第2話 cross.2


11月の半ば、


目の前にあの人が立っている夢を見た。


私に背を向け、何かから私を守ってくれているような、そんな後ろ姿。

けれどあの人の向こう側がかすれて見えない、いや。あの人の姿も少しかすれている。

けれどそれでもあの人と分かるのは、腰より下まで伸びた白い髪、毛先が軽く内巻きになっていて、それがたまらなく好きだったから。

次々に感情が湧いて出てきて、私の頬を濡らしていく。

なぜこんなにも悲しいの?私はこんな光景、出会ったこと無いはずなのに。

これはただの妄想でしょ?夢でしょ?

今までただただ平凡な映画を見ていたような感覚だったが今日は違う。

まるで、私がそれを見て、それを感じていた。そう。私がそこに居て、当事者で、私の感情だった様。


おかしい。この人は誰?会ったこと無い。けれど懐かしい、そばに居たい。

おかしい。この記憶は誰の物で、誰かが経験していて、でもどうして私が見ているの?

これは私の記憶?そんなわけ無い。だって、私はまだ高校生で、ただただ平凡な日常を過ごしてきた。

いままででこんな事は起こったことないし、こんなに悲しい思いをしたことが無い。

じゃあ一体この記憶は何?


ふと、デジタル時計が目について、10:12という数字が頭の中に、張り付いた。

10:12?10...時...12分...??


「遅刻だああああああ!!!!!」



:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



「いやぁ、あの千咲さんが2時間目から登校とは、ご立派になりましたなぁ。」


お昼休みになり、がやがやとした教室で二人、私の机でお弁当を広げた。

一夜は私が遅刻したことによっぽど満足しているのか、私が登校して来た時からずっとにやにやしている。授業中もずっとだ。


「それ褒めてんの?貶してんの?」


「さぁ~?」


「そんな顔で、よく先生に怒られなかったね。」


「だって一夜ちゃんかわいいから♡」


「自分で言うな。」


いつものようにノリ突っ込みをしながら、おかずとご飯を交互に口に運ぶ。


けれど、授業中も今も、ずっと頭を離れないあの記憶。

よし、思い切って一夜に相談してみようか。


「な~に?」


「え、まだ何も言ってないけど。むしろ呼んでもいないんですけど。」


「だってずっと私の顔見てたし。何かあったの?」


「あぁ、そう... ...あのね、今日不思議な夢を見て...」


私が話す内容に、へぇ~といいながら、食後に大好物の林檎を口に運ぶ一夜。あ、人の形だ。どこで覚えたんだそれ。


「でもさ、千咲。」


「どこで覚えたのそれ。」


「あぁ、まぁね。それよりさ、なんでそれが記憶だって分かったの?」


その瞬間、自分でも体が凍り付くように、全身の血の気が引いたのが分かった。

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アイサレイティッドゥ 雲財 響人 @benitiyo

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