I love you

沙な

三角関係の定義

 きっかけは何でも良かった。


 彼氏という『文字』に憧れていただけなんだ。


 さすがに高校2年にもなって、産まれてから彼氏の一人すら出来ない私は、かっこわるい。

 周りの子には、どんどん彼氏が出来ていく。


 自分では、結構美人だと思ってるのに、誰も告白してくれない。

 ついに親友のミキに、彼氏が出来た。

 ミキにだけは勝つつもりだったのに。

 それもイケメンで、他の高校の子。部活の先輩からの紹介で知り合ったんだって。


 期末テストの帰り道、ミキと駅まで歩いていた。

千晶ちあきに話があるんだけど」

 真剣な顔でヒソヒソ話しかけてくる。

「なに?」

隼人はやとのことで」

 また彼氏の話? いつも自慢話ばかりで、正直ウザイ。

「彼氏が? どうしたの?」

 そのとき、ミキが眉間にシワを寄せた。

「隼人が、マジ過ぎて無理」

 やっぱり自慢話か。

「何が無理?」

「まだ高2だよ? なのに、結婚とか将来のこと話されても……ね?」

 なにそれ。うらやましいけど。

「ミキは隼人君と結婚する気ないってこと?」

 ミキは照れ臭そうに笑った。

「そういうことじゃなくて……、ほら、なんて言えばいいのかな。重い。重いんだよ」

「ふうん。じゃあ別れたらいいのに」

「それは、さすがに可哀想かなって」


 そんな風に思われてるのに、何も知らずにミキと付き合ってる隼人君。可哀想。

「ミキ、それぐらい愛されてるほうがしあわせなんじゃない?」

「まあ……ね。でも、結婚とか言われると引いちゃうし」

「じゃあ、私から隼人君に言ってあげようか?」

 ミキは立ち止まった。

「え……? 言うって、何を?」

「重くならないように。もちろんミキの印象を悪くするようなことは言わない。上手く隼人くんに忠告してあげる」

 ミキは不安そうに右手の人差し指で唇を触っていたが、手を降ろした。

「じゃあ、千晶に頼んじゃっていい?」

「いいよ」


 私達は駅で別れた。ミキから隼人君を呼び出し、隼人君と私だけで話をするために。


 駅近くのファミレスで隼人君が待っていた。

 不安で今にも泣きそうな顔だけど、やっぱりイケメン。

「ミキの話って?」


 ここで、脳裏に悪い考えが過った。

「ミキ、今ね、隼人君の他にも気になってる人がいるみたいだよ。」

「……」

「私はミキに怒ったの。隼人君がいるのに酷いよって」

 隼人君は黙って聞いている。

「だけど、隼人君に自分から別れようって言えないんだって。隼人君はどうしたい? ミキと別れたくないよね?」

「……別れたくない」

「だよね。ミキも一瞬だけ気持ちがフワフワしてるだけだと思う」

「俺は……どうすればいい?」

「私とライン交換して。ミキがどういう状況か、その都度教えるから」

「わかった」

 隼人君とラインを交換した。

「ミキには絶対内緒だからね」



 それから、ミキに隠れて私は隼人君に会うようになった。

 隼人君は最初ミキひとすじだったのに、今は私とミキを二股している。

 でも、大事にされているのはミキ。本命は変わらない。

 悔しかった。だから全てミキに暴露した。

 隼人君とミキは別れた。

 私と隼人君の関係も切れた。

 私とミキは今、ただのクラスメートになった。


 でも、今回の件をミキは周りの誰にも漏らさなかった。もし漏れていたら、私はクラスでやっていけなかったと思う。


 小学校からの親友だったのに、簡単に裏切ったのは私。こんなにバカな事をして、私は大事な親友をなくしたのだ。


 でも、ミキは優しかった。

 私達の関係は、再び友達に戻った。

 そして、社会人になり、私にも彼氏ができた。付き合ってほしいと、はじめて言われた。

 ミキにすぐに電話で報告した。

「私、彼氏が出来たよ」

「マジー!? 千晶、良かったね。どんな人?」

「面白いし、優しい感じかな。仕事も出来て」

 ミキは少し沈黙してから、一言だけつぶやいた。


「会ってみたいな」


 end











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