今、思い出す危機。




「あ、あなた方は……ちょっと待ってくださいね? ここまで出かかってるんですよ。」


そう言うとドライトは自分の足首を指し示した。


「それは完全に思い出す気がないと言うのよ。」


「いや、本当に出かかって……あ! あなたは香織さん、有城香織さんじゃないですか!」


セレナの言葉にドライトはもう一度考えると、自分達の前に出てきた女性が以前に異世界転移で色々とドライトがお世話した高校教師の有城 香織だった。


「いや、お世話したってより迷惑をかけただろ?」


ディアンがドライトの心を読んで訂正すると、ドライトは手足をバタつかせてから言う。


「フゥ……それで香織さんはなんでこんなところに? 他の皆さんもいらっしゃるようですが、ここはアルレニアの外れで何にもありませんよ?」


「ドライト、さっきもシリカちゃんが言ったじゃない、賢者や聖女に召喚してもらおうって。」


「ってか、今のジタバタはなんだ?」


「今の私の華麗なタップダンスに魅了されて、皆が余計なことを忘れたはずです。

それはそれとして、なるほど、香織さんに私を召喚させたんですね……久しぶりなんで香織さんだと気づきませんでしたよ、やれやれです。」


ディアンの質問に答えると、ドライトはやれやれと言いながらリヴィアサンの手から抜け出す。


「だから逃げないの!」


「ぐえぇぇ!?」


そして直ぐに捕まった。




「あ! 旦那様だわ!」


「本当にガッツリ捕まってる。」


「……このチャンスに……夫の宝物庫を漁ろう。」


そしてドライトが何とか逃げ出そうとしていると、シリカが連絡したのかサルファ、カーネリア、アンジュラが眷族を連れてやって来てしまう。


「旦那様、リティアに聞きましたわよ、この召喚の魔石を作ったのは、旦那様だそうじゃないですか!」


「……はぁ?」


「……ドライト、詳しくお話ししてもらいましょうか?」


「ふぉ!? 母様が怒ってます、久しぶりに本気で怒ってますよ!?」


サルファの言葉に、ドライトは心底に何を言ってるのか分からないと、反応するが。

セレナは辺りが静まり返るほどに怒ってドライトにどう言うことなのか説明しろと言ってくる。


「リヴィアサン様、申し訳ありませんが何かでドライトを拘束できませんか? リヴィアサン様に掴まれたままだとドライトも説明しにくいでしょうから。」


セレナの言葉にリヴィアサンは自分の髪の毛を1本抜くと、片手で器用にドライトをす巻きにしてしまう。


「その髪は私自身でもあるわ、簡単には逃げられないわよドライト、おいたが過ぎたわね。」


そう言うとリヴィアサンはす巻きにしたドライトをセレナの前に放り投げる。

ちなみに有城 香織達はセレナが怒った時点で遠くに逃げて遠巻きにドライト達を眺めている。


「え、いやちょっと待ってください、リティアは何でこれを私が作り出したなんて嘘を言うんですか!

私はこんな魔石みたいな召喚道具を見たことありません……よ?」


「なら何で最後は疑問形なのよ。」


「いえドライト様、先月位に作ってたましたわ、しかも大量に。」


「えー……何かそんな気もしないではないですが……あれぇ?」


リティアの言葉にドライトは縛られた髪の毛の間から手を出し腕を組んで本気で悩み始める。

そしてそれを見てリヴィアサンは慌ててもう数本髪の毛を抜くとそれでドライトを縛り直す。


「な、ならドライト様、監視カメラをチェックしてみれば良いじゃないですか。」


リティアの言葉にドライトは「それです!」っと叫んで空中に映像を映し出す。




【第ΨΘβゑ㈲極秘研究所、監視カメラ映像】


「ちょっと、今の訳の分からないのは記号は何よ。」


「第がついているから複数に研究所が有るのでわ?」


「幾つ有るか分からねぇようにあんな記号を使ってるのか。

第をつけてたから台無しだけどな。」


「……流石は夫……参考にする。」


「映像に注目するのです!」


余計なことがバレかけたので、ドライトは慌てて映像を指差してそちらに注目を集めようとして、リヴィアサンにさらに髪の毛を巻かれている。

そして何らかの自動検索システムが有るのか、シリカが持つ銀色魔石に見える召喚道具を映像に見せると、自動的にその物に関する映像一覧が写し出されて、セレナが最後に更新された映像を選ぶとその映像が映し出される。


『そりゃそりゃそりゃ! このドライトさん召喚システムが量産された暁には、私は遊びに行き放題ですよ! そりゃそりゃそりゃ!』


そしてその映像の中で、ドライトが物を作るときの掛け声じゃない掛け声で、銀色の魔石、ドライト召喚システムを量産していた。


『うーん、サルファ様に合う茶葉の組み合わせは……[ボン!]また失敗ですわ!』


そしてその隣では、リティアが茶葉をブレンドしていた、何故か爆発しているが。


『はぁ……一休みしますわ。

ところでドライト様は何を作っているのですか?』


『これですか? 偶然を装って私を召喚する、魔石に見せかけた召喚の魔導具です。』


『は、はぁ……それで、見せかけているということは、他の人にバレたら不味いんでわ?』


『そりゃそうですよ、あくまでも偶然に逆らえないように見せかけて、私を召喚する……なんでここにリティアが!?』


『いや、サルファ様をビックリさせるようなお茶を煎れたいから、研究出来るところを紹介してと言ったらドライト様が連れてきてくれたんじゃないですか。』


『そう言えばそうでした! まぁ結論から言ったら、リティアはお茶だけでなく料理全般は禁止した方が良いと思います。』


『なんでですの!?』


『っと言うか、リティアがこの魔導具の事を黙っていて……いや、始末してしまえば後腐れがないのかと。』


『……私がここに居るのはキャロさんもご存じですが?』


『………………』


『………………』


映像の中でドライトとリティアがにらみ合い、外ではドライトの頭をポコポコサルファが叩いていると、研究室のドアが開きエイミリアが入ってくる。


『ドライト様……なんでにらみ合いになってるんです?』


『ちょっと秘密を知られたので、どうやって黙っていてもらうのか考えていたのです!』


『エイミリアさん、助けて!』


『はぁ……どうせ知られても良いようなことじゃないんですか、なら口封じしなくても良いと思いますが?

それにここの事をセレナ様辺りに知られたくなくても、私やキャロさんが聞かれた答えちゃいますよ?』


『いきなり眷族に裏切られましたよ!?』


映像の中でドライトが驚きエイミリアを見ていると、エイミリアがドライト召喚システムに気がつく。


『あ、これ完成したんですか?』


『ええ、これを様々な世界のそこら中にばら蒔けば、私はあちらこちらで召喚されて気に入ったところで遊びまくることが出来るんですよ!』


『でもこれって確か、勇者や聖女に賢者とかの資質が有るものが使うか、邪神を関知しないとダメなんですよね?

それで関知しないと休眠状態になるとも聞きましたけど。』


『そうですが、どうかしまたか?』


『なら、1つの世界でも相当な量をばら蒔かないといけないんじゃ?

でもそんな数をばら蒔いたら、直ぐに龍神様方やセレナ様に感知されてバレるんじゃ?』


『……えーっと、それは……結構な数を作っちゃったんですけど、どうしましょう?』


『私に聞かれても知りませんよ……』


ドライト召喚システムの問題を指摘され、この召喚システムには欠陥があることに気がついたドライトは、研究室のカーテンを開き数千万体の分身体が手作業で召喚システムを量産している現場を見て途方にくれる。

分身体達も研究室の方を見て、どーするのこれ? っと黄昏れていると、黙って見ていたリティアが声をかけてくる。


『ドライト様、なら何かに有効活用できないか研究すれば良いじゃないですか、新しい武器とかにならないのですか?』


『そうですね……それなりの数を作っちゃいましたし、何かに使えないか研究しますか……』


ドライトがそう言うと、映像の中でリティアとエイミリアを交えてアーダコーダと議論を始める。


そして少しすると、ドライトの元にキャロリンから連絡がきた。


『ドライト様、妹様方がゲーム倉庫の入り口でユノガンド様を見たそうですが、許可なさいましたか?』


『な、またですか!? 今度こそ駆除してやります、皆続くのですよ!』


『了解しました、全軍に非常事態を宣言します。』


『わ、私も行くんですか!?』


『わ、私はサルファ様とお茶会が!』


『全員です、嫁達も皆で行ってユノガンド様をぶっ殺、んん! 捕まえるのです!』


ドライトはそう言うと研究室から飛び出して行く、そしてエイミリアとリティアは顔を見合わせるとしぶしぶと追いかけて出ていったのだった。




「お、思い出しました! 確かに私が作ったものですよ!

……あれ? 一部を資料用に倉庫に入れて、残りは防御システムを作ったあとは……あれ?」


「ドライト、なんだかとんでもない数を作ってたみたいだけど、残りはどうしたの。

映像の中でも作ってた分身体達が魔導具を放置して武装して飛び出していったけど。」


「い、いや、あれは本当に作っただけでばら蒔いてないんです、本当にどこにしまったのか……あれぇ?」


召喚システムを手に取り撫で回したりしながら調べるドライト、すでにリヴィアサンの髪の毛で団子状態になっているが、なんにしろ毛玉から頭と手を出し魔導具を調べている。

リヴィアサンはそんなドライトを完全に拘束するのを諦めてため息をついている。


そんな中で映像の方に進展が有った、ロッテンドライヤーがステラとルチルを連れて入ってきたのだ。


『兄様居ない~』


『兄様どこ~?』


『亜空間の方に行ったざますわね。

……あら、これはなんざましょ?』


ロッテンドライヤーが見つけたのは放置された召喚システムだった。

ロッテンドライヤーがそれを手に取ると直ぐに何なのか分かったようで、すぐに興味をなくしたが部屋中に転がっているのに気がつくと片付け始める。


そしてそれにステラとルチルも気がつくと、パタパタとロッテンドライヤーの元に飛んで来て質問をする。


『何これー?』


『これ何ー?』


『これはドライト様召喚システムざますわね、ドライト様を強制的に召喚するように見せかけて、面白そうな世界にドライト様が遊びに行けるように作ったものざます。』


『へー、面白そうだけども片付けちゃうの?』


『ええ、ドライト様は何故か興味をなくしたようざますわ。

それに、こんな所に転がってたら誰か踏んで転ぶかもしれないざますからね、また倉庫に送っておくざますわ。』


『でも送るのは失敗作倉庫だよね、失敗作倉庫はもういっぱいだよ?』


『……本当ざますわ、他にもいっぱい有るみたいざますし、どうするざましょ。』


そう言ってロッテンドライヤーは研究室のカーテンを開けると、そこに大量の召喚システムが転がっているのを見て困ってしまう。


『なら私達のお片付け倉庫に預かるよ?』


『うん、一時的に入れておくよ!』


そう言うステラとルチルにロッテンドライヤーは感激して言う。


『率先してお片付けを手伝うだなんて、なんて良い子なんざましょ!

それじゃあそちらは任せるざますわ、私は向こうに置かれた……これなんざましょ? まるでお茶が爆発したように見えるざますわ。』


ロッテンドライヤーがそう言って、リティアが作業していたお茶のブレンド実験場を見ていると、ステラとルチルが素早く目を見合わせてドライト召喚システムを自分の亜空間にしまいこむ。


そして三分の一が失くなったところで、自分達の倉庫に入らなくなったようで困ったように顔を見合わせると、別の空間につながる亜空間を開いてそこに入れてしまったのだった。



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