SOS
─豊田さんへ。
今日初めて声掛けて、びっくりさせてごめんね。
同じクラスになってから、実は豊田さんの事がずっと気になってました。いつも1人で居るか、橘くんと一緒に居るよね。付き合ってるのかな?
この前クラス全員にあのプリント配ってたの見て、豊田さんにも悩みがあったのかなって思った。で、周りの女子がコソコソ話してるのを聞いちゃったの。豊田さんが虐められていたと。 でも今は解決して、前を向いてる豊田さんが凄いな、素敵だなって思って。
私はほぼ2年間、不登校だったんだ。
今回3年になってクラスが変わると聞いて、勇気をだして登校を再開できたんだけど、直ぐに前に虐められてた連中に気づかれて、未だに呼び出されては虐められてる…。
行かなければいい、でも怖くて逆らえない。
この気持ちは豊田さんなら分かってくれるよね?
だから今も、たまに休んじゃったりしてるけど、また不登校に逆戻りするのは嫌だった。
私も、皆と一緒に楽しい学生生活を送ってちゃんと卒業したい。
後悔はしたくないから、こうして豊田さんに手紙を書いて、伝えたかったんだ。
(言葉だと緊張して言えそうもなかったから…。
豊田さん、よかったら私と、友達になってくれませんか?
もしこれを読んで引いたなら、捨てて忘れてくれていいです。
最後まで読んでくれてありがとう。
ㅤㅤ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ──カナミ──
──虐められている子が、私以外にもいた!
これは助けない訳にはいかない。
しかも私と友達になってほしい?!
私は直ぐにこの事をお姉ちゃんに報告すると、そんなの助けるに決まってるし、絶対友達になってあげてと言われた。
この手紙を読んで思った、森さんは私と似ているところがあるかも…。
逃げ場所があったとしても、そもそもイジメがある環境自体がおかしいし、あってはならないと思うから。
後悔をしたくないという意思も伝わってくる。
私も、そうだったから、すごく分かる。
それに捨てるわけない。私に初めてSOSをくれた、この手紙を、私は大切にしようと思った。
お姉ちゃんがホープと三木先生にも、この事を伝えておいてくれた。そして明日、森さんが虐める連中に呼び出されたとしても取り合わず、一緒に保健室に連れて来る事、と約束をして。
翌日学校に着くと、早速下駄箱で森さんの名前を探して、靴があるかを確認した。
…良かった、居る!
私は足早に教室まで向かった。
そして森さんがいる席の前に立つと、笑顔でこう言った。
「森さんおはよう!手紙読んだよ。私で良ければ、ぜひ、友達になって下さい」
森さんは突然の事で目を丸くしたが、すぐに照れながら、ありがとう…とお礼を言ってきた。
「こちらこそありがとうだよ。すごく嬉しかった!」
「よかった…、やっぱり書いてよかったぁ」
森さんは手紙を下駄箱に置いた時から、今までずっと引かれたらどうしようと考えてたらしい。
逆の立場だったとしても、同じく緊張して考えまくって、眠れなかったと思う。
後から来たホープも私達に気づいて、喜んだ様子で話しかけてきた。
「おはよう!茜、森さん。これからよろしくね」
そこで私は思い出したようにこう伝えた。
「あ、私達は付き合い始めたばかりで…」
「そうなんだね、前から付き合ってたのかと思ってたよ」
「周りにはそう思われてたかもね。まぁ僕はやっと叶って嬉しいよ」
ホープから告白したことや、馴れ初めを朝礼が始まるまで3人で話していた。
お昼になってからも、食べ終わるのがいつも早い私が、今日は周りが食べ終えて居なくなるまで、森さんとの会話を楽しんでいた。
ホープとも、お姉ちゃんともまた違う、同級生の女子同士での会話は新鮮で、私もこんなに喋る方だったのか、と気付かされた。
ずっとこんな事は無縁だと思って、諦めようともしていたから、森さんが友達になってくれて、私の方こそ感謝しかない。
森さんも笑顔になってくれるから、尚更話してしまう。
ふと、誰かに見られてる気配を感じた。
キョロキョロ見回すと、何やらヒソヒソと遠くで3人組がこちらを見ながら話している。私は直ぐに、森さんをいじめる奴らだなと察した。
森さんも私の視線の先に気がつくと、黙り込んでしまった。
「大丈夫、あんな奴ら気にしないで」
「う、うん、ありがとう…」
でも見た感じ、狐みたいな目をしたリーダーっぽい奴がこちらを睨んでいたが、眞辺の方がよっぽど恐ろしく見えた。
教室に戻ろうと森さんと歩いていたら、案の定、後ろから声をかけられた。
「おい、待てよお前ら」
その声で森さんの肩がビクついた。
狐目の奴が私の顔を覗き込んで、
「見ない顔だな、なんでこいつなんかと一緒にいるんだよ?汚ぇのがうつるぞ」といって森さんの髪を引っ張った。
「…いっ」
「あなた達の方こそ、中3にもなって未だにいじめなんかして、恥ずかしいと思わないの?小学生のやる事だよ」
咄嗟に出た言葉だったが、3人は固まって私を睨むなり、脇の2人は狐目の奴の発言をただ待っている様だった。
「は?いじめてねーし…なんだこいつ、超シラケた」
「いじめてねーし!」「そうだよ!ちょっかい出しただけじゃん」
「…チッ、行くぞ」
と踵を返して、呆気なく3人は帰って行った。
「と、豊田さんありがとう!」
森さんは私が次に虐められてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、まさか追い払ってしまうとは思わなかったと感心された。
放課後、予定通り保健室に森さんを連れていった。
森さんはお姉ちゃんと三木先生に自己紹介をすると、お昼にあった事を話し始めた。
すると皆が一斉に驚いた後、私は拍手喝采を浴びて一気に恥ずかしくなった。
「茜ちゃん良く言った!」
「やるじゃない、流石私の妹ね♪」
「ほんとにその通りだもんな、そいつらも幼稚なんだよ」
「明らかに、豊田さんをみて怯んで、目が泳いでた」
「頼もしくなって嬉しいなぁ♡」
「楽しそうに女子トークしてたから、先に戻っちゃってたけど、一緒にいたらまた違った展開になってたかもな」
「そうかもね、でもあっさり引いてくれて良かった…」
内心は凄くホッとしていた。
三木先生は森さんに、また何かあっても無くても気軽に相談してきてね、とメルアドを教えていた。続けて私も交換して、しばらく皆で会話をしあった後、また明日ね、といってお別れをした。
それからは、森さんがアイツらに呼び出される事は一切なくなった。
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