正道をいく和風クトゥルフ神話

 明治の文明開化と共にもたらされた医学知識を武器に、奇怪な病に立ち向かう医師たち。当時の医学知識をふんだんに盛り込み、読者を明治二十三年の日本に送り出します。
 科学的視点から事態を考察する姿勢、怪異の正体を見極めるための行動力、そして事態の真相と、その解決。これらは本家ラヴクラフトの作風における魅力的部分を非常によく表しています。
 これは日本版ダンウィッチの怪でしょうか? かの先生はさしずめアーミティッジ教授でしょうか? いえ、そのように比較するのは野暮というもの。既存のクトゥルフ神話は調味料程度におさえ、オリジナルの要素を盛り込みつつ、作品全体としては明治日本の雰囲気を崩さない。あるいは、本家の雰囲気と日本の雰囲気が見事に調和していると言うべきかもしれません。本作を読む間の印象は、日本であると同時にラヴクラフトの作品のそれでもあったのです。
 クトゥルフ神話の一角を成すにふさわしい、素晴らしい作品でした。

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