Res.5
……。
…………。
……結果だけを先に言っておこう。
あれから僕と“こよ☆こよ”さんで一年程続けていた“サイト盛り上げ活動(仮)”は、順調に事を運べていたにも関わらず、ある日突然、呆気なく幕を下ろした。
何が原因だったのか。どれが失敗だったのか。考えれば考えるほど、誰かに責任を押し付けてしまいそうで、少し怖くなった。でも、多分、僕達は考えが甘すぎたんだと思う。
……あの掲示板での会話を境に、その他の小さな小説投稿サイトに狙いを絞った僕達は、順調に宣伝活動を行っていった。
最初、“こよ☆こよ”さんの考えてくれた宣伝文章をそのまま貼り付けていく、それだけの単純な活動をしていた。だが、それは後に怪しげなサイトの広告だと勘違いされてしまい、別の方法を考えた結果、地道にサイトの人間になったフリをして、個人個人に宣伝を行うようになっていった。
やり方としては単純で、サイトに入ってまだ日の浅い人にターゲットを絞り、親しくなった頃合を見て「こっちのサイトも良いですよ」と声を掛けていく。
時間の掛かるやり方と、騙しているみたいで多少良心が痛む事を除けば概ね順調であり、三人に一人くらいは、僕たちのサイトに流れてくれた。これは元々、他人から見られる機会を求めている人が多いせいだと思う。
ただそれでも、離れていく人はいた。
一進一退の中、投稿してくれた人の作品には、なるだけ丁寧な感想を書く。そうした中で、サイトに来てくれた人達の中にも感想を書いてくれる人が増えていった。
徐々にではあるが、人を増やしながら次第に賑わっていく掲示板の姿を見て、少なからず嬉しくなった。
きっと、彼女も嬉しかったと思う。あの日以来、彼女と二人で会話をする事が叶わなくなった僕には、彼女の本心を聞く事が出来なかったけれど。
昔の、もっと言えば昔よりも賑わう掲示板になる可能性もあった。それに、亀裂を入れたのは、皮肉にも彼女……“こよ☆こよ”さんが原因だった。
彼女は、良くやってくれた。誰よりも懇親的で、誰よりも親身で、誰よりも人を引きつけた。そういう才能があるんだと思った。
カリスマ性のある人物というのは、いるものだ。話すだけで人を惹きつけてしまう。サイトに来てくれた人達のほとんどに感想を送り、分け隔てなく話をしていた。
ただそれだけに、影響力がありすぎた。
悪気は無かったのだと思いたい。
『ごめん。しばらく来れません』
この書き込みを境に、彼女は掲示板に現れなくなった。
何日も、何日も。
サイトの全員が彼女の帰りを信じて待ち続けた。だがある日、一人が
その内に一人、また一人と。掲示板に来てくれた人達は、日を追うごとに離れていった。
友人と集まった時、誰か一人が帰ると解散になるような現象に似ている。
そして、とうとう最後の一人になった僕も、サイトからは次第に疎遠になっていった。
彼女が何故、突然掲示板を離れてしまったのか。僕にあんな風にお願いをした彼女が、あんなに簡単に掲示板を手放すのだろうか。
怒りよりも、哀しさが優先し、その理由を必死に考えた。
彼女の
そうした日々を送っている内に、掲示板を見る回数は次第に減った。そして、彼女が掲示板を去った理由を考える事も減ってしまった。多分こうやって、人は人の死さえも忘れてしまうんだと思う。そんな考えが頭を過ると、人の頭の頼りなさがとんでもない欠陥のように思えてきた。だって、他人の存在を留めておくには、この脳みそは余りにも小さすぎる。
無気力に日々を送っていた僕に『流石に見てられない』と声を掛けてきたのは、浦波さんだった。彼女は僕に、演劇部の脚本を書いてほしい、と頼んできた。もっとも、書くと言えば聞こえはいいが、所謂共著……お手伝いだ。現在考えている脚本を元に、それぞれの箇所を分担して書く。その一つを手伝って欲しい、という話だ。
当初、僕は乗り気ではなかった。あらゆる事に無気力だった。浦波さんからは『なんか暗い』と突っ込まれたが、それが嘘偽りの無い僕だった。
何度も断ったつもりだったが、彼女もまた何度も説得に来た。断る事も面倒になってきた僕は、ついに彼女の説得に応じて、脚本の手伝いをする事を了承した。
読む事でしか文章に触れた経験の無い僕が、何を手伝えるのだろう。
やや穿った考え方を持ったまま、手渡された草案を脚本に起こす。……そこでは、今までにない、生身の人間関係があった。それぞれが意見を主張し、ぶつけ合い、一つの目標に向かっていく。だから彼ら、彼女らは笑い合っていた。インターネットサイトのような気楽な関係とは言えないけれど、それがどこか楽しく、羨ましかった。
書き上げた脚本を元に、演者は舞台を完成させていく。
そして、僕らの作った脚本の舞台当日。舞台の中央で僕の書いた台詞を読み上げる浦波さんの姿は、僕にはあまりにも眩しく映った。
僕が無気力に過ごしていた間も、彼女は現実を見据えていた。多分これはその差なんだと思う。
終演後、拍手に包まれたステージ。その上で手を振る皆の顔が本当に嬉しそうで、何故か僕まで嬉しくなった。
自分の考えた物が、形になる。それぞれの思考が一つの小さな穴に向かって進む姿が瞼に焼きついて離れなかった。
彼女の言葉を思い出す。
『絶対認められないって思ってる物も、いつか認められるようになればいい――』
そんな彼女の言葉に動かされるように。
三年生を目前に控えた年の瀬、僕は脚本を担当していた先輩のいる“シナリオ研究会”の門を叩いた。
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