第2話 hunter and en earl. 親愛なる伯爵夫人。

その日私は、上司の命令である伯爵主宰の舞踏会に参加していた。


社交界に名を轟かすその伯爵は、好色として有名だった。


しかし、一部の貴族からはある噂が立っていた。


それは…



"伯爵は吸血鬼"



だと言うものだった。



私は所謂、吸血鬼を狩る狩人を生業としている。


そこで、伯爵の事を調べるために女である私に白羽の矢がたったのだった。


舞踏会では、伯爵に言い寄る女はごまんといる。


そんな中から自分が選んで貰えるか不安はあった。


でも、意外にもあっさりと伯爵は私に興味を示した。


そこから男女の関係になるのは容易く、すぐに彼が吸血鬼だという確証を得る事が出来た。


彼は私にバレていないと思っていたようだが、私は隙をみて彼を捕えるつもりだった。


しかし、状況は一変した。


彼が、吸血鬼特有の喉の渇きに襲われたのだ。


苦しさに藻掻く彼を見て、私は咄嗟に『私の血をあげる』と言ってしまった。


お互いに吐いていた嘘がバレた瞬間だった。


その翌日、彼に呼び出されて彼の部屋に行くと、突然銃を差し出された。


私が訳が解らず受け取らずにいると、彼は自らのこめかみに銃口を当てた。



『私は君を殺せない。君が私を殺してくれればいいと思った。でも、私の為に君が罪を背負う事は無い』



そう言うと、彼は銃の引き金を引いた。


"パーン"という乾いた音と共にその場に崩れ落ちる彼を必死に支えて、泣きながら抱き締めた。



『お前は本当に狩人だったんだね…コレで君は助かるだろう…?』



私は自覚していた。


でも、職務全うの為に感情は押し殺そうと決めていた。


決めていたはずだった…


しかし、私は彼を抱き締めたまま泣いた。


泣き叫んだ。


それ以来私は、私の為に最期を選んだ彼に報いる為により一層仕事に励んだ。


そして月日は過ぎ、私には子供が出来た。


勿論、彼との子供である。


私は息子に彼と同じ名前を付け、息子だけには本当の事を話した。


私は、生涯彼だけを愛した。


彼も、私と同じだと信じている。


私が人生を全うするその時迄、どうか待っていて下さい。





fin.

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親愛なるアナタ 葱丞 @kurotasousuke

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