最終話 もしも刻を戻したならば…IF…
その夜は、長く…早く…4人で朝日を浴びるまで騒いだ。
それから…度々、そんな日が訪れ…月日は慌ただしく…穏やかに流れた。
僕は時折だが、実家に顔を出すようになった。
時間の流れは不思議なもので、不器用ながらも、僕達は家族になろうと少しずつだが変わっていこうとしていた…ぎこちないながらも…。
奈美の実家にも顔を出している。
もちろん、能力のことは伏せて。
緩やかに流れる刻のなかで、いくつもの変化が訪れる。
この変化を僕にくれたのは…奈美、キミだよ。
奈美がいたから、僕は皆に会えたんだ。
僕の能力は奈美…キミのためにあるんだ。
奈美…ありがとう。
琴音さんは、専門学校を卒業後、この街へ戻ってきた。
今は、お店を開店させるべくイタリア料理店で見習いシェフとして働いている。
舞華さんは、そこのシェフといい関係になってきているようだ。
奈美の話だから、どうだか解らないが…。
奈美は、舞華さんの店で社員として働きながら、週に3回、子供に絵を教えている。
月謝は安く…趣味でやっているらしいが、生徒は徐々に増えているようだ。
今は小学校で美術教師の非常勤を頼まれているようで悩んでいる。
僕は…工場を辞めた。
僕達の部屋で、デジタルフォトフレームが歴史を刻む。
あの夜4人で撮った写真は、少しずつ人数を増やしながら、時を刻んでいく。
4人が知り合った人達が、混ざっていく…時には別れたりもする…。
そうやって、僕達は今を歩いていく。
「アナタ!早くしないと~かき氷溶けはじめてるよ~」
奈美が下の階から僕を呼ぶ。
「パパはグズですね~」
奈美が子供をあやしながら、僕を待っている。
「ほらっ、溶けちゃったじゃない…戻して、早く!」
僕は執筆の手を休め、下に降り、かき氷に手を当てる。
テーブルの上に置いてある小説。
『刻戻し』
やっと1冊本になった、僕の書いた短編小説集…今は2冊目を執筆中の駆け出し作家。
というより…奈美の便利な家電品…それが今の僕だ。
楽しいばかりじゃない…でも…みんな未来を視て歩いてます。
泣いたり…笑ったり…手を繋いだり…離したり…。
それでも一緒に歩いてくれる人がいたならば…。
「はい…かき氷、食べようか」
「あっ…熱いお茶淹れるね♪」
かき氷に熱いお茶…それでいいんだ、奈美。
そんなキミだから…キミが紡いでくれた今だから。
僕は『今』を歩けるんだ。
Fin.
もしも刻を戻したならば…… 桜雪 @sakurayuki
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