第73話 wish somebody good luck 幸あれ

 同棲を初めてから…半年が経とうとしている。

 季節は初夏。


 今日…僕は奈美の友人に会う。


 一緒に暮らし始めて、すぐに舞華さんに会った。

「あなたが…『ユキ』さんね…」

 その表情は複雑で、色々な感情を秘めていたように思えた。

 彼女の叔母の事は奈美から聞いていた、僕は幼いころの思い上がりを謝罪したいと思っていたのだが、

「ありがとう…どんな形であれ、命を救ってくれたことに感謝しています」

 そう言ってくれた…。

 また、ひとつ…救われた気がした。


 舞華さんから、叔母さんの家族…僕の同級生の家族の近況を聞いた…。

 自然と涙が零れた。

 良かったのか…悪かったのか…僕に判断はできない。

 無責任なことだが…。

 流れた涙の理由もわからない。

 後悔なのか、安堵なのか…。

 舞華さんは、僕の肩に手を掛け…「ありがとう」と言いながら泣いていた。

 その手に、少し力が込められると…僕は、責められているような気にもなった。


 そんなギクシャクした出会いから…奈美を通じて、今では普通に話せる関係になっている。

 そして今日…舞華さんと奈美…そして琴音さんと会う。


 ちょっと豪勢な店…、皆が少しだけ贅沢して予約した店。

 琴音さんのことも奈美から聞いているし、僕も覚えている…。

 正直な気持ちを言えば…会いたくはない。合わない方がいい。

 そう思っている。

「でも…私の大切な友人なの、ユキが導いてくれた関係なんだよ、だから会って」

 奈美の説得もあり、僕は、この店で琴音さんを待つ。


「楽しみだね~、久しぶりだね~」

 奈美はソワソワして…時折、部屋を出て店の入り口まで見に行ったりしている。

「落ち着きなさいよ…」

 舞華さんは、お茶を飲みながら足を崩してリラックスした様子だ。

 僕は…なぜか正座が崩せずにいた。

「大丈夫よ…彼女、色々あったみたいだけど…今は、ちゃんとしてるのよ…アナタのしてくれたことはチャンスを与えてくれたって言ってたわ」

「僕は…そんなつもり無かったのかもしれない…ただ…辛そうに見えたから…」

「うん…伝わっていると思うよ…」

「大丈夫だよ、ユキ…心配いらないよ」

 舞華さんも、奈美も僕を気遣ってくれている。

「ねっ…とりあえず、コレ温めて」

 奈美がバックから冷めた肉まんを取り出す。

 今や、僕の能力は奈美にとっては、電子レンジか冷蔵庫か…家電品扱いになっている。

 その様子をみて、脱力するように笑う舞華さん。

「こんな扱いなんですよ…」

 僕が舞華さんに言うと

「いいんじゃない…ちょっと便利な力…そんなもんなのかもね…それでいいんだよ」

「ふぅん、便利だよね、ねっ」


 …………

 琴音さんが部屋に案内されてきた。

「久しぶり~」

 奈美が抱き着く。

「うん…変わらないね…奈美、舞華さん…」

 そう言って琴音さんは、僕の正面に座り、

「…『ユキ』ね…初めましてじゃないんだよね…」

「そうです…あなたの事は覚えてます…」

「そう…ありがとうね…若返らせてくれてさ、シワが増えたら、また頼める?」

 そう言って、意地悪く…悪戯っぽく笑った。

「すいません…でした…身勝手な僕のせいで…」

「いいの、そのおかげで遠回りしたけど…したんだろうけど…今、こうして笑えるの」


 食事をして…お酒を飲んだ。

 僕は、酒に弱いらしいことがわかった。


 カラオケで歌わされた…楽しかった…笑えた…。


 この時間をくれたのは奈美…キミだよ。



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