バイト中に暇だったから2人で防犯訓練をやろうとしたら相方が強盗役の準備をしている間に本物の強盗がやってきてしまい、それを最後まで相方の変装だと思い込んでいた話

春永永春

バイト中に暇だったから2人で防犯訓練をやろうとしたら相方が強盗役の準備をしている間に本物の強盗がやってきてしまい、それを最後まで相方の変装だと思い込んでいた話



佐藤「暇だな」


田中「ああ、暇だな。こんな客のいないコンビニ、すぐ潰れそうだ」


佐藤「案外すっからかんの店の方が、強盗に狙われるんだよな」


田中「まずいじゃねーか」


佐藤「防犯訓練やろうぜ」


田中「俺とお前で?」


佐藤「二人合わせて?」


田中「防犯☆訓練ズでーす! ってなんでやねん」


佐藤「俺が強盗殺人犯やるから」


田中「待ってなんで殺人犯足したの? え、俺死ぬの?」


佐藤「ちょっと外で準備してくるわ」


田中「おい一応仕事中だぞ」


佐藤「どうせ客なんてこねーよ。休憩ってことでよろしく」


田中「仕方ねーな。40秒で支度しな」



~5分後~



田中「おせーな……」


ピロリロリーン♪(入店音)


田中「らっしゃいませー!」


強盗「お、おい! そこのお前! 金を出せ!」


田中「な、なんだお前は!」


強盗「このナイフを見てわかんねーのか! 強盗だ!」


田中「おお、待ってたぜ」


強盗「!?」


田中「すげー本格的な変装じゃねーか。いつから用意してたんだ?」


強盗「!?!?」


強盗「お、お前、俺を知っているのか!?」


田中「知ってるも何も、俺とお前の仲じゃねーか」


強盗「!?」


田中「っと、いかんいかん。強盗なんだし、ちゃんとビビってやらないとな」


田中「うわあああっひいいいいい! やめてくださいお代官様! 命だけはああああ!」


強盗「!?!?」


強盗「よ、よくわかんねえが、とにかく金を出せ!」


田中「お金、お金でございますね! こちらをお納めください!」


強盗「それでいいんだ……あ? なんだこの紙切れ」


強盗「『肩たたき券』なめてんのか! つーかよくレジに肩たたき券入ってたな!?」


田中「ひいいいすみません間違えました!」


田中「やめてくださいナイフを突きつけないでください(ピッ)1点で598円のお会計になります」


強盗「凶器スキャンしてんじゃねーよ!」


田中「バーコードがあるとつい……」


強盗「職業病もたいがいにしろ! いいから金を出せ!」


田中「1万円コースと10万円コースと100万円コースがございますが、どれにしますか?」


強盗「!?」


田中「1万円コースはレジからすぐに出せます。保険が下りるので店的には痛くありません。一応通報はします。10万円コースは金庫から出します。少し時間がかかります。保険がきかないのでワンプッシュで警備会社へ通報できるボタンをすぐに押します。逃げるときにカラーボールを投げつけます。100万円コースは店のATMから特殊操作でお金を下ろします。リスクの高さはお察しください」


田中「では、どれにしますか?」


強盗「え、えっと……」


強盗(なんでコイツ笑ってやがるんだ……!? 強盗が怖くないのか!?)



~店の外~



佐藤「やべえやべえマジやべえよ。おいどうなってんだ。あれ強盗じゃねーか」


佐藤「と、とにかく警察に……」


佐藤「もしもし警察ですか!? コンビニ強盗です! 場所は――はい、はいお願いします!」


佐藤「くそっ、到着まで5分以上かかるか……田舎だからな。にしても田中のやつなにやってんだ!? 俺の変装と勘違いして舐めた対応してやがる」


佐藤「やべえ、強盗が俺と勘違いしてる田中が金を出すわけがない。このままじゃ警察が来る前に、田中が殺されちまう!」


佐藤「仕方ねえ、こうなったら用意してきた強盗変装セットを使って……!」



ピロリロリーン♪(入店音)



田中「らっしゃいませー! ……え?」


佐藤「オラァ! 強盗だ! 金を出せ!」


強盗「!?」


田中「ほ、本物の強盗だと!? まずい……! おい、事務所に入って警察に通報してくれ!」


強盗「えっ、俺が?」


田中「そうだよ早く!」


強盗「わ、わかっ――てねえよアホか! 俺も強盗なんだよ!」


田中「この状況でふざけてる場合かよ!」


強盗「ふざけてんのはお前だろ!」


佐藤「テメエら俺を無視してんじゃねえ! ぶっ殺すぞクラァ!」


佐藤「おい! そこの黒ずくめの強盗みたいな変な格好した店員!」


強盗「俺!? どう見ても店員じゃねーだろ!」


佐藤「そっちの店員と親しそうに話してたろうが! レジの金をありったけ出しやがれ!」


強盗「なんで俺が――わか、わかったよ! その日本刀を下げてくれ!」


田中「逆らうな、金よりも命が大切だ」


強盗「そうだな……ありがとう」


強盗「で、これどうやって操作するんだ?」


田中「パニクって忘れちまったのか? ここをこうして、ピッてしてプッだよ」


強盗「ほうほうなるほど。お~、レジが開いた。ハイテクだな」


強盗「えっと、で、次はどうするんだっけ。1万円コースと10万円コースと?」


田中「いやそれは俺がふざけてただけだから! そのままレジの金渡して!」


強盗「やっぱりふざけてたんじゃねーか!」


田中「いまそれどころじゃねーだろ!」


佐藤「つべこべ言ってんじゃねえ! 早くしろ!」


田中「ヒイイ!」


強盗「ヒイイ!」



ピーポーピーポー

ウ~ウ~



田中「け、警察!? 助かった……」


田中「残念だったな強盗犯、逃げ場はない! もう終わりだ!」


強盗「ああ……もう終わりだ」


佐藤「そうだ、終わりだ!」


田中「ちょっと待って、誰が誰に言ってんの?」



ピロリロリーン♪(入店音)



警察「警察だ! 武器を捨てて大人しく投降しろ! 抵抗すれば罪が重くなるぞ!」


佐藤「うむ」


強盗「……」


田中「ま、待ってください! 違うんです! こいつは、こんな格好してるけど店員なんです!」


強盗「えっ!?」


佐藤「ちょまっ!?」


田中「強盗はこっちの日本刀を持っている男のほうだけです! 早く取り押さえてください!」


佐藤「おい待て田中! 違うんだ! 俺は――」


警察「確保ーっ! 抵抗するなー!」


強盗「……どうなってるんだ」


田中「良かったな、助かって」


強盗「お、お前……まさか俺をかばって……?」


田中「当たり前だろ。俺とお前の仲じゃないか」


強盗「お、俺……こんな良い奴を襲うなんて……!」


強盗「俺、間違ってたよ。やっぱりちゃんと働く。なあ、ここで雇ってくれないか? 必ず真面目にやるから」


田中「何言ってんだ、お前はもうここの従業員だろ?」


強盗「あ、ありがとう……!」


田中「ホラ、早く着替えてこい。そんなカッコしてたらまた誤解されんぞ?」


佐藤「田中あああああ! 待ってくれええええ! 気づいてくれえええええ!」


警察「コラ、暴れるな! こちら101号車。容疑者1名を現行犯で逮捕。今から署へ連行します」


佐藤「田中ああああああ!」


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バイト中に暇だったから2人で防犯訓練をやろうとしたら相方が強盗役の準備をしている間に本物の強盗がやってきてしまい、それを最後まで相方の変装だと思い込んでいた話 春永永春 @eishun

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