おいでませ、山口へ

櫻井彰斗(菱沼あゆ)

おいでませ、山口へ

 山口。

 本州の端というわかりやすい場所にあるのに、いつももれなく、

「何処にあるの?」

と言われてしまう山口。


 総理大臣を数多く排出しているにも関わらず、

「ああ、山口県って、ふぐが捕れるんだよね。

 みんないつも、ふぐ食べてるってほんと?」

とよくわからないことを言われてしまう山口。


 庵野監督も貞本さんも山口県なのに、何故か、

「エヴァと言えば、箱根でしょ」

と言われてしまう山口。


 でも、獺祭も山口だし。

 楊貴妃の墓もあるし、壇ノ浦の戦いも山口だし、松下村塾もあるし。

 おみくじ製造の全国シェアもすごいし。


 萩の町は五月になると、町中が夏みかんの花の香りに包まれ、弁天池はピー玉をまき散らしたように美しく。


 有名な歌に出て来る『誰もいない海』は防府市の海なのに。


「だから、何処なの? 山口って」

と言われてしまう山口。


 軍人さんが使う、

「~でありますっ」

っていうのも山口弁なんですが……。


 そして、岩国や錦帯橋がよく広島のガイドブックに載ってますが、あれ、山口ですからね。


 でも、山口も人のことは言えません。


 『萩・津和野』ではよく殺人事件が起きるようなのですが。


 あ、ミステリーの世界ではですよ。


 津和野は島根です。

 いつも萩とワンセットになってますけどね。


 萩といえば、藍場川を見に来た人が、

「テレビで見たのと違うっ」

 って言うんですけど。


 藍場川も長いですからね。

 かつての主要道路から見える藍場川がちょっと地味だったので、そう言われてたんですけど。


 住宅街の中を流れている藍場川は本当に風情があって美しいです。

 川の水を引き込んで利用している歴史ある住宅も幾つかも残っていますしね。


 そういえば、さっき話に出た楊貴妃の墓ですが、油谷の二尊院にあります。

 逃げ延びた楊貴妃はこの地に流れ着いたのですが、すぐに亡くなってしまわれたそうです。 


 楊貴妃の里という中国風の公園に五輪の塔があるのがそれなんですけど。

 私は、此処にたまたま行ったとき、ふわっとすごくいい香りがしたので、振り向いたら、この五輪の塔があったという嘘のような本当の話。


 ちなみに、一緒に行った人はなにも匂わなかったそうなので、おそらく、花の香りなどではありません。


 楊貴妃は体臭を隠すために、常に身体中に麝香(ムスク)を塗り込め、その香りをまとっていたと伝えられていますが。


 あれは、楊貴妃の香りだったのでしょうか?


 とか思ったり、思わなかったり……。


 他県の友達に、

「山口は山ばっかりだから山口なの?

 街のすぐ側が山なのは何故?」

と言われてみたり。


 登坂車線が、「はやい車」「おそい車」と非常にわかりやすく書かれていたり。


 ガードレールが夏みかんの色でオレンジなのが普通だと思ってたり。


 エメラルドグリーンの海が美しい角島では、

「外国の木とか植物っぽいのがある気がする。

 マングローブとか」

と言って、


「ないよ」

とすげなくみんなに言われてみたり。


 電車に乗ろうとしたら、

「この時間、SLしか走ってませんよ」

と言われて、いきなり、SLに乗らされたり。


 本屋の横を普通にSLが走り抜けていったり。


 スタバが県の東側にないよっ、と叫んでみたり。

 官公庁の周囲が温泉だったり。


 住宅街にいきなり、宝クジが当たるというお地蔵様があったり。


 うっかり入った雪に閉ざされた木戸山で死にかけながら見た雪景色が、死ぬほど綺麗だったり。


 関門海峡の花火が門司とどっちが綺麗か張り合ってみたり。

 突然、現れた安倍さんが手を振ってみたり。


 秋吉台のサファリで低空飛行するハゲコウに楽しく襲われてみたり。


 かつてきらら博のあった場所を古いナビで走って、

「此処、水中だ……」

と呟いてみたり。


 突風の千坊山でメリー・ポピンズのように傘もないのに、風に乗って飛ばされて、周りに居た知らない人たちに、

「大丈夫!?」

とつかまれてみたり。


 ちらほらと雪も舞い散る極寒の中、瑠璃光寺がライトアップされていて、美しかったり。


 いつも見ている山が古墳だったり。


 ふと入ったうどん屋で、隣りに居たおばあちゃんたちが突然、戦時中の話を始め、

「○○さんは、すごくチャカチャカした人だったから、荷物を持って、自分の当番でないのに海軍工廠に行って、そのあと、すぐ爆撃があって。


 そうそう。

 そういえば、昨日ね……」


 おばあちゃんっ。

 その続きがめちゃめちゃ気になるんですけどーっ。

 なんてことがあったり。


 壇ノ浦の合戦などがあったせいか。

 そこ此処に平家の落人の話が残っていて。


 その辺の裏山や秋芳洞に、鎧武者の霊が出てみたりする山口。


 歴史を肌で感じられる、ロマン溢れる山口です。

 おいでませ、山口へ。


 そうそう。

 いつも食べてはいませんが、ふぐ。


 山口では、一応、「ふく」ということになっていますが。


 ふく、その辺のスーパーで普通に小皿に入って売られていますよ。


 なので、おいでませ、山口へ。

 お待ちしております。

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おいでませ、山口へ 櫻井彰斗(菱沼あゆ) @akito1

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