ダブルデート

『ねぇ、ダブルデートしようよ』


 彩弓がそう言ってきたのは昨日の放課後。本当は乗り気じゃなかったけど、彩弓がすごい行きたそうにしてたからつい、いいよ、って言っちゃった。

 それで今日がその約束。待ち合わせにはまだ誰も来ていない。急用ができた、とか言ってドタキャンしちゃおうかな、なんて思っていたら、


「やっほー」


 そんな軽いノリで隣のクラスの男子がわたしに手を振ってきた。

 顔はいい方だとは思うけれど、チャラチャラしてるし、正直言って苦手。と言うか、嫌い。何で、こんなやつが?と思っていると、


「え?みんなまだ来てないの?ってか、せっかくなんだから楽しもうよ」


 笑顔で言ってくる。何それ?俺かっこいい、とか思ってんの?とかつい思ってしまう。

 それよりも、問題なのは、ダブルデートの相手ってこいつなの?本当、最悪。

 わたしがずっと黙っているのに、そんなの関係なし、みたいに話しかけてくるし。あぁ、早く彩弓、来ないかな。


「あ、もうみんな来てる。ごめん、お待たせ」


 苦痛の時間を耐えていたら、ようやく来てくれた。

 来てくれた、けれど、どうして?何で手を繋いで仲良さげに来るの?わたしは?

 四人で歩いていても一人きりな気がして、疎外感を覚えながら皆に付いていった。

 彩弓の隣の男子、確か、幼馴染みって言っていたような……。でも、それだけじゃないようにも見えるし……。

 ねぇ、彩弓はわたしと付き合っているんだよね?だったら、どうして……?わたし、捨てられちゃう?


 色んな不安や疑問が頭の中をぐるぐると回って、そのせいで皆の後を付いていくだけで、どこに入ったのか、何を注文していたのかをわたしは全く分からなかった。

 けれど、注文したものが運ばれてきたとき、その場に耐えられなくて、お手洗いに逃げ込んだ。

 だって、耐えられない。彩弓は幼馴染みと話してるし、わたしは一人でどうしたらいいの?彩弓とのデートだと思っていたのに……。


「美希、どうしたの?」


 突然、声をかけられて振り向くと、そこには彩弓がいた。それで今まで堪えてたものが爆発して、涙があふれでてきた。


「ねぇ、彩弓。どういうこと?彩弓はわたしと付き合ってるんだよね?だったら、あいつは何なの?もしかして、わたしと別れて、あいつと付き合うつもりなの?だったら、こんな回りくどいことしないではっきり言ってよ!それに、あの男。わたしの嫌いなタイプだって知ってんじゃん!なんであんなやつ連れてきたの?」


「だから、ダブルデートだって」


「意味分かんない!」


「あ、そっか。言ってなかったっけ。あの二人、付き合ってるんだよ」


「……え?」


 その言葉でわたしは冷静になった。あの二人が付き合っている?だから、ダブルデート?それなら、理屈は合うけど、でも……。


「あぁ、ちゃんと説明するね?ほら、美希ってここのスイーツ、食べたいって言ってたでしょ?だから、一緒に食べに来ようかな、って思って」


 ここのスイーツ?それでこっそりとお手洗いから店内を覗いてみる。すると、そこは確かにわたしが一度食べたいって言っていたお店だった。


「あれ?気付いてなかった?何か、ずっと上の空だったもんね。えぇと、それでね、せっかくならカップル限定のがいいかな、って思ってそれで今日を計画したんだけど、嫌だった?」


「嫌、じゃないけど、だったら、何であんなに仲良さげにしてたの?」


「だって、カップルって見られないとダメかな、って思ったし」


 何それ?全部、わたしの勘違い?


「彩弓、ごめんね。疑ってごめん」


「ううん、いいよ。それよりさ、早く戻って食べよ?それで、その後は二人でデートを楽しもうよ」


「うん」


 涙を拭いたわたしは席に戻って、限定スイーツを堪能した。

 すごい、美味しかった。

 彩弓も幸せそうにしてくれてる。目の前の男のことなんて気にならない。わたしには、彩弓しか見えない。

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