緻密な設定から生まれるユーモア×ヒューマンドラマ

細部まで手の行き届いた設定と、その提示の仕方が見事で、物語に引き込む吸引力を持った作品でした。

組織図ができてしまいそうなくらいによく練られた天界の会社の設定が面白いです。
大人になった天使たちが会社勤めをする、しかもその姿は現代のサラリーマンを彷彿とさせるから、天使×サラリーマンというギャップによるユーモアがよく効いています。

それでも、物語がコメディではなくドラマの方向へ向かっていくだろう空気は、例えば皮膚感覚的で柔らかな筆致や疲れたトナカイの件などできちんと作られていて、後の展開が違和感なくすとんと心に落ちてくるような感じがしました。

主人公が惰性で仕事をこなそうとしている反面、下界の様子を見ることがほとんどなかったパートナーはそれができない。
この関係がよく生かされています。
主人公がなぜ下界の人々に感情移入しないようにしているのかを示すと共に、その彼が再び人間へ心を寄せていく一つのトリガーとしても機能していたように思います。

そして目の当たりにしてきた辛い現実が、さらに状況を悪化させていたことで、押さえつけていた感情が爆発するところは、胸に迫るものがあります。
目の前に横たわる哀しさに共に心を痛めることができ、だからこそそれが報われるラストに心を浸すことができる、ヒューマンドラマとして上質な作品でした。

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