嵐を喚ぶ男

kanegon

第1話 嵐を喚ぶ男

【神風の歴史:起】

 かつて、日本は未曾有の国難を迎えた。

 海を越えて、元という国が二度にわたって攻め寄せてきたのである。歴史上、元寇という。

 当時の鎌倉幕府は果敢に邀撃した。局所的な戦闘ではお互いに勝ったり負けたりがあったが、日本の武士は大きな犠牲をはらいながらも総じて元軍を防いでいた。

 日本側の勝利を決定的にしたのは、二度とも台風であった。元の船団は暴風雨にさらされて壊滅し、撤退を余儀なくされた。

 神の国に勝利をもたらした台風を、人は神風と呼んだ。


【神風の歴史:承】

 外国人に日本の有名なものを問えば、NINJA、と答える。外国人にとって神秘の国日本の象徴は忍者なのである。

 忍者の中でも史上最強とされる忍者は、恐ろしい術の使い手であった。

 その名も、神風の術。

 かつての元寇において救国の恵みとなった台風に比肩しうるような猛烈な旋風を巻き起こし、その風により女の子のスカートがめくれてパンツが見えてしまう、という凄まじい忍術である。外国人が忍者に憧憬を抱くのも当然といえるだろう。

 しかし神風の術はあまりにも強力すぎることもあって、誰にでも駆使できるような代物ではなかった。よって、神風の術の継承者は長らく出現しなかった。

 最近までは。


【神風の歴史:転】

 つい先日までは、俺は平凡で何の取り柄も無い男子高校生(童貞)でしかなかった。

 だが、高三の夏が終わる頃、俺は自分の異能力に気付いた。スマホの画面上に天気図を出し、そこにある台風を指でいじると、現実の台風がその通りに動くのだ。

 俺は台風をコントロールする能力を手に入れたのだ。

 新しい台風が発生するたびに、俺は実験的に色々と手を加えてみた。台風の進路を決めるだけではない。等圧線の間隔を変えることによって風の強弱も変化させることができるし、台風の上に傘マークを置けば雨を強くすることもできる。

 能力を得た経緯など知らないが、どうでもよかった。台風といえば、鎌倉時代に元寇を撃退した神風だ。つまり俺は神風の術を継承することになったのだ。単なる風を起こすだけではなく、台風をコントロールできるのだから、神風の術の上位互換とも言える。

 夏休みが終わったばかりの学校の授業は退屈だったが、俺は顔のニヤケを抑えるのに必死だった。


【神風の歴史:転倒】

 激しい雨が斜めに打ち付ける。突風が吹いた時には横に打ち付ける。

 朝日無き朝の雨に濡れて、俺は立ち尽くしていた。こんな猛烈な台風の日に、わざわざ外を出歩くような女の子は、まずいない。ウチの高校は早々に休校という連絡が来ていた。これではせっかくの神風の術が、宝の持ち腐れではないか。

 きゃっ! 女の子の悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、どこかの高校生らしい制服姿の女の子が一人、既に骨折している傘で必死に顔を隠しながら、雨に耐えていた。両手で傘を握りしめているため、短いプリーツスカートは無防備なままで、強風に翻弄されて盛大にめくれていた。

 女の子は紺色のレギンスをはいていた。俺が期待していたパンチラは、そこには無かった。河川の増水に警戒するよう、町内放送が流れている。

 現実なんて、こんなものだ。

 俺は家に引き籠もって、ただスマホの画面を眺めるだけになってしまった。もうヤケクソだ。ただひたすら台風をいじって遊んで気晴らしをするしかなかった。早明浦ダムが渇水で香川県民が讃岐うどんをゆでられなくなってピンチだと聞いたから、大サービスでそちらに雨台風を差し向けてやった。一日一善。良いことをしたものだ。


【神風の歴史:転落】

 ふとした瞬間に俺は気付いた。台風って、横に二つ並べたら、おっぱいの形に似ていないだろうか?

 台風の目の部分は乳首で、等圧線の間隔が狭い勢力の強い台風は、大きく盛り上がったおっぱいだ。スマホの画面上、二つ並んだ台風おっぱいを指でもみもみすると、等圧線がたわむ。

 こりゃすばらしい。

 屋根を連打する雨音も気にせずに調子に乗ってあれこれ遊んでいるうちに、もっとすごいことに気付いた。

 二つの台風を日本海と太平洋に置いて日本列島を挟んだら、これはパイ○リじゃないか。

 北海道が頭、本州が竿、そして四国と九州を玉に見立てれば、豊満な乳房二つに挟まれたPそのものである。ヒャッハー! パイ○リ最高!

 更に調子に乗った俺は、台風をパイ○リの位置に固定したまま、夢中になってもみもみ遊びを続けた。


【神風の歴史:結】

 日本海と太平洋に居座った台風は、コントロールされているため、雨も風も勢いを弱めることはなかった。

 二つの台風に挟まれた日本列島には大雨がやむことなく降り続いたため、山は土砂崩れを起こし、川は氾濫し平地は浸水した。

 低い轟音を伴って、大量の泥水が家になだれこんだ。

 おわっ、なんだこの水は、、、

 神風の術の継承者はなすすべなく濁流に呑まれて消えた。スマホも一緒に水没した。

 コントロールする者がいなくなったため、台風はその場に残り続けることになった。

 終わることなき暴風雨に、日本列島は元寇の船以上に蹂躙されてしまった。

 日本は神風で滅亡した。

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