祖母の愛した街、大阪
から
大阪案内
人はどこから来て、どこへ行くのか。
なーんて誰の言葉だったかな。
へえー、懐かしいね、ここ。
「通天閣」なんて、初めてデートに行った時ぐらいやね。
いつも一緒におったのにドキドキしてたわ。
あの時は「天に通じる高い建物」ていうふれこみやったなあ。
次は「大阪城」の「天守閣」?
あまり無理はせえへんほうがええで?もう年なんやから。
ああ、ここも懐かしいなあ。
大阪城は太閤さん、つまり「豊臣秀吉」さんの築いたお城や。
けど、築城は「羽柴秀吉」の名前の頃にされたんや。
お城は作ったけど、本人は1~2年ぐらいしか居なかったんやて。
ああ、この話はもうしたかなあ。
最近は真田幸村さんが作った真田丸が有名になったな。
大阪城の南側の出城らしいけど、壊されてしまったんやて。
今は跡地と思われるところが観光スポットになってるらしいわ。
せや、この天守閣であんたにプロポーズされたんや。
ようあんな歯の浮くようなセリフ言えたもんや。
あんたも顏赤かったけど、私も真っ赤になってしもうたわ。
あれから随分と時間がたったけど、覚えてるわ。
絶対忘れられへん。
「梅田スカイビル」やね。
無事に子供たちも結婚して独立できたし、二人きりなんて久しぶりやったね。
ここの「空中庭園展望台」は綺麗な景色やったなあ。
今は「世界を代表する20の建造物」って言われてるんやって。
へえ、ここはあんたと最後に来た場所や。
日本一の高さ300mのビル「あべのハルカス」の展望台「ハルカス300」。
ここからやと大阪の街をよく見ることができるわ。
あのときも昼から夜までずっと見てたね。
通天閣や大阪城もここからやとよく見れるわ。
あんなに小さく見えるんやね。
あんたと行ったところが全部見えそうや。
あのときはあちこちで花火を打ち上げてた。
上から見てたから小さい花火に見えたけど、綺麗やったわ。
二人でずっと眺めてたなあ。
さあ、そろそろ時間や。
ほら、私らの初孫が呼んでるで。
気をつけて帰りや。
私はもう行かなあかんから。
今日で49日目。
もうあの世へ逝かなあかん。
最後の日にここへ来てくれてありがとう。
嬉しかったわ。
あんたはまだこっちには来んでええで。
私はゆっくり待ってる。
いつも通り。
あんたはいつも待たせてばかりやったから。
いつまでも待っている。
2
あいつが死んだ。
それはもうあっけなく。
つい、この間まで元気でいたのに。
ある意味あいつらしい死に方やった。
儂とあいつは幼馴染やった。
けど、何をするにもいつもあいつが先頭きって突っ走っていた。
儂はいつも遅れてあいつについて行ってた。
儂には学がなかった。
あいつは多くの物事を知っていて、それを儂に聞かせてくれた。
あいつが話す言葉が気持ちよくて、いつまでも聞いていた。
あいつはくるくると表情を変えて、話してくれた。
儂はそれが楽しくて仕方がなかった。
ずっとあいつを見ていたいと思っていた。
あいつは大阪の街が好きやった。
あいつと色々なところを見て回った。
そんな日々を過ごすうちに、いつの間にか付き合うようになっていた。
儂はあいつの葬式から随分と気落ちしていたらしい。
初孫が儂を連れてどこかに行きたいと言い出した。
この子はあいつによく似ている。
好奇心が旺盛でいつもあいつにひっついていた。
儂はこの子を連れてあいつと一緒にいった大阪の街を見て回ることにした。
孫もあいつのことを知りたかったようだ。
儂はあいつと初めてのデートをした「通天閣」に連れて行った。
随分と街の風景は変わったが、面影は残っている。
次は「大阪城」の「天守閣」に連れて行った。
この天守閣でプロポーズをしたと言うと孫は聞きたがった。
儂はあいつから以前聞いたことのある太閤さんの言葉を借りてこう言った。
「露とおち露と消えにし我が身かな 浪速のことも夢のまた夢」
けど、お前とのことは夢やない。
だからこれからも消えない夢を一生一緒に見て欲しいと。
あんなに真っ赤になったあいつを見たのは初めてやったな。
次に行ったのは「梅田スカイビル」の「空中庭園展望台」。
観光名所になったことをあいつに教えたのはどうやら孫らしい。
もしかして、全部あいつに聞いてるんじゃないだろうか。
最後は「ハルカス300」。
あいつと最後に行った場所。
ここからはあいつが好きだった大阪の街がよく見える。
49日の法要の後にここに来たのは正解だったと思う。
孫が呼んでいる。
もう行かないと。
この頃、夢を見る。
あいつとの夢だ。
おそらくもう永くはないのだろう。
随分と待たせてしまった。
あちらでも夢の続きを見ることはできるだろう。
色褪せない消えない夢を。
あいつと一緒に。
3
祖母が亡くなり、後を追うように祖父も逝ってしまった。
私は祖母が大好きだった。
そして祖父も。
祖母は大阪の街が好きだった。
私は祖母にいつも話をねだった。
祖母は祖父が大好きで、祖父に色々なお話をしたそうだ。
祖父はいつも目を輝かせて話を聞き、祖母はそれが嬉しくて勉強したらしい。
そうして祖父と大阪の街を好きになっていった。
祖母が亡くなったとき、祖父はとても気落ちしていた。
私はそんな祖父を見ていられず、外へ連れ出そうとした。
祖父は街を見つめ、祖母の話をしてくれた。
祖父の目はまるで祖母を見つめるときのように優しかった。
私は祖父と祖母がこの街を大好きなのだと理解した。
私は自分がこの街を好きなのだろうか?
それはまだわからない。
祖母がよく話してくれた言葉があった。
「人はどこから来てどこへ行くのか」
本当は画家のゴーギャンの言葉をもじったものらしい。
祖母はそれでもこの言葉が好きだった。
祖父と祖母は行ってしまったのだろう。
私は自分がどこに行くのかはわからない。
でも、バトンは受け取った気がする。
私は行くのだろう、
祖父と祖母の愛したこの大阪の街と共に。
祖母の愛した街、大阪 から @kara_
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