真実の見えかた

 私はSNSに疎かった。まだガラケーで、来月からスマホに換えようと思いながら、何年も変わらずに過ごしている。



 リクとは、高校の同窓会で再会して付き合うようになった。25歳のとき。

愛佳あいかってまだガラケーなの?」

「うん。スマホとかよくわからないし、機械苦手だから」

「そうなんだ。でもずっとガラケーってのも……」

「リクはスマホなの?」

「そうだよ」

「じゃあ、買い換えるときにはリクに相談するね」




 交際して3年目の秋。私はリクと早く結婚がしたかった。

「リクのご両親に、会わせて」

「親に?」

「うん。私達そろそろかなって」

「……結婚?」

「リクは私との結婚、考えてないんだ?」


 私は泣きそうになった。


「いや、考えてないってことはないけどさ。まだ早いかな。俺も将来のこと考えて貯金とかしていかないと……な?」

「じゃあ、いつ頃?」

「うーん、いつって言われてもな。具体的に今決めないとダメ?」

「今じゃなくてもいいけど……考えといてね」


 リクは笑顔で抱き締めてきた。

 私はリクが大好きだ。いつも私を楽しませてくれて、デートもいろんな場所に連れていってくれる。

 それに、小さいけど会社も自分で経営してて、子供向けの木の玩具をネット販売してる。


 将来も安定してそうだし、結婚するなら、絶対リクがいい。



 でも、ひとつ気掛かりな事があった。

 私は、リクの友人に一度も会わせてもらったことがない。

 よく友人とカラオケや飲み会があるみたいだけど、呼んでもらったことはない。


 それぐらいかな。そのことをユウカに相談した。ユウカは笑った。

「そんなの、男友達で遊ぶのに彼女なんて連れて来たら気を遣わせるからじゃない?」

「あ、そっか。お邪魔だよね」

「そういうの面倒がる男もいるからね」

 私は納得とともに、安心した。リクに負担をかけちゃうもんね。



 今日は、リクが熱を出してデート出来なかった。謝罪メールが来た。

『ごめんな。また元気になったら埋め合わせするから』

『おだいじにね』

『ありがとう』


 日曜日なのに、丸一日、予定がない。

 せっかくだから、ガラケーをスマホに換えに行こうかな。

 午後に店に入ったものの、混みあってて受け渡しは閉店間際と言われた。

 それまで時間が空いたので、本屋に行き、スマホ活用術の雑誌を購入した。

 ツイッターとかフェイスブックってよく聞くけど、こんな感じなんだ。ゲームアプリもいっぱい面白そうなのがある。


 夜になって、スマホを受け取った。もっと早くスマホにしとけばよかったな。Wi-Fiも繋げたから、ネットし放題だし。

 家に戻り、早速色々とやってみたくなった。とりあえず、検索してみよっかな。リクの会社のホームページあるのかな……?

 私は『ウッドトイR』と、入れて検索してみた。

 関係ない会社の木の玩具のことは出てくるけど、リクの会社情報はなにもでない。

 ネット販売なのに、おかしいな。


 じゃあ、リクの名前なら出るかも?

『杉田陸』で検索してみた。

『杉田陸はフェイスブックに登録しています』

 リク、フェイスブックやってるんだ。


 私もフェイスブックに登録し、リクの画面を開いた。

 でも、これは同姓同名の別人かなぁ。

 職業、運送業だし。


 あ、でも……!

 学歴の有松高等学校……。

 これは、リクだ。

 運送業じゃないのにどうして?

 恐る恐る画面を開く。

 今日のページが出てきた。

『ナミと顔交換』。ナミって誰!?

 今日は熱があったんじゃないの!?


 次のページも、次のページも、ナミが出てくる。

『今日で付き合ってから半年記念』。指輪の写真。


 騙された……。リクに騙されてたんだ。私の知っているリクじゃない。


 ユウカに泣きながら電話した。ユウカはため息をついた。

「……それマジで?」

「ユウカも、そのフェイスブック見てくれない?」

「わかった。いったん電話切るから。確認するね」


 しばらくしてから、電話が鳴った。ユウカからだ。

「このナミって子、うちの店によく買い物に来てる客」

「え? ユウカの店って子供服だよね」

「そう。旦那と子供連れて、よく来てる。でも旦那は、リクって奴じゃない」

「てことは……」

「こいつも、ナミに騙されてると思う。まさか不倫だとはね。愛佳、こいつとはもう会わないほうが良いよ」


 何も知らないほうが幸せだった?

 いや、一人取り残されたところにいて、何一つ真実が見えてないほうが悲惨だ。

 私だって、リクをうわべだけで見てた。真実を知ったとたん、完全に冷めてしまった。


 さよなら、リク。































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