Summer Birthday

山芋娘

第1話

 


 お題【止まれ/電線/ソーダ水】より

【ソーダ水】



 シャカシャカ、シャカシャカ、とペットボトルを振り続けている一人の男子高校生、蓮。

 夏休みだというのに、私服ではなく高校の制服である。

 真夏の炎天下の中、彼は一人寂しく公園のベンチに座って、ペットボトルを振っている。一本や二本ではない。五、六本ベンチに転がっている。


「レンレ〜ン」

「お! こっち、こっち!」


 蓮はペットボトルを高らかと上げる。

 彼の元へ同じ制服の男子高校生が、三人近づいてきた。手にはコンビニの袋や団扇。


「あち〜」


 と、 団扇で扇ぐ健人。


「レンレン、ご苦労様」

「おう。何買ってきたんだ?」

「シュークリームだよ」


 と、シュークリームを何個も出してくる上総。


「あと、こっち生クリーム」

「グチョグチョになりそうだな」


 そして、大和は絞るだけでいい生クリームを出している。

 そんな事を話しながらも、蓮はペットボトルを振り続けている。

 健人が蓮が振るペットボトルのラベルを見て、首をかしげる。


「なぁ、それサイダー?」

「いんや、ソーダ水」

「なんで、ソーダ?」

「近くのスーパーで、安売りしてたから」

「まぁ安いのが一番だよね!」


 公園にある柱時計が、十一時十分前を示している。


「お、そろそろ来るな」

「準備、準備!」


 時間は、十一時ちょうど。

 公園の駐輪場に自転車を置く水樹。もちろん、彼も制服で来ている。

 背中に汗が流れているのが、気持ち悪い。ーーそんなことを考えながら水樹は、指定されていたベンチへと向かっていく。


「あちー。なんでこんな日に呼び出すんだよ。マジわけわかんね」


 ブツブツと愚痴を言いながら、歩いていくと、いつものメンツが揃っている。


「あ、水樹くーん! こっち」


 と、上総が手を振る。それに答えるように、小さく手を挙げる水樹。


「やっと来たな」

「マジ、暑過ぎてヤバイ」


 団扇を先程よりも強く扇ぐ健人と、その風にあやかろうとする大和が、手招きをする。


「よし、やるぞ」

「オーケー」

「楽しむぞ〜」

「俺、生クリームぶちまける係な」


 大和のみ背中に手を回し、生クリームを準備している。他は何も持っていない。


「おっす」

「水樹くん、遅いよ!」

「午前中から起こすなよ」

「ほれ、ソーダ水。安もんだけど飲めよ」

「サンキュー、蓮」


 蓮から振られたソーダ水のペットボトルを受け取ると、何も知らずに蓋を回す。案の定、思い切り振られたソーダ水は、水樹を襲う。


「うわっ!」

「ヨッシャー、やれ!!」


 健人の合図と共に、机の上に置いてあったペットボトルの蓋を開け、水樹をかけていく。それはまるで、野球で優勝を果たした時にやるシャンパンファイトのようであった。


「お前ら!!」

「水樹」

「あぁ!?」


 大和は持っていた生クリームを水樹の顔面に、思い切り吹き付けていく。


「うおおおお!!」

「水樹、喰らえ!!」

「カスタードクリーム!!」

「水樹くん、ごめんね!!」


 ソーダ水、生クリーム、シュークリーム。真夏の中、次々と水樹にぶつけられていく。


「水樹くん!」

「お誕生日」

「おめでとう」

「おめでとさん〜」


 上総の号令に蓮、健人、大和が祝っていく。しかし、大和は残っている生クリームを未だにかけている。


「……お前ら」

「感動したか?」

「んなわけねーだろ! 制服意味わかんねーことになってんぞ!」

「やべ〜。笑い止まんね〜」

「俺も!!」

「いやー最高だわ。生クリーム、誰かにぶっかけたかったから、水樹のお陰で夢が叶ったわ」

「大和!!」


 あまり表情を変えない大和が、どこか楽しそうにしている。


「いやー本当、今日最高だったわ」

「んじゃ解散」

「はぁ!?!?」


 健人の言葉に、水樹が大声を出すと、近くの蛇口を捻り、四人に水をかけていく。

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