銀龍ドライト外伝 まんじゅう怖い




「はぁ……今日も美味しくできたな……」


僕はそうつぶやくと手に取ったまんじゅうをすべて食べ、蒸し器の蓋をする。


僕の名前はノル、由緒正しいマイアンス伯爵家の嫡男“だった”。

今は絶縁され屋敷からも追い出され、手切れ金で始めたまんじゅう屋でなんとか生活している平民だ。


何故こんなことになったのかと言うと、成人の日に授かったスキルと職業だった。


僕の家だったマイアンス伯爵家は代々優秀な魔法使いを産み出すことで有名で、大魔導師や賢者等も産み出したこともある、王国が創建されたときから続く由緒ある家だった。


そしてそんな家に生まれた僕は、5歳の時には上級魔法を使いこなせる将来を羨望されたエリートだった。


同じ伯爵家の幼馴染みや、王家に連なる公爵家の許嫁と楽しく育ち、将来が約束された存在だった。


それが崩れたのがさっきも言った成人の日、自分に授かったスキルと職業が原因だった。




15歳になった成人の日、聖職者の前に誇らしく立ち、皆の羨望と家族の期待を受けながら神々から授かったのは……まんじゅうの作り手という職業と、調理(まんじゅう特化)のスキルだった。


この結果をみた当主の父さんは激怒し、僕を家から追い出し側室に産ませた子を嫡男としたのだった。


家族仲は悪くないと思っていた僕だったが、絶縁と追放を言ったときの父さん、マイアンス伯爵の目と家から追い出すように家来に言った弟だった人の残酷な目はいまだに思い出すだけで寒気がする。


母さんと妹だった人の蔑んだ目を思い出すたびに悲しくなる。


公爵家の許嫁と伯爵家の幼馴染みの無関心な視線で、自分の価値は何なのだったのか分からなくなる。


そんな発狂しそうな目にあいながらも、僕は生きることを願った。

何故かというと、フラフラとあてどなく歩きついた貧民街で父も母も兄弟もいなく、それでもたくましく生きている孤児達を見て僕は何の苦労もなく育ったのだから何て幸せなのだろうと思ったからだ。


何にしろそこで手切れ金として渡された金貨10枚を使い、小さな家を持ち屋台を作り神々に授かった職業で生きていこうと決めたのだ。


そしてあれから3年、僕は18となり美味しいと話題にあがるまんじゅう屋として生きていた。


そんな僕がまんじゅうを作り味見をしてなぜため息をついているのかというと、2、3日前にいつも屋台をだしている広場でマイアンス家の家来を見かけたからだ。

その家来は新しく嫡男となった弟の家来だったので、何かしら仕掛けてくるのでないかと思ったからだ。


なぜそう思うのかというと僕が屋台をだしている広場に、マイアンス家ほど由緒ある貴族が来る理由はなくどこかで僕のことを聞いて弟が様子を見てくるように命じたとしか思えなかったからだ。


「はぁ……美味しくできたのに、憂鬱だなぁ。」


またため息をついていると、隣から心配するように声がかけられる。


「何をため息ばかりついてるのよ、幸せが逃げるわよ?」


そう声をかけてきたのは半年前に結婚したリルだった。


貧民街で屋台を始めるときに雇った孤児で、広場で飢え死に仕掛けてたのをみかねてまんじゅうをあげたら、押しかけ店員としてやって来てあっという間に僕の貞操を奪ったやり手の女の子だ、色んな意味で。


赤茶色の髪にソバカスの残る美人や美少女ではないが、愛嬌のある彼女に色々奪われ奪い、押しに負けたのといつの間にか彼女を目で追っている自分に気がつきプロポーションして結婚したのだ。


ちなみに15歳だけと、この世界では犯罪じゃないよ。

3年前も陰口を言われるぐらいのものさ!


誰に言い訳してるのか分からないけど彼女に心配させるのもあれだし、ただのまんじゅう屋台の亭主の僕にわざわざちょっかいもかけてこないだろ、最近結婚した相手と子供が出来たって噂を聞いたしね。


そう思った僕は無理矢理笑みを作りリルに言う。


「いや、まんじゅうは美味しいし、奥さんは可愛くて働き者だし、こんなに幸せでいいのかな?そう思ったらため息が出ちゃって。」


「バ、バカ!……私もかっこいい旦那様にもらえて幸せ……だけど。」


真っ赤になりながら嬉しそうにそう言う彼女だったが、最後にそう言いよどむ。

何かあったのかとリルの顔をのぞき込むと、彼女は顔をますます赤くしながらうつむき言った。


「……子供がいたらもっと幸せ、だから今夜も頑張ってね、旦那様。」




今日は家を出る時間が30分遅れた、でもそれは仕方がないことだと思う。




「おはようございます。」


「はいおはようさん! 今日は少し遅かったね、夫婦仲が良いのは良いことだけど、頑張りすぎないようにね!」


いつも隣で八百屋のおばちゃんにそう挨拶をされ、真っ赤になる僕とリル。

真っ赤になりながらも僕は何時も通りに八百屋の露店に並ぶ野菜を見て、何種類かを買うとリルと引いてきた屋台の側に置き荷台から包丁等の料理道具を取り出し野菜を切る準備をする。


そして屋台の方に向かうと蒸し器に昨日に作っておき、1日寝かせたまんじゅうのタネを並べていく。


「ノル、うちは今日は肉まんを5個に餡まんを2つ頼むよ。」


「はーい、できたら持っていきますね。」


おばちゃんの注文を受けてタネに肉と野菜の餡や、小豆の餡を入れると蒸し器に火を入れて次々と蒸していく、そしてできあった頃には昼前になっており八百屋のおばちゃんの旦那や子供達が戻ってきていた。


「お待たせ、こっちが肉まんでこっちが餡まんだよ!」


「お、今日も美味そうだな!」


「バカあんた、美味そうだなじゃなく美味しいんだよ!」


「あだ!? 母ちゃんいてえよ。」


「「「ハハハ!」」」


彼等は農民で、朝に採れた野菜を週に2日売りに来ていた。

そしてその野菜をノルが買いまんじゅうの具として使い、彼等はたまの贅沢としてノルからまんじゅうを買っているのだ。


ちなみに別の4日間は狩人や冒険者が動物や魔物の肉を売りにくる、広場には他にも生活雑貨等を売る商人などがそれぞれに露店を開いていて、ノルはそれらの人々を目当てにここで露店を開いていたのだ。




そしてみながまんじゅうを食べ終わると、おばちゃんは自分の露店に戻りその旦那は子供達が取ってきたお得意先の注文書をチェックし始める。


「おい、なんだこの少なさは? お前らサボってたのか?」


するとチェックをしていた旦那が子供達を叱り始めた、前に頼まれた物を配達するのは父親と長男だが、お得意先等から注文を取るのはまだ幼い弟と妹の仕事だったからだ。


「あ、忘れてた父ちゃん、注文を取るのは午後か今度がいいよ!」


「はぁ? お前らサボりたいからってそんなことを言うのか!」


サボって仕事をしなかったと思った父親が怒鳴り付けると、弟は半泣きで説明して、妹はギャン泣きで母親の元に走り抱きつく。


「ち、違うんだって父ちゃん、何時も通り俺達はアルパーニさんのレストランに行ったんだ、そしたらアルパーニさんに言われたんだ。

すぐに広場の母ちゃんの所に行け、注文回りは午後にするか親父さんにやらせろって。」


「はぁ? なんだってまたそんなことを言われたんだ?」


疑問に思った父親がそう聞き、近くにやって来たおばちゃんや他の人達も弟を見る。


「それが貧民街に貴族が馬車で来てるらしいんだよ、しかも騎士を20騎位連れてるんだって。」


「ほ、本当か!? それなら仕方ない、それより他の奴等で子供が帰ってきてないところは有るか!」


「ほらあんたもこっちに来な、通りに出るんじゃないよ!」


「お、おいうちの子は帰ってるか!?」


「ちょっと通りを見てくる!」


おばちゃんは慌てて弟と長男を自分のところに呼び、近くで聞いていた人達も慌てて自分の子を読んだり探したりして、子供を確認し始める。

何故こんなに慌て始めたのかと言うと、貧民街では子供がよく貴族の馬車や護衛の騎馬に跳ねられるからだ。

この世界では貴族と一般人、貧民層では絶対的な階級格差があり、跳ね殺されても貧民は文句さえ言えないからだった、それがたとえわざとであっても。




そしてノルとリルはそんな周りの人々を見て不安げに顔を見合わせると、通りに面した広場からざわめきが起こる。


「な、なに?」


「あれは……マイアンス家の紋章だ!」


ノルが恐れていた事が起きた、自分が元貴族と周りの人達には親しい人以外に教えていないが、それでも噂などで広まっており広場にいる人達の視線が自分に向かっているのも気がつく。


リルも不安げに僕の腕にしがみつきこちらと近づいてくる馬車を見比べていた。


「リル、ちょっと離れているんだ。」


「い、嫌よ。私はあなたの奥さんなんだから!」


リルは僕の事が心配なようで、腕にしがみつき離れようとしなかったが八百屋のおばちゃんが来て引き離しくれた、それと同時に馬車は僕の前に止まると扉が開き1人の男と3人の女性が降りてきた。


男は予想していたが、3人の女性を全員連れてきたことには予想外だったので、驚いていると男がニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。


「久しぶりだなノルトランド、職業をいかしてまんじゅう屋か、お似合いだぞ!」


「エイヒ様、これが面白いものですか?」


「貧民を見ても面白もなんともないです。」


「エイヒ、エイリルとハリにこんな悪い空気を吸わせるのはどうかと思うわ。」


最初に話しかけてきたのは僕の腹違いの弟のエイヒ、次が公爵家の長女で僕の婚約者だったエイリル、次が妹のハリ、最後が僕の幼馴染みの伯爵家のマナナだった。


弟は僕を笑いながら、3人は視界にすら入らないのかスカートの裾が汚れないかを気にしながらこちらにやって来る。


「おい、呼んでるんだから返事をしろよノルトランド。」


「……エイヒ様、私は庶民のノルともうします。

ノルトランドの名はすでに私にはありません。」


「ぶはは! そうだったな貧民のノル君、すまなかった!」


僕の言葉に大笑いしながらそう言うエイヒだったが、エイリル達は顔をしかめてエイヒを注意する。


「あなた、貧民に君など付けないでください。」


「そうですわお兄様、それにこんなに汚いところに来て見るのが不良品だなんて……面白くもなんともないですわ。」


「あーあ、面白いもの見せてくれるって言うから来たけど、見れたのは出来損ないの顔とか、エイヒ、早く他に行こうよ。」


3人はこちらを見もせずにそう言って、エイヒの腕をとったりして気を引いている。


ああ……コイツらは僕をバカにするためだけにここに来たのか。


そう考えた僕は、土下座でもすれば帰るかなぁ? そう思い始めていたが、突然に広場の入り口から響いてきた声にその考えは遮られた。




「あ、ここですここです、この広場ですよ!」


その声はまるで天使の歌声のように美しく広場に響いた、思わず僕やリルにエイヒ達もそちらを見ると、そこには金糸のような髪を頭の両脇で結んだ信じられないほど美しい少女が広場の入り口に立っていた。


「ええっと……あ、こちらのお店かしら?」


そしてその美少女がノルの店に近づいてくると、エイヒが嗜虐的な笑みを見せてその進路をふさぎ言う。


「おい女、俺の側室にしてやる、感謝しろ!」


その言葉に美少女はキョトンとしてから、何かを言おうとしたが、広場に新たにやって来た人達に気がつき振り向き呼び始めた。


「みなさん、こっちです。 こっちですよ、ちょうど蒸しあがるようですよ。」


エイヒは無視された事に激怒するが、美少女が呼んでいる者達を見てアゴが外れんばかり口を開き呆然となる。

そこには目の前に美少女と同等の少女達と……それらの少女達が霞むほど美しい女性が6人も居たからだ。


18位の女性から8歳位の双子と思える瓜二つ、いや、違いが目の色以外に見つからない少女達がこちらにやって来る。


そしてリルも呆然としている自分の隣にくると、拗ねたようにノルの腕をツネってきたがノルはそれに反応を示さずにリルを突然に抱きしめると、リルの耳元で「絶対に彼女達に逆らわないようにみんなに言え。」と言い、八百屋おばちゃんの方に押し出した。


驚きながらおばちゃんの方に駆け出すリルを見向きもせず、誰にも聞かれないような小さな声でつぶやくのだった。




「人じゃ、ない……」




「ここがそうなの?」


「お姉さま、凄くいい匂いがしますわ、間違いないのでわ?」


「ダーリンおすすめのまんじゅうかぁ! 食うぞぉ!」


「……飲み物も……良いものが欲しい。」


18から15歳位の4人は食べる気まんまんで周りを気にせずノルの元にやって来る、他の少女達はその4人と一番幼い双子を守るように周りを囲みやって来る。


『う、うちの店にくる……何だあれ!?』


自分の名前とまんじゅうの単語を言いこちらにやって来るので、自分の屋台に来たことを理解したノルだったが、双子が揉めはじめてそちらを見た瞬間に今まで以上に全身を悪寒が走った。


「ねぇルチル、着いたのだから交代して。」


「ダメよステラ、交代するのは帰るときよ。」


「それなら食事の時間も抱っこできることになるわ、そんなのずるいわよ。」


「私が勝ったのだから当然の権利よ。」


どうやらその双子は片方が抱っこしている銀色のドラゴンの人形を、どちらが持つかで揉めているようだ。


そしてノルはそんな双子ーーーではなく、その手に抱かれたドラゴンの人形が一番危険だと直感したのだった。




「……おい、こいつダーリンに気がついたぞ?」


「あらほんと、なかなかの感の鋭さだわ。」


「……大賢者? ……こいつ変。」


「こらアンジェさん、いきなり初めてあった人に何て事を言うのですか!

……あら?この世界では適正職業を教えれるはずですけど、何で大賢者が2番手になってるのかしら?」


ノルが双子とドラゴンの人形に注意を向けていると、いつの間にか4人の人のような女性達も自分の前に来て不思議なことを言い出した。

それと同時にエイヒも再稼働したようで、怒りの表情でこちらに来る。


「おい貴様ら! この伯爵家の跡取り足る私を無視するとは何事だ、お前らは罰として……!?」


エイヒは喋られなくなった、何故なら口が無くなったからだ。

そして魔導師風の服を着た少女が覚めた目でチラッと見るとノルの方に向き直り、


「お兄さん、肉まんと餡まんを人数分づつくださいな。」


そう平然と言ってくる。


「リティアちゃん、あまり可哀想なことは……」


「キャロちゃん、ちゃんと鼻は残してあげましたから、鼻の穴で呼吸をしてれば生きられますわ、多分。」


「ププ、多分って、そいつビビって漏らしたよ。」


2人の会話に笑いながら入ったのは盗賊や斥候風の装備を身につけた猫系の獣人の少女だった、そしてその言葉通りにエイヒは股間を濡らしていた。


ちなみにエイヒの護衛やエイリル達はその光景を見て相手が超常の存在だと気がついたようで真っ青になってこちらの様子をうかがっている。


「リティア、キャロちゃん、セイネさんも今はそんなことよりもこの店主さんですわ。」


「そう言えば変だと言ってましたね、サルファ様、アンジェ様なにか問題があるのですか?」


「……この人……大賢者の素質がある……のにまんじゅうの作り手。」


「なのに何でまんじゅうなのかしら?」


猫耳セイネにアンジェとサルファが答えると、残りの2人、シリカとリアもノルを見つめる、それを見て慌ててリルがやって来てまるでノルを守るようにシリカ達に背を向け胸に抱きつく。


シリカとサルファとアンジェは無視したが、リアがにらんだ後にハッとしてからリルの側に行くとニコニコと笑いながらリルの頭をなで始める、ちなみに双子は人形を左右から引っ張って取り合っている、そのため人形は横に3メートル位のびているがみんな気にしていない。




「あ、あの……私の嫁がなにか?」


ノルはリアの態度が気になり質問するが、シリカ達に無視されてしまう。

するとリアの隣に立っていた少女が前に出て説明をしてくれる。


「あなたの奥さんは職業適正が精霊の巫女でスキルは精霊魔法なの、さらに火の精霊王の加護を持っているのよ、だから火を愛するリア様が可愛くなって撫でてるわけ、オマケに加護を贈った火の精霊王ったら、勝てないなと分かっているのにリア様とリルさんの間に立ったからそれも合わせて両方が愛おしくて仕方なくなちゃったのよ。」


「リ、リルは精霊の巫女を!?」


リアの横に立ちリルを羨ましそうに見る少女、アレナムの説明を聞き驚愕する面々、何故なら精霊の巫女という職業を得たなら普通は国で厳重に保護され、見守られるほど貴重な職業だからだ。


「まぁ、貧民は教会で職業の“鑑定”なんて受けられないだろうから、分からなかったんでしょうね……リ、リア様、みんな見てます!」


説明したアレナムをリアが「さすが私のアレナムだ!」と言って頭を撫で始めたらアレナムは照れまくっているが、手を振り払うことも避けることもせずに嬉しそうに撫でられている。


「そっちはいいとしてこの子のことよ、なんで職業がまんじゅうなのかよ。

ドライト、どう言うことなのか説明してよ……ドライト!」


「シリカお姉様、旦那様は人形のフリをし続けるつもりみたいですわ。」


サルファの言葉にシリカはプルプルと怒りに震えながらゲンコツを落とそうとするが、アンジェがそれを遮り言う。


「……夫には……こっちの方が良い。」


そう言うとアンジェはスゥーっと優しく撫でた……ドライトの股間を。




「キャー! 何て事をするんですか!

エッチです、エッチですよ!」


「よし、何故なのか答えなさい。」


「そんなことよりも今のタッチ「いいから教えなさい。」……ノル君の職業適正は大賢者よりもまんじゅうの作り手の方が高いですね、だからですよ。」


股間を触られた人形―――ドライトは突然に動き話し始める、ノル達みなが驚くがシリカ達は平然と答えろと聞くとドライトはしぶしぶ話し始める。

その内容に自分に賢者の適正が有ると喜びかけたノルだったが、まんじゅうの作り手の方が適正が高いと聞きやっぱりかと思いかけたが、シリカがそんなことは分かっていると言う。


「そんなことは分かっているわ、私が知りたいのは上位職の大賢者が1番に出なくてなんでまんじゅうが出ているかよ。」


「そうですわよね、たとえまんじゅうの作り手の方が適正が高くても、上位職の方が上にくるはずですから鑑定などで出るのは大賢者のはずですわ。」


「……不思議。」


「そりゃ設定ミスしてるからですよ、適正が高いのを優先するようになってますからまんじゅうが出ているんです、管理している神のせいですね。」


ドライトの言葉に驚く広場の面々、だがシリカはこみかみを押さえながら言う。


「ここを管理しているのはマリリルナよね、ちょっと呼び出してみましょう。」


シリカはそう言うと目をつむる、そして10秒ほどで目を開くとシリカの目の前の空間が歪み、マリリルナがやって来た。


「シリカさん、なんか用?」


「なんか用? じゃないわよ、これ設定が間違えてるわよ。」


「へ? ……げ!本当だわ、だからノル君が追い出されたのか!」


「どうするの? 設定をしなおして伯爵家にもど「絶対に反対! リルを哀しませるなんて反対だからな!」リア……あなたわがまま言わないでよ。」


「だってリルはどうなるんだよ! 可哀想だろ!」


「いえ、この世界の発展のためにはノル君の力は必要なはずよ、そうよねマリリルナ?」


「……うん、なんか必要な気がしてきた!」


「マリリルナさん、あなた深く考えてなかったでしょ。」


サルファの突っ込みに目をそらす女神。

劣性なのを悟ってリアはいまだにステラとルチルに両側から引っ張られているドライトにすがりつく。


「ダーリン、ダーリンからも言ってやってくれよ、伯爵家に戻されたらリルと別れさせられちゃうよ!

こんなに仲の良い夫婦にそれは酷だし、リルが可哀想だろ!」


すがりつかれたドライトは1度、目を閉じてから一歩踏み出そうとして拘束されているので無理なのを思いだし、その場のみなに宣言する!




「とりあえず、肉まんを100個ください。」




「あなたね、肉まんのことは一時忘れて、ノル君の事をどうするか考えなさいな!

あら、これ本当に美味しい。」


ドライトはまんじゅうを諦めていなかった、そして要求した肉まんはドライト以外のみんなに食われていく。


「要らないなら私に、私に食べさせるのです!

私の肉まんです、餡まんです、ピザまん……はありませんでした!」


ドライトは拘束されているために肉まんが食べれずにいた、そこにあの男が復活してやって来る。


「ふざけるなよ貴様ら!」


「エイヒ、止めろ!」


いつの間にか口が元に戻ったエイヒがやって来て、ノルが止めるのも聞かずに屋台を蹴り倒したのだ!


「この伯爵家の後継ぎにして偉大な大魔……へ?」


だがその結果が招いたのは、恐ろしいものだった。


「よくも……よくも私の肉まんを……まだ食べていなかったのに!」


地面に散らばった肉まんに餡まんを悲しそうに見つめる銀色の龍、だがその姿は先程までの可愛らし1メートルほどの姿ではなく、20メートルを優に越える本性を現していた!


そして先程まで左右で拘束していたステラとルチルも、1メートルほどの龍の姿になりドライトの腕に嬉しそうに抱きついている。


そして他に止められそうなシリカ達はドライトの姿をポーッと頬を染めながら見ていて、マリリルナは凄い凄いとはしゃいでいる。


「愚かな大魔導師とやら、ワレの力を見よ!」


そしてドライトがそう叫ぶと、世界が暗転して光に包まれた。

大地が無くなったかと思うと次の瞬間には海の上に立ち、周りに草花が咲き大樹となり朽ち果て鳥が舞うように飛んだかと思うと消えていく、有があるかと思うも無になり自信も無になったかと思うと次の瞬間には胎児になっていると知覚する、いまここは世界が生まれ滅ぶということが一瞬で起きていたのだ。


それを見て感じ、恐怖する人々にたいしてシリカ達はますますポーッとドライトを見ていたが、アンジェが突然につぶやいた。


「……夫、あれやって……ウルトラブレス。」


「それは良いわね!」


「旦那様の力を見せてくださいませ!」


「ダーリンのスペシャルブレス……前のときは幾つかの世界が滅んだっけ?」


「にーちゃ、やってやって!」


「やってやって、にーちゃ!」


シリカ達はやれやれとはしゃぐが、その話しのなかに恐ろしい言葉が含まれていたことにノルは真っ青になる。


「フハハハ、我がウルトラブレスを見るが良い!」


信じられないほどに力を放出し始めるドライト、その力にノル達はもはや気絶寸前だがエイヒだけがこんな手品には騙されん!っと騒いでいる。


そんなエイヒにエイリルや護衛の騎士達はこいつ何言ってやがるの!?っと、睨みつけているがエイヒはそれすら気がつかずにいる。


「敵も的も無いけど食らえ!ウルトラブレス!」


ドライトがそう叫ぶと……口からスペシウム光線ソックリのブレスが放たれた。

見る人が見ればウルトラってそっちかよ!っと突っ込みを入れること間違いなしのブレスによって、サクッとこの世界と隣接している複数の世界が消滅した。




「サクッと消滅したじゃないでしょ!

強く凛々しくて素敵だけどやって良いことと悪いことがあります、すぐに世界を復活させなさい!」




ああ……風の音もリルの気配も……あれ?感じられるな?


「ノル、ノル目を覚まして!」


「あ、あれ? 自分は死んで、世界は滅んだんじゃ……?」


「ノル!」


リルの声に目を覚ますと、リルは涙を浮かべながら抱きついてくる。

リルの感触を感じながらもしかして全て夢だったのかと考え始めるが、すぐそこから聞こえてきた声で現実だったと思い知らされる。


「いや、滅んだんじゃなく消滅したんですよ、まあすぐに元に戻しましたが。」


「やっぱりいたぁ!」


嫌な予感はしていたが、銀龍ドライトとその御一行様がしっかりといた。

ただ美しい女性とやはり美しい偉丈夫が増えている。


「いやはや、まんじゅうが食べられなくなった悲しさのあまりにウルトラブレスを放ってしまいました。

眩しかったでしょう? すいませんでしたね。」


「え、消滅したんじゃ?」


「そうとも言います、まぁ私のせいではなく大魔導師さんのせいなんですがね!」


ドライトがそう言うと、チラリとエイヒの方を見る。

そこにはエイリル達や護衛の騎士達に押さえ込まれているエイヒが居た、そして視界のはしに広場に入ってくる近衛騎士がいて王家の紋章の入った馬車がかなりの速度でやって来るのが見えた。


慌てて土下座をするノルや広場の人達、エイリル達や護衛の騎士達はカーテシーや敬礼をして待つ、エイヒだけは解放されたのでこのクズ共を捕らえて殺せ!っとわめいている。


「国王陛下と王女様のおみえだ、控えろ!」


近衛騎士の叫びで慌てて広場の人々が頭を下げ土下座をする、マリリルナ様達は平然と立って……ドライト様も土下座してるけど大丈夫なのか?


そう思っていたら馬車から昔見たときと変わらない国王陛下と王女殿下が降りてきた。


「ここで大規模な魔力暴走があったと観測された、さらに娘が言うにはマリリルナ様が降臨されていると言うが何処に居られる!」


「お父様、あちらにいらっしゃいます!」


マリリルナさまを見た2人が慌てて駆け寄る、ドライト様の前を素通りして。

それを見て僕はヤバい!っと思いお二人の前に出て止めようとするが、近衛騎士に捕まってしまう。


「へ、陛下! おひさしぶりです、ノルトランドです!

大事なお話がありますので少しだけお時間を!」


「貴様はノルトランドを名乗るな!

陛下、この者達は神を名乗る背信者です、捕まえて処刑しましょう!」


押さえ込まれながらもそう言うノルを蹴りながらエイヒはそう言うが、王女がギョッとしながらノルと土下座をするドライトを見て口をパクパクさせている。


「クシス、どうしたんのだ、マリリルナ様の所に早くいかねば!」


王に呼ばれたクシス王女だが、マリリルナとその周りにいる面々を見てまたギョッとしたが意を決してドライトの元に行くとひざまずき話しかける。


「高貴なお方よ、私達などに頭を下げないでください、これ以上に我等の罪を増やすわけにはいきません。」


「高貴なお方さん、呼ばれてますよ!」


クシス王女の言葉にそう言って回りを見るドライトだったが、シリカの一言にしぶしぶ飛び上がる。


「ドライト、この娘の職業適正は姫巫女よ、さっきの騒ぎがあなたのせいだって気がついてるわ。」


「うーん、もう少し楽しめると思ったのですが、バレたなら仕方ありませんね。」


そう言ってパタパタと飛び回るドライト、屋台や出店を見て回ろうとしてマリリルナに捕まり国王とクシス王女の前に連れていかれる。




「マリリルナ様、それにドライト様、いったい何があったのですか?

もしおきに召さないことがあったのなら、我等に命じてくださいませ、身命をとして事にあたらさせていただきます!」


クシス王女の剣幕に何かあると感じ取った国王もその隣で頭を垂れ、静かにドライトの言葉を待つ。


「いや美味しいまんじゅうを食べに来たらそこの適正3の大魔導師さんに邪魔されて、食べ損なったんでちょっと力を披露しただけなんですよ。

本当にまんじゅうって怖いですね!」


「おう、そんなことで世界を滅ぼしたり再構築してみたりするダーリンの方が怖いって、ここに居る大体の人が思ってるぜ!」


「……次はキンキンに冷えたジャスミン茶が怖いですよ?」


「……それは……怖い。」


リアの指摘にドライトが答えると、アンジェはセイネに冷えたジャスミン茶を出させて飲みながら恐怖に震える!


「それよりもドライト、適正が3でなんでこれは大魔導師なの?」


シリカがそれを無視してエイヒを指差し、これ扱いしながら聞くとドライトがマリリルナの頭にしがみつき説明を始める。


「そりゃ人には色々な可能性が有るからですよ、例えばノル君だって大賢者35以外にも適正を持っています。

ちなみにまんじゅうの作り手は36ですが……それ以外に他の職業適正があって、数値が高いのが表示されるようになっているんですよ。」


「そしてそれを私が設定ミスして、上位職だろうがなんだろうが無視して適正値が高いのだけが表示されるようになっていたのよ!」


「威張って言わないでほしいですわ……それで旦那様、なんでこれは3で大魔導師と表示されてるのですか?」


「シリカにサルファ、エイヒさんはこれはこれでレアなんですからこれ呼ばわりは……まぁ要するに他の適正値が2と1ばかりなんですよ、ちなみに3の適正値なら誤差の範囲です!」


ドライトの説明に納得する龍達とマリリルナ、だが真っ青になりながらクシス王女が質問をしてくる。


「あ、あの! それならノル、ノルトランド様の適正値はどうなんですか!?」


クシス王女の質問に顔を見合わせるドライトとマリリルナ。


「確かこの国を建国したの英雄さんが剣士と統率者が13と15でしたっけ?」


「そうそう、それで聖者と呼ばれて私の聖地に大聖堂を造ったのが過去最高で、大賢者の21だったわ……おお! やったねノル君、最高値を大幅更新だ!」


「えっと、まんじゅうの作り手と大賢者以外も高いですね、軍神を15に統率者が14ですか?

これノル君が1人いればこの世界を征服出来るんじゃないですか?」


ドライトとマリリルナの言葉に真っ青になり始める国王やクシス王女、それにエイリル達や護衛の騎士達。

何故ならノルトランド、ノルが家から追放されている経緯を知っていたからだ。




「ク、クシス、お前はノルトランド殿の事をどう思っている?」


「お父様、どう思っていると言われても……ま、まさか!?」


「職業適正はある程度は子や孫に引き継がれる、ならば王族に引き込むのは当たり前だろう?」


「そ、それは……」


国王の提案にノルを見るクシス王女、正直に言うと顔は好みだし昔から性格のよさと魔法等の知識と腕は知っていた、なのでハッキリと答える。


「私、ノルトランド様のお嫁さんになります!」


「おお、そうかそうか! さっそくノルトランドに……うお!?」


国王がノルを呼ぼうと視線を向けると、話を聞いていて顔を青ざめたノルとリル、そして怒って本性を露にしたリアがいた。

その姿は真っ赤な紅色の体長20メートルほどのドラゴンだった、しかも怒りに周りのオーラをバンバン出している。


「てめぇら、リルが哀しむようなことをよくも言ったな!」


その怒りのオーラに、まるで身を焼かれているような感覚にとらわれる面々だったが、ドライトがそんなリアの目の前に飛んでいくと叫ぶ。


「ヤバタニエン!」


するとリアの怒りのオーラは霧散して、リアはドライトと同じくらいに縮む。


「何すんだよダーリン!」


「リルさんは悲しいのではなく、リアが怖くて青ざめているのです。」


「そ、そうなのか?」


「もちろん嘘ですが、何にしろリアがこの世界を壊したらまた私が再構築するはめになるんで、止めてください。」


「そ、そうか、ダーリンにも迷惑……今嘘って言ったよね!?」


「リアが混乱しているうちに言いますが、ノル君とリルさんに変な事をすると私やリアが黙っていませんよ?

と言うか、マリリルナさんは元より他の神々も黙ってきません、見てみてください?」


ドライトの言葉に国王だけでなく、クシス王女やエイヒにエイリル達もドライトの指差した方を見ると、そこにはドライトの愉快な仲間達が居た。


「こりゃ良い匂いだ!」


「やっぱりグルメ同盟に参加したのは間違いなかったわ、こういう情報が秘匿されないからね!」


「ほんにのう、他の屋台もなかなか良さそうじゃし、こりゃ抑えとおかんとじゃ。」


神々しい姿の神々が次々と現れていつの間にか復活したノルの屋台に並んでいた。


「これでもしノル君のまんじゅうが食べられなかったら……まんじゅうって、本当に怖いですよね!」




この後、並んでいた神々と先に注文をしていたドライトと、どちらが先に食べるかでもめたり。


ノルとよりを戻そうとした元婚約者や幼馴染みに、妹から報告を聞いたマイアンス伯爵が家に戻らせようとしたり、それをクシス王女が助けてくれたりと色々とあったが、それはまた別のお話なし。




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転生龍の諸国漫遊記! バリ君 @barekun

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