達観少女-私と一緒に哲学……しよ?-

NAAA

第1話

  俺の名前は藤宮楽観ふじみやらっかん、どこにでもいる普通の高校生だ。この楽観という名前は親父が楽観的に生きた方が人生楽しいとかいう適当な理由で決めたものだ。しかし俺は声を大にして言おう!人生を考えれば考えるほど楽観的には生きれなくなると! そんな真理に辿り着いてしまった俺は多少ネガティブ思考ではあるが、それなりに楽しい高校生活を送っていた。


 そんな俺に高校生活のピーク、いや人生におけるピークがやってこようとしていた。放課後の掃除中、同じクラスの達視悟美たつみさとみから呼び出されたのだ。彼女は誰もが認める学校一の美少女で、誰にでも優しく、気さくな、まるで女神のような人だ。おまけに学力もトップクラスと非の打ち所がない。

 彼女はすれ違い様、俺以外誰にも聞こえないような小さい声でこう言ってきた。



「あの……藤宮君……。掃除が終わったらコンピューター室まで来てくれないかな。私、待ってるから……」


 そう言って俺の返事は聞かずに走り去って行った。なぜコンピューター室なんだ?とも思ったがそんなのは些細なことだ。正直掃除どころではなかったが決められた分担はきちんとやり終えてコンピューター室へと向かう。コンコンと扉を叩くと、小さい声でどうぞ、と返事があった。

 扉を開けると、部屋の中央辺りに達視悟美がいた。


「来てくれたんだ……」


 彼女ははにかんだような笑顔を浮かべ言う。


「なんだよ、こんなところに呼び出して……」


 俺は照れ隠しのために少しぶっきらぼうに言う。


「ごめんね、急に呼び出して……。あの、藤宮君にお話があるの……」


 彼女は申し訳なさそうにそう言って、ちらっちらっと俺を見てくる。俺より背が低い彼女は必然上目使いになり、そのほほは赤く染まっていた。


「な、なんだよ……」

「あ、あの……」


 平均よりは少し大きいくらいの胸の前で組まれた指は細く、わずかに震えている。彼女の目が伏せられ俺から目が逸れる。長いまつ毛がまたたき、意を決したように顔をあげ俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。こ、これはもう、間違いないだろう……!。オーケーすればいいんだよな!? そういうことだよな!?

つやっとした可愛らしい唇から、素敵な言葉が紡がれる。


「あの! 私と一緒に世界について考えませんか!?」

「ま、まあ達視がそういうなら……って……えっ?」


 な、なんだ? 世界についてとか聞こえたぞ?俺の聞き間違いか? そんな俺を無視して達視悟美はほっとしたように言う。


「よかった~。断られたらどうしようかと思った~」


 全くよくない。いったいどういうことだ? 訳が分からない。そんな俺の動揺はつゆ知らず、彼女は満面の笑みで俺に向かって言う。


「じゃあ改めまして、藤宮君! 哲学部にようこそ!」




 こうしてなぜか哲学部とやらに入部させれた俺は毎日放課後にコンピューター室で達視悟美と会うことになった。どうやらこの部活は学校からは非公認の彼女が勝手に作った部活らしい。部員は俺と達視悟実だけ。コンピューター室である理由は調べ物が便利だからとのこと。俺を選んだ理由は周りより少し大人びているから話についてきてくれそうとのことだった。活動内容は世界について考える。といっても彼女が持ってきた議題についてただ話すだけだ。


「藤宮君! 今日は血液型占いについて話し合いましょう!」


「なんだよ。血液型占いなんてあてになんないだろ。それともお前は信じてるって言うのか?」


「いいえ、信じているわけないでしょう。あんな占い何の根拠もないわ」


だったら別に話すこともないだろ、と思ったが、彼女はそうは思わないらしい


「でもね、藤宮君、世の中には信じている人もいるし、その占いの結果だって議論すべきところはたくさんあるわ。例えば藤宮君は何型?」


「B型だ」


「B型の人はよく自分勝手とかって言われるわよね。でも別に藤宮君が自分勝手とは私は思わないわ」


 おお、結構評価高いな。そこはかとなく照れるぞ。


「でもね、藤宮君。私には分かるわ。藤宮君は自分がB型というとやっぱりとか、そうだと思ったとか言われていたでしょう?」


 ニヤリと笑って彼女は言った。少しムカつくが可愛いので許そう。でも、確かに血液型の話題になるとそんな反応が帰ってきたな。B型には磨見えないとは言われた記憶がない。それがどういうことだと目線だけで問いかけると、彼女は悪びれもせずこう言ってきた。


「それは暗に自分勝手と言われているのよ」


 胸にグサッと何かが突き刺さる。そこはかとなく傷つくぞ……。


「うわー……。まあそうだな。なんか理不尽な気もするけど、確かにB型ってあんまりイメージよくない気がするし」


 そう俺が言うと彼女は目を輝かせながらぐいっと俺の方に近づいてきた。……近い、近いよ! もっと近くても俺は構わないよ!


「そう! そうよ、藤宮君! 理不尽に思って当然よ! 人の性格を血液型で判断するのは誰が何と言おうと悪よ!ブラッドタイプ・ハラスメント略してブラハラという言葉もあるくらいだもの」


 ブラハラなんて聞いたこともなかったな。さて、俺の血液型は公開したんだ。お前のも教えてもらおう。


「そういうお前は何型なんだよ?」


 ふふんと鼻をならして彼女は答える。


「私はA型よ。真面目とか几帳面とか言われてきたわ」


 ずいぶんイメージいいな。俺とは大違いだ。


「A型はよくそう言われるもんな。B型の俺からすればイメージがよくて羨ましいよ」


 そう言うと彼女はうんうんと頷きながら言う。


「そうね。A型は真面目、O型はおおらか、B型は自分勝手、AB型は変わり者という風に一般的に言われているわね。他にもあることないこと血液型によって言われることがあるけれど、明らかにA型とO型が優遇されて、B型とAB型は冷遇されていると思わないかしら? ではなぜそう思われるようになったのか藤宮君は分かる?」


 俺は少し考えてみるが、思いつかない。


「わからんな……」


 素直にそう言うと彼女は説明してくれる。


「それは日本人の血液型がこの順で多いことで説明がつくわ。一番多いA型と二番目に多いO型の人数が多いからこのような結果になるの。だって誰もが自分のことをよく思われたいと思っているもの。結局人数の多い方が得をして、得をする方に人数が集まる。血液型占いからそういう真理が導きられると思わない?」


 いや、血液型占いでそこまで考えるのはお前くらいだと思うが……。しかし日本人の血液型の割合なんて気にしたことがなかったが、もしそれが事実なら確かに納得がいく。


「B型がもっと多ければ俺のイメージも変わったかもしれないってことか」


 俺がそう言うと、彼女は胸をそらしてドヤ顔で言った。少しムカつくが胸が大きいので許そう。


「安心なさい、藤宮君。日本人にB型は少ないけれど、ゴリラは全員……B型よ!」


 だからなんだっていうんだ……。俺にゴリラにでもなれって言うのか……。彼女は満足そうな顔をして頷き、それから大きい目の片方をパチリと閉じて言う。うわ、女の子のリアルウインク始めて見た……。めっちゃかわいい……。




「今日はこの辺にしておきましょう。明日はインターセクシャル、半陰陽や両性具有とも呼ばれる人達について考えてみましょう。2016年はオリンピックがあったけれど女性アスリートの中でも問題になることがあるわね。ちゃんと予習しておくように!」


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連載にしようと思っていたものを短編として書き直したものです。 理由は連載しても読まれなさそうだなぁと思いまして……

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