじでか。どんな話?」
「文字通り、アイドルに隠し子がいたって話」速水が言ってから、「『レッドピリオド』ってグループあるじゃん?」
「ああ、紅白とかよく出てるね。白組で」
「それの一番人気、紅政明って人に隠し子がいるんじゃないか、って話」
だっせえ名前だ、と内心で思った。「確定ではないんだ?」
「まあそうだけど、殆ど決まったようなもんだよ」
「なして?」
「だって、週刊誌がその子供って人と映ってる写真を撮ったわけだし。ほぼ確定じゃない?」
「…ふうん」風評被害も良いところだと思った。子供とうつっている写真で子持ちということになるならば、私もたぶん子持ちだ。
『人気者』は大変だな、と思う。私にはまったく関係無いし、なんならその『人気者』を面白おかしくはやし立てる側だけれど、悪い部分が見えるだけでなく、悪い部分を暴かれる身分でもあることにはさすがに思うところがある。
完全に清廉潔白で、誰かに見せる顔を、見せていなくても維持しなくてはいけないのだろうか。
「…アイドルに隠し子ってのは、なかなか大変でしょうね」そうとだけ言った。
「なんつーか…や、そんなに好きなグループではなかったからいんだけどさ。それで金をもらっているのだからもう少し何とかならんかね、と言いたい」
それは確かにもっともだ。まあ、そのアイドルの子供であるなら、だが。
「…あ! ねえ、今日委員会じゃなかったっけ!?」日暮が私に言った。
「…? うん、そうだけど。昼休みに」
「え、あ、そっか」
「またか、日暮」速水が呆れたように言った。
基本的になんでもできるししっかりしている日暮だが、たまにこんな感じで天然をやらかす。テストの日にちを間違えていたり、振り替え休日を忘れて学校に来たりと、どこか抜けている印象だ。これが皆から愛される理由だろうか。頼れるが、親しみやすく、気取った印象がない。
しかし、取り返しのつかない間違いをしたことが無いので、しっかりしていることが仇になった感じなのかもしれない。
それか、計算でやっているか。
…自分で性格が悪いと引いた。
委員会、なに委員会かというと、生徒会で書記をしている。そんなに優等生でもない私が何故こんなところにいるのかというと、優等生でないからこういうところで稼いでおかなければそうそう評価が上がらない、というのが解答だ。だからこんな、堅苦しくも感じの悪い緊張感が漂う空間に、貴重な昼休みを昇華しているのだった。
まあ、評価だけでこんなところにいるほど気にしてはいないのだけれど。
しかしながら、学校を自分たちで管理したいという理由で立候補する人間もいるのだから、世の中どんな人間がいるか分からないものである。どうも、どういった気持ちでいるのかまったく理解できない。
理解できなかったから、分かりあえなかったのかもしれない。
そんな人間からしたら、私のようなやる気のない人間はどう映るのだろう。『もっとしっかりしろ』とでも思うのだろうか。
そうして私は、しっかりできなかったのかもしれない。
おっと、あまりにつまらないものだからつい感傷に浸ってしまった。
「以上、各部活の今年度予算案ですが、賛成の方は挙手をお願いします」
ほとんど聞いていなかった。聞いていなかったが、私は神妙な面持ちで手を挙げた。ぱらぱらと周りの委員も挙げだすので、少し挙げるタイミングが早かったようだ。
満場一致で、予算案を生徒総会で発表し、審議することに決まった。会計が勝手に決めてくれれば良いものを、まどろっこしい。まるで数学の証明のようだ。もういっそ、この場面を昼休みに放送して審議すれば生徒総会なんてしなくて済むのでは。どうせ賛成多数で可決なのだから、やったって時間の無駄だろうに。とはまあ、言わないけれど。
今日はそれで解散だった。これが行事のたびにあるのだから本当に面倒だ。面倒だが、入ってしまったものは面倒であろうが気まずかろうが、参加しなくては不真面目になってしまう。私は真面目で無いだけで、不真面目にはなりたくないのだ。
『普通』なので。
ばらばらと席を立ち出すので、私もそろそろ教室に戻ろう。時計を見ると、昼休みが始まってから十分が経っていた。つまり半分終わっているわけか。えー…まじかよ。この時間に眠っていたらどれだけ楽か。
いやまあ、教室にいたって速水と日暮に話しかけられるので眠れはしないだろうが。
「し、しーちゃん、お疲れ」話しかけてきたのは、幼馴染の結だった。少しぎこちなかったが、いつも通りの挨拶だった。
「ああ、うん。おつかれー」私もいつものように返した。
「…訊きたいことがあるのだけれど」
結は意を決したようにいう。なんとなく、私にとって都合の悪いことを訊かれるような気がして、こちらも身構えた。
「ん…?」不自然にならないように訊いた。
「体育の時、さ」
なんだそんなことか、と胸を撫でおろすが、しかしこれでも充分答えづらいことだった。
さて、どうかわすか。
「その話はしなくていいんじゃない?」
「え、どういうこと」
そうだった。流そうとして流してくれないのが結だった。
「うん。その話はしないことにしよう」
「え、ああ…そう?」結は納得いかない面持ちで言ってから、「あ、じゃあ、一緒にいた女の子はだれ?」
それは『その話』には入らないのだろうか。分からないけれど。
「あー…最近、ごく最近、というか昨日、いや今日か、友達になった子」私は言いながら筆箱を持って、席を立った。教室を出ようとすると、結も隣に着いて歩く。
若干の息苦しさを感じた。
「そーなんだ」にこり、と結は笑った。魅力的な笑みだった。
私には手にできなかったものだ。「そーなんだ」私も真似して言った。同じように魅力的な笑顔だったかどうか、それは勘弁してほしい。
しばらく一緒に歩くと、自分の教室が見えて、そう言った。
「あ、ねえ。しーちゃん、今日も部活?」去り際に結が言った。
「うん。あまり休みがないところに入ってしまったよ」
「あと、あの、元気ない?」結は泣きそうな顔で言った。
そんな顔しないで、と言いたかった。私の元気が無いのは結のせいでは無い。私のせい、でもないけれど、まあしかし失恋したあとで元気なやつなんていないだろう。大事な感情でもないのになんで元気がなくなるのだ、と自分自身を問い詰めたい気分だが、こればかりは仕方のないことだった。
これに付き合ってもらう周りには申し訳ないが、もうしばらくは続くだろう。
「なにそれ」私は笑ってから、当たり前だと思った。しかしまあ、それを口にすると感じが悪いので、代わりに、「ありがとう。大丈夫だよ。私の問題だから」と返して、自分の席の方へ歩いた。
目標もなければ熱い展開もなく、ただ緩やかに技術が上がって行く。私の部活動はそんな感じだった。先輩とか日暮とかはやっぱりコンクール目指して頑張っているけれど、私はほどほどだった。
出たくないわけじゃない。腕試しだってしたいと思う。しかし私はコンクールの緊張感とか、負けたときの憂いとかが苦手だった。出来るなら感じたくない。だからまあ、何も感じないくらいの価値観で、かつ周りに気付かれない程度に手を抜く。それが優れた付き合い方だと、一年の時点で気付いたのだった。まあ、私の価値観で優れていると感じるものなので、頭の良い人からするとたぶん愚かな行いなのだろう。
というわけで、部活動だった。同じパートではないけれど、日暮の隣の席に座っていた。
「しかしまあ」日暮は苦笑いする。「今日ばかりは休むかと思ったのだけれど」
「ああ。まあ、大丈夫大丈夫。ギリギリセーフ」
「なんかギリギリっぽくないなあ。超よゆうそうな」
日暮は鋭い勘を働かせて言った。居心地が悪そうに自分のトロンボーンのスライドを動かす。なんだか申し訳ない気分になった。
そもそも、日暮にはあまり関係の無い話なのだ。確かに同じ部活だし、私にも先輩にも近しい人物ではあるけれど、実際に私を焚きつけたのは速水だったし、日暮もやんわりと応援はしてくれていたが、やっぱり積極的では無かった。
むしろ止めてくれたりした。いや、私だと玉砕すると思ったとか、日暮自身が先輩を好きだとかいうわけでは無く、私の真意を理解したうえで、本当に良いのか、という確認だ。
だから、日暮はまったく悪くないわけで、日暮にこんな思いをさせてしまうのは不本意だった。
しかし、やってしまったものは仕方がない。とは、感じが悪いから口が裂けても言えないけれど。
「…ごめん、言いすぎたね。反省反省」ぱっと日暮はいつもの笑顔に戻る。
「いや」私は言ってから、少しだけ悩んでから、「日暮にはかなわないなあ」と頷いた。
「無理させちゃった?」
「いんや。もともと告白はしようと思ってた。先輩のことは好きだったし。だけど」
と、そこで音楽室の入口から先輩が入ってくるのが見えた。じっとみていると、先輩と目が合う。私を見るなり先輩は苦々しい表情をした。いや、酷くないだろうか。振った相手と顔を合わせるのが気まずいのは解るけれど、そんな露骨な。
思ったところで、先輩がこちらへ歩いてくる。ずんずんと、迷いのない足取りだった。
「…なんか来てない?」日暮も気付いたようで、そう言う。
「来てるね。怒られるかな」
「おい、三池」昨日より少しさわやかな声色で先輩は言った。「ちょっと話がある。一緒に来てくれるか?」
「はい」私はいつもの調子で言う。少し失礼だっただろうか。
「…だいじょぶ?」日暮が裾を引っ張って言った。
「ありがと。大丈夫だよ」
私さっきから大丈夫しか言っていないような。そんなどうでも良いことが頭をかすめた。
音楽室を出て少し行った階段の踊り場にて、先輩が立ち止まるので、ようやく本題に入るようだ。
「おまえ、どういうつもりだ?」先輩がまた歪んだ顔で言う。
これはきつい。「なんですかー、傷口に塩を塗る気ですかー?」
「そうじゃないが」先輩は困ったように頭をかく。それから、言葉を選ぶように間を取ってから、「お前、何のために俺に告白したわけ?」
「…どういう意味で?」
「いや。お前、俺の事別に好きじゃないだろ」
これは意外だ。先輩が気付いているとは思ってもみなかった。
少し馬鹿だから。
「…お前、言うなら俺の事嫌いだろ」
「え、何でですか?」
「お前と話すとき、目が合ったこと一度もないし、言葉に棘があるし…」
「え、傷付いたんですか」
「んなわけあるか」先輩は恥じ入るように言う。
この先輩もしかして、私の事あまり嫌いじゃないのかな。いや、そんなわけないか。告白してあんな返しをする人間がそんなわけはない。先輩に恋愛じみた好意をもっていないことは確かだけれど、あの台詞は結構傷つくのだ。根に持っていた。
「そうじゃなくて、好きな相手にそんな態度とらないだろ、って話」
「なるほど」
「昨日、あんな言葉を放ったのはごめん。でも、ああいうのはやっぱり好きな相手にするべきだって思うんだわ」
「はあ」
「何を目的に俺にあんなことを言ったのかは知らないけれど、好きでもない相手にあんなこと言ってると、いずれ痛い目見るぜ?」
「はあ」
「…うまく刺さってないな」
「あ、いえ、そうじゃなくて」
先輩の裏の顔は、もっと性格の悪いものだと思っていた。好きじゃない女の子の告白なら、あんな返答をその場でしてしまうような、誠意のかけらもない人なのかと思っていたけれど、どうも私の為だったようだ。
これじゃあ、本当に良い人じゃないか。『人気者』は表の顔も裏の顔も同じなのだろうか。同じように優しく、同じように笑っているのだろうか。
相手の嫌な部分を見ながら、そんなことが可能なのだろうか。
「あの、先輩?」
「あ?」
「あの、私の事嫌いですか? 私の悪い部分って、どんなところですか?」
「……」先輩は思案顔になってから、「嫌いではない。悪い部分は、自分を縛っているところだろうか」
「自分を縛る…」身に覚えがなかった。私はいつでも自分に忠実に生きている筈だ。
「そうじゃない」先輩は言う。「例えばお前、部活の時、手抜いてるだろ」
「うお、ばれてた」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」先輩は笑ってから、「初めのうちは、お前はちゃんとやってたろ。でも、コンクールで予選敗退しから、手を抜くようになった」
「それは、まあ」確かに悪い部分だ。一度の失敗でやる気を無くすなんて、打たれ弱いにもほどがある。「でも、それは自分を縛るとは違う気がするのですけれど」
「お前は、やる気のあるお前を閉じ込めている」先輩は断定口調で言った。
「そんなこと、ないです」
「真面目にやってたお前は、お前の中に確かに存在するはずだが、お前はコンクールを境に縛って、閉じ込めた…反動を恐れて」
「……」
「部活以外にも、な」
「たとえば…」
たとえば、先輩を好きだって嘘を吐いて、自分を閉じ込めてしまった、ということか。
「相手が誰かは知らないが」先輩は優しい表情になった。「好きって気持ちは、まだ死んでないだろ」
その言葉は今の私に必要なものだったようで、深く私の中に滞留する。
もう一度だけ。
そんな思いが頭をかすめた。もう一度やったって、結果は解りきっている。断られた相手に何度同じことを言ったところで、答えが変わるとは思いにくい。まして、二日くらいしか経って無いのだ。たった二日で人の気持ちが簡単に変わるのなら、世界はしっちゃかめっちゃかになる。
だからきっと繰り返しになるだけだ。
しかしこのままにしたら、多分私は一生程、身動きが取れなくなる。今が千載一遇のチャンスのようだった。
「…怖いよ」
「頑張れ」
「簡単に言わないで下さいよ」
うっ、と涙がでた。人前で泣いたのは何年ぶりだろう。いや、最近では涙を流すこと自体少なかった。
「…まあ、もしも無理だったら、また俺に告白して来いよ。そしたら、また振ってやる」
「そこは受け止めるところでしょう…?」
「受け止めたら、その子を諦めることになるだろ。奮い立たせるための失恋だ。いくらでも振ってやる」
にこ、と先輩はいつもの笑顔で言った。
『人気者』の話を思いだした。私はどうやら勘違いをしていたようだ。人気者が得意とするのは見てみぬふりで相手に合わせることでは無く、相手のほしい言葉を言えることだったみたいだ。
先輩は私がどんな言葉を望んでいるか、解っていたのだろうか。超能力みたいな話だけれど、相手のことをよく見たら、あるいは可能なのかもしれない。
私はあの子のことを理解しているつもりだ。少なくとも、先輩が私のことを理解している以上には、あの子のことを解っているはず。
でも私には、どういう言葉で喜んでくれるのかが解らなかった。
きっと、『普通』だからだろう。
私のような『普通』には、小細工を抜きにして素直な言葉を投げかけるしか、道はないのかもしれない。
「やあやあ、おわったかね、お二人さん」
そんな声が聞こえて、誰かと思えば透明人間の少女だった。どうやら、どこかで盗み聞きしていたようで、終わったタイミングで出てきた。
「あ、えと、この子は」先輩に紹介しようとしたところで遮られる。
「大丈夫。知ってるやつだ。お前も知り合いだったんだな?」先輩が言って、驚いた表情で私と少女を交互に見た。
「まあね。今日の私の友達だ」少女は言ってから、「しかしながら、君も大人になったんだね」と先輩に笑いかけた。
しみじみと昔を懐かしむような口調だった。
「まあな。というか、もともと年齢差はあるだろ。敬語を使え」
「一、二年の違いは誤差のうちだよ。そんなので歳上面されても挨拶に困る」
「さいで…」先輩は呆れたように言った。
「そうだ、詩央ちゃん」少女は私に向き直って言った。
「え、あ、はい!」戸惑いつつも、返事をする。
というか、何で私の名前知っているんだろう。教えていないのに。しかしまあ、この少女ならどこからともなく情報を集めていそうだ。
「ありがとう。とっても、感謝してるよ」感情が溢れんばかりの表情で言った。
「どういたしまして…って、私何かしたっけ?」
「うん。大いに。とても助かったし、感謝してる。詩央ちゃんと友達になれてよかった」
ああ、そういう意味か。仲良いやつが出来たから体育の時間とか団体作る時に困らない、的な。確かに一人だとかなり困るもんな、あれ。そういう意味では確かに感謝されてしかるべきだ。まあ、お互い助かっているので私だけが感謝されるのはおかしいのだけれど。
「…頑張ってね」
「何の話?」
「失恋の話。世界はそれほど辛くはないよ」
「…うん」今その言葉をくれるのは、結構助かった。
これで、少しの迷いも消える。放課後、いや、放課後はもう帰ってしまっているだろうから、明日、もう一度告白しよう。
平凡な私の平凡な言葉を、素直にぶつけよう。
「良い返事、聞けるといいね」少女は言って、階段を下りて行く。
「ああ、ちょっと待って、あなたの名前も知りたい」私は引き留め、そう言った。
「だめ」少女はきっぱりと言う。「というか、無理。あって無いようなものだからさ。ごめんね、詩央ちゃん」
少女は言い残して、ご機嫌の体で帰って行った。
あの透明人間、まさか先輩と友達だったとは。まあ、まったくもって誰も知り合いがいない、とは言っていないけれど、なんか騙された気分だ。透明人間じゃないじゃん。先輩に認識されてんじゃん。いいんだけどね。良いんだけどさ。なんとなく、腑に落ちない。
しかしまあ。
友達が私だけじゃ無くて何よりだ。
「……」これからのことを考えて、少しだけ不安になった。
私はやっぱり、もう一度話題にすべきじゃないんだろう。だって、その子にもう一度断らせることになるし、私は私でまた落ち込むだろう。先輩に泣きついても良いけれど、柄じゃないし、何よりそれで悲しくなくなるわけはなかった。
『人生はそんなに辛くない』
少女の言葉が頭の中で反響して、少し気持ちが軽くなる。
直截的な言葉っていうのは、結構元気づけられるものだな。そういうの、逆にイラつく方だったのだけれど、言う人によるみたいだ。
そんな人間に私もなりたい 詩央
…自分で言って恥ずかしくなる。
「あ、しーちゃん。お帰り」音楽室を出たところで、弾んだ声を聞いて、少し俯いていた顔を前に向ける。
結だった。嬉しそうな顔で言う。
「あれ、どうしたのよ」私は驚くが、努めて冷静に言った。
「ああ、うん、いや…久しぶりに一緒に帰りたくって。待ってた」結は言いにくそうにしていた。「ほら、部活入ってからあんまり会う機会無かったから、さ」
「なるほど」それは嬉しいことだった。同時に、あまり乗り気になれない。しかしながら、せっかくの誘い断るのもなんなので、「嬉しい。一緒に帰ろっか」と笑う。
「うん!」結は力強く頷いた。
「……」
そのことが、また助長させる。
とはいえ、部活連中が一同に会するため校門や下駄箱付近は人でごった返している。その中に入って行くのは結も私も積極的では無かった。二人で話した結果、中庭で少し待とうという話になった。
中庭には、流石に人はいなかった。残っておしゃべりするやつらが何人かいるかと思っていたが、どうやらそんなやつらは私達だけみたいだ。
「見てたよー、部活。格好いいね、あれなに?」結が楽しそうに言う。それを見てほっと一息ついた。
「ああ、あれは……あれ、えっと、なんだっけ。なんかカタツムリみたい名前」
「え、えーっと、エスカルゴ」
「そのまんまだな」
「だってカタツムリっていうから…」
「あ、ホルンだ、ホルン」
「全然カタツムリっぽくない!」
「そだね。形だけだね。見掛け倒しだ」
「ホルンが不憫だ!」
「なんであんな形状にしたんだろ。理解不能だ」
「まあ、それを言ったらピアノもギターもよくわからないけれどね」
「まあ、そだね」
「でもさ、なんかしーちゃんのイメージじゃないよね、吹奏楽部って」
「ん、どういう?」
「いや、なんか厳しいし熱血だし、体育会系な感じ」
「私が…?」
「いや、吹奏楽部の方」
「ああ、なるほど。世間一般の印象はそんな感じなのか。私にはそんなイメージなかったんだよねー。だから入ってみたんだけど…思ってたのと違ってた」
「そっかー。でも続いてるよねー。すごい」
「そんな…私が飽き性みたいな」
「飽き性じゃん。一緒に行こうって言った水泳教室もすぐ辞めちゃうし」
「そんなこともあったね。まだ続けてんだっけ」
「うんまあ…おかげさまで」
「でも水泳部は入んなかったね」
「まあ、入ろうにも…プール無いし」
「え」
「え」
「…ないの?」
「気付いてなかったの!?」
「あー…通りでプールの授業が無いわけだ」
「なんだそりゃ…」ふふっ、と結は笑う。
「へへ」と私もつられて笑った。「でも、中学生の時は入ってたじゃん。高校でも入るって言ってたし」
「まあ、そーなんだけどさ…」
「なんでこんな高校に…」
「あー…えっとー」
「家から近いから、は無しね」
「えー…自分はそうのくせに」
「私がそうだからってのがあるよね」
「ずるい…」結は言ってから、「…しーちゃんがいたからだよ」
「…わお」
「しーちゃんがこの高校に進学するって言うから、プール無かったけど来たんだよ」
「ま、まあ…考えた末の理由づけだしね」
「いや、結構マジ。って言うか、言わなかったっけ?」
「聞いてない」私は言ってから、赤面を隠すため、顔を手で覆う。「…なんでこのタイミングで…」
「そういう会話の流れだったんだから仕方ないじゃんか…」
「そうだけどさ…」
「だけど?」
「うう…そういうこと言われると、忘れられなくなるんだけど」
「別に忘れなくてもいいよ」
「うわ…鬼かよ…」
「誤解を解こう」結は言って、私に向き直った。「私、しーちゃんの告白断ってないよ」
「…は? そんなわけあるか」
「いや、本人が言ってるのに…」
「だって、だって、告って、次の瞬間に背を向けて走り去られたら誰だって断られたと思うじゃん」
「それは…ごめん。いや、驚いちゃって」
「結は驚いたらその場から全力で走り去るんですか」
「いや…驚いたことがあまり無いから解らないけれど」
「じゃあ、今んとこ百パーセント走り去る人だね」
「うう…しーちゃんあたり強くない?」
「そりゃ、絶対に振られたシチュエーションにも拘らず真逆のことを言われたら困惑するでしょ」
「しーちゃんは困惑したらあたりが強くなるんですか」
「今んとこ百パーセントだね」
「ともかく」結は強い語調で言った。「私は、しーちゃんの告白断ってないから。…受けようと思ってるから」
「それは…」複雑な気分だった。もしも今言った言葉が有効だとしても、結のことだから、私との関係を壊したくなくてこう言っている可能性がある。そうだとしたら嫌だ。高望みかもしれないけど、それじゃあ意味がないのだ。
「だめ?」
「駄目って言うのもおかしいけど…」私は言ってから、さらに蹲るようにした。「何で今更。いやまあ、諦める気はさらさらなかったし…嬉しいけれど」
「いや、私だって告白された次の日に言おうと思ったよ。でもなんか…教室行ったら先輩に告白する算段立てているんだもの。言うに言えないというか、私のことは本気じゃなかったのかとか、からかわれてるのかとか…」
「なるほど…ごめんね…」先輩に告白すれば、何かが変わると思った。今結が言ったみたいに、結のことが本気じゃなくなったり、どうでも良くなったりして、告白する前みたいな関係に戻れるかと思った。けれど、そんなことはなかったし、先輩には振られるわ、結に誤解をさせてしまったわで、良いことなんかなかった。
本当に、信じて良いのだろうか。こんなにうまいこと事が運ぶはずがないことは、これまで生きてきて解っている。たかが十七年だけれど、それでも、望みが叶ったことなんてほとんどない。
まして、同性を好きになって、上手くいかないことの方がありえる話で、だから。
『人生はそんなに辛くない』
そこまで考えて、透明人間の言葉が頭をかすめる。
「いいの…かな」
「何が?」
「結のこと、信じて良いの?」
「しーちゃん、昔っから疑り深いところあるよね…」
「だって…」
「…キスでもする?」
「い、いやいやいやいや、まだ早い!」
「…でも、そうでもしないと信じないでしょ」
「いやまあ…」そうなのだけれど、キスはちょっと。いや、嫌ではないのだけれども。
「それとも、私のことなんかもう興味ないのかな」
「は? なんでさ」
「あの体育の時に一緒に居た子とよろしくやってんのかな」
「あの子は…そんなじゃないよ」
「…その言い回しはどうなの? ほんとによろしくやってんの?」
「ただの友達だって」
「私が声かけようとしたら逃げたくせに…」
「いやだって…なるたけ頭おかしい子とは関わらせたくないというか」
「私、頭おかしい?」
「結じゃなくて。体育の時一緒にいた子」
「…頭おかしい?」
「うん」
「…どういう?」
「突然大笑いして、罵ってきて、友達になれるらしい」
「…相当だね」
「…それを結が言うのはどうなの」
「…たしかに」
「話が逸れたね」私は言ってから、結の目を見て言う。「私は、結のことが好きです。ずっとまえから、大好きでした」
「は、はい」照れたような顔をで結は少し俯いた。
「だからえっと…願ってもないです」
赤面しているのが鏡をみなくても解った。それでも結が先に好きだと言ってくれたからか、それとも透明人間少女の言葉あったからか、妙な確信があって、昨日より真っ直ぐな言葉で言えたと思う。
「私も、だよ…!」
結がにこりとするのを確認すると、言いしれない幸福感が胸を満たした。
透明人間少女がいなければ、私と結はたぶんなにも無かっただろう。私は結を避け続けて、誤解は深まって、友人関係も成り立たなくなる。最悪の結果が待っていたと思う。彼女が元気づけてくれたから、勇気を出せたのだ。あ、あと先輩も。『口直し』に先輩を選んで良かった。
人生は辛くないってのは、なかなか良い言葉だと思う。まあ、語感は別にして、背中を押してくれるのは確かだろう。
次の日起きても、私はにやにやしていた。数年来の念願がかなったのだから当たり前だが、自分がこんなに色恋沙汰に右往左往するとは。
…疲れた。
疲れたけれど、しかしながらその嬉しさと胸の熱さは感じたことのないものだった。誠実に物事に向き合えば、こんな風になるのかもしれない。その感覚すらも正直言って疲れるけれど、嫌味なものでは無い。
最高の気分だった。
部活もこんなふうにちゃんと向き合えば、結果がどうあれ同じような気分になれるのだろうか。そうしてもっと好きになれたらいいな。
私は結とつかず離れずに登校して、今日も部活があったけれど一緒に帰ろうと誘われたので、結構上機嫌だった。
友達には、結の事正直に言った方が良い。それでもしも離れて行ったとしても、そんなこと些細なことのように思える。
一人は、確実にキープしているわけだし。
あ、とクラスに入るとその一人が目に入った。
「あ、ねえ」首尾をを報告して、お礼でもしようかと声を掛けた。
のだけど。
「はあ?」少女は鋭い目でこちらを向いた。
「え、あの、昨日、のことなんですが…」私は怯んで尻すぼみになった。
不機嫌なのかな。いや、でも昨日最後に会った時結構機嫌よかったし、それに、機嫌という次元では無く雰囲気が全く違っていた。
「昨日…ねえ」うんざりした顔で、ため息交じりに言った。「昨日のことなんて、私は知らない。あなたが何者か知らないけれど、もう話しかけないでもらえると有難いよ」言って、少女は文庫本を読みだした。
本ガードや…。完全に喋らない気だな。
「あ、あの、私何かした? なんで、そんなこと…」
「うるさいな」少女は顔を動かさずに言った。「あなたには悪いけれど、知らないものは知らない。そして興味がない。あっち行って」
「……」
えー…。
私は黙って、自分の席に座った。
透明人間のためのオブリガード 成澤 柊真 @youshi
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