花火と浴衣
夏になると、私達は行きたい高校の受験勉強に明け暮れていた。
あの出来事がなかったら、高校を諦めて、働く手段を選んでいただろう。
でも友梨お姉ちゃんのお父さんのお陰で、高校に行かせてもらえる事に。必ず受かって高校生活を思いっきり楽しむ。そして目指す夢のために頑張り続ける。
「茜〜、香奈実ちゃーん、スイカ切ったの食べる?」
階段下の方からお姉ちゃんが呼びかけてきたので、即答で私は返事をしていた。
「食べるー!」すいか♡
「じゃあ一旦手止めて、休憩しましょ〜」
「「はーい♪」」
私と香奈実は勉強していた手を止めて、部屋から出て下の階に降りていった。
今いるのは友梨お姉ちゃんの実家であり、私の新しい家族のお家だ。
香奈実を迎えて、夏休みに遊びに来ていた。
居間に行くと、傍には縁側があり、吊るされている風鈴の音が心地よく鳴っていた。
「わぁー美味しそう!」
真っ赤でみずみずしいスイカが沢山、テーブルの上に並んでいた。
友梨お姉ちゃんとお父さん、お母さんも居間に揃っていた。
「お勉強お疲れ様」
「友梨がいっぱい切ってくれたから、いっぱい食べな」
「でも食べ過ぎはお腹壊すから程々にねぇ」
「うん!」
「頂きます」
早速シャリシャリと食べていくと、甘さが広がって果汁が溢れ出し、ジュースの様にごくりと喉を湿した。
夏の暑さで身体が火照っていたのが、一気に涼しくなっていく。
「このスイカ、とても美味しいです」
「ね!めちゃくちゃ美味しいね」
私も香奈実も夢中になってスイカを頬張った。
「喜んでもらえて良かったわ」とお母さん。
お父さんもスイカを食べながら、何かを思い出す様に話し出した。
「そういえば、今年も今日から花火大会が始まるんだったかな?確か2日連続だった気が」
「そうそう!毎年見に行ってるもんね。だから今年は茜達も連れて一緒に見に行こうかと☆」とウインクするお姉ちゃん。
「えっ!花火大会…!?近くでやるの?」
「車で30分位のところかな、海のすぐ側。地元では有名な花火大会よ。香奈実ちゃんは見に行った事はある?」
「はい、小学生の時に。中学に入ってからは1度も見に行けてなくて…」
「じゃあ丁度良かったわね♪ それにせっかくだし、浴衣を着て行きましょ〜♡」
私は花火大会なんて、テレビで見たことあるくらいで一度も行ったことがなかったから、この展開は嬉しすぎた。
お姉ちゃんが学生時代に着ていた浴衣を着させて貰えることに。浴衣は2種類もあって、全く異なった柄だったが、私は赤紫色の朝顔柄を。香奈実は黄と青色の金魚柄を着た。2人ともサイズがぴったりだった。
お姉ちゃんは洋服が好きだったから、これ一つだけというのはつまらなくて、浴衣も1着着回すのは嫌だったから持っていたという。
この機会に再利用ができてお姉ちゃんはとても喜んでいた。
メールでホープにも連絡をした。
「花火大会の事知ってたら、本当は2人で初デートも出来たよね」と香奈実。
「そうだね、でも今年は皆で行って、来年は2人で行ければ良いかなって。あ、そうだ、香奈実も彼氏ができたら、4人で行こうよ!」
「えー、出来るかなぁ…」
「出来るよ!今日もお姉ちゃんに髪型も可愛くして貰ったし。お姉ちゃんに教わればもっと可愛くなれるよ」
「ほんとに友梨先生綺麗だよね、彼氏いないなんて信じられないよ」
「前に付き合ってた人は居たみたいだけどね」
「そうなんだぁ、どんな人だったのかな」
「そこまでは教えてくれなかったけど。ねぇ写真撮ろ!」
自撮りと全身を何枚か交互に写真を撮りあった。
支度を終えた5人は、車に乗って花火大会が行われる場所へ向かった。途中渋滞にはまったが、無事に始まる前にはたどり着けた。
夕方になって、連なった提灯に明かりが灯った。
お祭りで流れる太鼓と笛の音楽が鳴り響いていた。
「凄い人だね…!」
周りは屋台が並んでいて、人集りも凄かった。
私と同じく浴衣を着た人も沢山居た。
「はやく陣地取らないと!私行ってくるわ、お父さんよろしく!」と慌てて浴衣姿のお姉ちゃんがブルーシートを持って走っていった。
「いつも友梨が毎回いい場所見つけてきてくれるから、俺は代わりに美味しい物を並んで買って行ってやるんだよ」とお父さん。
「そうね、私も甘い物を何個か買ってくるけれど、茜ちゃん達は2人で見て来る?」とお母さん。
「そうですね、また始まる前にはお姉ちゃんに電話して、向かいます」
そうして私達は色んな屋台を見て回った。
甘い匂いのチョコバナナやりんご飴、次はソースの匂いがしてきたと思ったら、焼きとうもろこしの、こおばしい香りにお腹が鳴った。
私と香奈実は好きなものを買って、食べながら歩いていると、不意に「よっしゃー!」と聞き覚えのある声がしてそちらの方を覗いたら、驚いた。
ホープが車椅子から降りて、地べたに座って金魚すくいをやっていたのだ。
「お兄ちゃんやるね!おめでとう!」とおじさんが金魚を入れた袋をホープに手渡した。
そして見事、4匹もすくっていた。
私達の視線に気づいたホープは笑顔で、
「おー!茜!森さん!みてた?取ったよ!すごくない?」
「すごいすごい!ってかいつの間に来てたの?」
すぐに私は車椅子のハンドルを握って、ホープが座り直すのをサポートしてあげた。
「ありがと。来ちゃった、親も一緒だけどね。てか二人とも浴衣じゃん!すごく可愛い!」
「ありがとう…」照れる〜。
「ふふ、ホープくん茜見すぎだから」
「だって可愛いからつい…」
すると、花火が始まるアナウンスが流れた。
「あ!やば、電話しないと!」私はお姉ちゃんに連絡して、ホープ達も連れて一緒に向かう事になった。
屋台から少し離れた土手の方に行くと、ここも人で溢れかえっていた。皆同じようにブルーシートを敷いて、花火が上がるのを待ちわびていた。
もう辺りは真っ暗だった。
「こっちこっち!」とお姉ちゃんがいつの間に買ってきたのか、ピンク色のペンライトを持って位置を照らしてくれた。
既にお父さんとお母さんも座っていた。
ホープの家族とも並んで座れて一息ついた時、ヒューっと音が鳴りだして、花火が上がった。
バンッと爆発したような音が何度も響いて迫力が凄かった。
色んな色の大きな花が夜空に咲いて、そして流れるように落ちてゆく。
「綺麗だね」とホープ。
「うん凄い…」
「皆で見れて良かったね」
「ん、ほんとに良かった」
一旦終わると真っ暗に戻って、煙だけが残る。そして焦げたような花火の香りが周りに漂った。
そしてまた打ち上がる。カメラで花火を撮る人達。
これが夏の花火か。
浴衣は動きづらくてちょっと暑かったけれど、ホープも褒めてくれたし。
何より屋台の焼きそばがめっちゃ美味しかったな。
忘れられない、最高の夏の思い出になった。
HOPE~一歩踏み出す勇気〜 中村 日咲 @nik0w0x
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