社会の複雑化を見極め世に出た秀作

この作品は私には大きなチャレンジでした。私は男性で、ホモでもなく当然腐女子でもない。いわゆる多数派ということになります。またそういう特徴を持つ方もあまり身近ではありません。そのため、きっと一部の人には面白いんだろうけど私にはわからないだろうな、と漠然と思っていました。

しかし読んでみると、主人公とヒロインの描写が丁寧で、すんなり話についていけました。なるほど私にこういう性質があればこういう悩みが出てくるだろうな、と納得感もありました。そして、この作品は1つの大きな社会への問題提起なのだと思うに至りました。

多数派の少数派に対する蔑視というのは基本的には生来の性分に根ざしたものであり、同性愛者であっても例外ではないと思います。だからこそ人間は発達した大脳新皮質を活かして動物的な部分を律するべきだ、という倫理を持つべきであるとなります。

しかし社会に十分なルールが確立されていない場合、どう律するのが良いのか、は個人の裁量に任されます。法律には抽象的なことしか書いてないですし、学校ではあまり教えてくれないし。

この作品はそうした問題が顕在化するとどうなるのか、という思考実験であり、かつドラマとしての起伏もかなりはっきり用意されています。この両立はかなり難しかったのではないでしょうか。

同性愛というテーマに対して経験的に全くなじみがない私にとって、本作は単にドラマとして感動できただけでなく、同性愛という世界に対する非常に良い入門書でもありました。古いキャッチですが、面白くて為になる、と感じました。

単に同性愛をテーマにした作品は色々目にはしましたが、そうした世界を異性愛者の目線にまで降りて説明してくれたなと感じたのは初めてでした。
作者様へ深く感謝します。また、異性愛者を含むより多くの方へ読んでいただきたいと思います。

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