アイサレイティッドゥ

雲財 響人

第1話 cross.1


くろくろくろ...黒い色、闇の色、何にも染まらぬ色。


あかあかあか...赤い色、鮮やかな色、血液の色。


それぞれを同時に見たのが、あの時あの場所あの人。


本当にそれは私の記憶なのか、夢なのか、はたまた妄想なのか。


今でもわからない、ずっと私の中にある映像。

音声の何一つ無い、ただ私の意思と相反して 勝手に流れていく風景。

短くも長くもない、そう、アニメみたいな、見飽きないちょうど良い長さ。

あの人が誰なのか、あの場所はどこなのか、何時かあったようなあの時間。

そんな曖昧な映像。

あの人の名前が知りたい、けれど知っている気がする、そんな人。


いったいいくつの時から見ていたのだろう...確か6歳の誕生日の日に...


:::::::::::::::


千咲ちさ!ちーさっ!!」


その瞬間、私は意識を取り戻した。

目の前には真っ白な天井に、布がそこから垂直に伸びている。


「千咲!!目が覚めた!良かったほんとごめんねボールぶつけて!」


ボール?一人早口で言葉を並べていく一夜ひとよ


「なにこのベタな目覚め方。」


「そーだね、ボールが頭に当たって気絶して、保健室で目が覚めるとか、結構ベタだね。しかも私の気まぐれの呼びかけで目を覚ますなんて。」


「一夜、長い解説ありがとう。」


はぁ。と一つため息をつき、ベッドの境界線から足を出して座る。


「ねぇ、今何時?」


一夜は、高校生ではなんとも幼稚な、耳と同じ高さで結った二つ結びにするっと左指を通して、くるくると人差し指に巻き付けていく。これが彼女の癖なのだ。


「さぁ?でももう放課後だよ。これもベタだね。ほんと普通の世界に生きてるんだね、千咲は。私がボールぶつけたの、4時間目の体育の時だよ?つきっきりでそばにいたんだかr」


「いや授業受けろよ。私をだしにして授業をサボるな。」


すかさずつっこみを入れる。


「えー、そんなこと無いよっ!だって死んじゃったら困るじゃーんっ!っと一夜は少々ブリッこ気味で反論してみる。」


どこの有名な小説のキャラクターだよ。といいながら、一夜の肩を軽く叩いた。

意外と手が痛いな。じんじんする。よく恋愛ドラマとかでやってるあのビンタ、実は手が破裂してるんじゃ無いか?と一人妄想を終え、肩をさすっている一夜に目を向けた。


「ねぇ、帰ろ?色々としんどい。」


私はベッドから立ち上がり、そばに置いてあった鞄を持った。軽い。持ってきてくれたのはいいけどこいつ中身忘れたな。


「はーい。かわいそうだねぇ若いのに。いろんな大変なことがあって。」


「おまえいったい幾つだよ。」


「1500歳くらい?」


「浅薄過ぎるだろ。じゃー、そんな大大大大お婆ちゃんなら、鞄の中の教科書忘れても仕方ないね。」


きょとんとしながら私を見つめ返す一夜。


「...だって持って帰っても使わないでしょ?」


はい!ごもっともです!返す言葉がありません!降参しました!鞄が軽くていいね!!


それを私は満面の笑みで一夜に伝えた。もちろん言葉になんて発しない。

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