舞台は、未来の東京。
現在の東京ではなくて、大きな戦争ののちに、人間は地上に住めなくなり、新しく地下に作られた「東京」という街です。
「(現代の我々よりも)筋力が弱いので、四肢に機械を入れるのが普通」など、なかなか興味深く、なるほどと納得のいく未来世界です。
日常生活の中で、さらっと説明されているので、私の中で、いつの間にか「それが当たり前」になっていました。
人口管理のために、決められた婚約者と結婚するのが当たり前の世界で、主人公ミキちゃんが「人」とみなされない「管理品」の青年、コウと出逢うところから物語は始まります。
主人公ミキちゃんの「背中をバシッと叩いて励ましてくれる」ような性格(? と書くと語弊がありそうなんですが……)が、凄く良いです!
ハイスペックなコウよりも、ミキちゃんのほうが強い(?)のは、周りの人々も認めるところです。
そんなふたりを阻むのが、この未来世界の社会ルールです。
果たして、ふたりはどうなるのか――。
頑張るミキちゃんを応援していくうちに、読んでいる私も元気になれる。
そんな素敵な物語です。
恋愛ものは好きだけど、重かったりダークな設定があるのは取っつきづらい、と躊躇っている方にこそ声を大にして主張したいです。
「この小説はこの世界観だからこそいいんだよ!」と。
本作は読み応えたっぷりの素敵な恋愛小説です。
ヒーローのコウに恋をした主人公・ミキが彼を想う姿は可愛らしく、ずっと貴方の傍にいたいと切実に願う姿は胸にぐっときて。そして想像も超えた悲惨な人生を送る中でも優しさを失わなかったコウが、ミキを心の底から慈しみ愛おしむ様子は時に切なく時に悶えます。
ですが二人の恋は強大な法と制度に阻まれており一筋縄ではいきません。次々と課される苛酷な試練の数々に「もうやめて! 二人を幸せにしてあげて!(泣)」と叫びたくなりますが、その分彼女達が結ぶ強い絆と信頼感が心に染み入り、頑張れー負けるなー!と全力で応援したくなります。
盲目的に溺愛し考え無しに突っ走るのでなく、障害に対して二人が理性的に着実に対処していく点も好感が持てます。
そして外せないのがサブキャラです。コウとはある関係を持つ男性係長と女性リーダー、元上司であるコウを慕う新人三人組、ミキの婚約者や彼女の近所に住む親子等々……彼ら一人一人にもしっかりと個性があり、生き生きとした描写で書き分けされているところが凄いです。
あと設定はダークですが、ミキの一人称で語られるのもあって結構くすっと笑える描写があるのもポイントですね。
ディストピアな世界の中に織り込まれる丁寧な感情描写、そして純粋な想いと運命の愛の物語。是非読んでみてください!
稀にみる、純粋な恋愛小説。舞台は、地上世界が壊滅し、人類は地下で暮らし、平均寿命も大幅に下がっている――という、ディストピア的世界観ですが、あくまでSFではなく、恋愛小説です。
主人公のミキと、そこに転がり込んできた「完璧な人間」であるコウーー二人をとりまく状況は特殊なもので、だからこそ、二人のストーリー、二人の関係を際立たせることに成功しています。SFの世界が、すごくうまく、恋愛のために使われている。そこが斬新であり、また、古くからの恋愛小説としての基本でもあります。
現代のリアルな世界においては、なかなか、周囲の状況が恋愛の障害になる、という状況は難しいです。昔だったら、それが身分差であったりという状況があったのですが。それを、SFを取り入れることによって、状況を乗り越える恋愛という王道を描くことに成功しています。
なんて、これは書き手として感じた感想ですが、一人の読者として読んだときに、ただただ、この世界にのめり込めました。二人の関係と未来に、ただただ、心がやきもきしました。純粋な恋愛小説を読んでみたい方、おすすめです!