親愛なるアナタ

葱丞

第1話 an earl and hunter. 親愛なる伯爵の数奇な人生。

血に餓えた伯爵は、今宵も舞踏会で獲物探し。


社交界で伯爵を知らない者は居らず、そしてその美貌に言い寄る女は数知れず…


しかし伯爵は、その日の舞踏会である女に興味を惹かれた。


その女は、伯爵の容姿や美貌になど毛頭興味が無い様子で、何処か他の女達とは違っていた。


伯爵は初めて自分の美貌に興味を示さない女に出逢い、獲物の事など忘れて女に近づいた。


その日から、毎晩のように2人は逢瀬を重ねた。


しかし血に餓えた伯爵は、ある時自分でも制御しきれない程の喉の渇きに襲われた。


女がそんな伯爵に言った。



『私の血をあげる…』



伯爵は驚いた。


何故なら、伯爵は女に真実は告げずに普通の人間として付き合っていたからだ。


伯爵は思考を巡らせた。


たまたま女が自分の素性を知るとは考えにくい。


だとすると、残る可能性は女が狩人(ハンター)だという事。


喰うか喰われるか、生きるか死ぬか。


女が本物の狩人なら自分の身が危険だ。


伯爵は女を殺そうと考えた。


しかしこの時既に、2人は本当に愛し合うようになっていた。


お互いの立場も忘れ、ただ純粋に2人は求め合った。


だから伯爵は女を殺せない。


女も悩んでいた。


伯爵を殺さなければ自分が死ぬかもしれない…


しかし、愛した人を殺せない…


お互い揺れ動く感情の中で、悩んだ末に伯爵が出した結論はあまりにも悲劇的なモノだった。


伯爵は自室に女を呼ぶと、銃を差し出した。


首を横に振り受け取らない女に痺れを切らした伯爵が、持っていた銃の銃口を自らのこめかみにあてた。


゙パーン゙という乾いた音が一瞬響くと、伯爵はその場に崩れ落ちた。


銀の銃弾が伯爵を綺麗に貫いていた。


女は伯爵に近づきその身体を抱き寄せる。


すると伯爵が最後の力を振り絞り話し出す。



『お前は本当に狩人だったんだね…コレでお前は助かるだろう…?』



力なく笑うと、伯爵はそのまま息を引き取った。


女は泣き叫んだ。


自らを犠牲にしてまでも愛する者を守った伯爵は、棺に入れられても尚微笑んだままだった。


女は、葬儀の日を境により一層狩人としての仕事に力を入れた。


それは、伯爵の為だった。


もし自分が後を追っていたら、伯爵が自分の為にしてくれた事の意味が無くなってしまうから。


女は、伯爵が生きた証を身体に宿しながら仕事をしていた。


そして、やがて産まれた男の子は伯爵と同じ名前が付けられ、吸血鬼と人間という垣根を越えて人々から愛されるようになっていった。


女は、生涯伯爵を忘れなかった。


伯爵もまた、天国か、あるいは地獄で女を想い続けた…




fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る