ホワイトデー

 二月十四日、バレンタインデー。

 本当だったらその日に渡すはずだったチョコレートは結局、渡せないまま持ち帰ってきてしまった。生まれて初めて手作りしたチョコレート。きっと、喜んでくれる、そう思って頑張ったのに……。

 実際に本人を前にすると緊張して渡せなくて、それで結局、皆と同じ友チョコしかあげられなかった。



 あれから一ヶ月。今度こそ、渡そうともう一度作った。バレンタインの時のは自分で食べたけれど、美味しかった。だから、今回も味は大丈夫なはず!

 でも、今までにホワイトデーだなんて何もしていなかったのに、変かな?

 ううん、そんなこと考えていたって仕方ない。バレンタインにチョコレートを貰ったんだから、そのお返しだよ。うん、何も変なことはないよね。



 後から思えば、この時のわたしはどうかしてたと思う。だって、バレンタインの時はお互いに友チョコを交換していて、お返しも何も関係ないんだから。



 そして、二人きりになった瞬間を見計らって、わたしはチョコレートを差し出した。


「ほら、今日ってホワイトデーじゃん?だから、バレンタインのお返し」


「え?何で?」


「ほら、バレンタインにもらった、から……」


「でも、あれって別にそういうのじゃないじゃん」


 そこでわたしは気が付いた。単純に友達同士で騒いでいただけのバレンタイン。それなのに、こんなお返しって変に思われるのは当然だった。

 すごい、不思議そうに包みを見ている歌歩ちゃん。わたしの想いを込めたチョコレートだけど、それが気味の悪いもののようにわたしまで思えてきた。

 わたしはどうしようか、と考えていると、歌歩ちゃんは急に笑顔になってくれた。


「でも、ま、折角だから貰っておくね。わたしは何も用意なんてしてないんだけど。開けても、いい?」


 わたしが頷くと、歌歩ちゃんは包みを開いた。どんな反応をするのか怖かった。だから、わたしはつい、下を向いたまま次の反応をじっと待っていた。


「あれ?もしかして、これってバレンタインの時用に作ってたやつ?手作り、練習してたもんねー。本音言うとね、くれなくて寂しかったんだからなー」


「うん。その、バレンタインの時は上手くできなかったから、さ。だから、そのリベンジ、してみました」


 だなんて冗談交じりで言ってみたけれど、わたしは内心で舞い上がっていた。だって、わたしからのチョコレートを待っていてくれたんだから!


「はは、そっかー。じゃぁ、これは会心の出来、ってこと?楽しみだなー」


 うわ、自分でハードル上げちゃった?どうしよう?ちゃんと味見もして、大丈夫だとは思うんだけれど、でも、たまたま、偶然、失敗してたのが中に入っちゃってたら……。

 なんて思っていたら、歌歩ちゃんは1つを口の中へと入れてしまった。その瞬間、歌歩ちゃんの表情が変わった。険しい表情になって……もしかして、本当に失敗作が混ざってた?

 不安になっていたら、歌歩ちゃんは笑いだした。


「そんな心配しなくてもすっごい、美味しかったよ?もう、麻紀は本当、可愛いなぁ。大好き!」


 そう言って、抱きついてきた。

 その好き、はわたしのとは違うのは分かっているけれど、それでも、わたしはその言葉が嬉しかった。

 だから、その後の歌歩ちゃんの言葉はわたしの心を完全に砕いた。


「これからもずっと、友達だからね。ずっと、友達。

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百合色の新世界 星成和貴 @Hoshinari

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