ぱらいそと古本屋~さっさと参加しなさい!~
みれにん
ぱらいそと古本屋~さっさと参加しなさい!~
「てんちょうー」
カウンターでネット在庫の更新をしていた古本屋『ミレニアムブックス』のバイト、
「なんだい旭川くん」
店内入口近くのゲームコーナーで買取のソフトの動作チェックをしていた――決して遊んでいたわけではない……たぶん……いやちょっとは楽しんでいたかもしれない――店長、
「これ、なんか見慣れないメールが届いているんですけど……」
「どれどれ? あ、ほんとだ」
メールの送信元は『ゲームショップぱらいそ』となっている。
「ぱらいそ、ぱらいそ。うーんどっかで聞いたような……。なんかエロゲにそういうタイトルのがあった、ような」
大平は確認のために店内奥のアダルトコーナーに向かおうとしたが、ふと先日テレビで見たIT業界の大物のとんでもないニュースを思い出す。
「あ、こないだのあれか! ヒル・ゲインツの婚約会見」
「そういえばそうでしたね。婚約会見の場なのになぜスマホゲーの製作発表? って思いましたもん」
そしてその届いたメールこそ、発表されたスマホゲー『ぱらいそクエスト』への参加の招待なのであった。
『ぱらいそクエスト』とは、簡単に言うと3Dダンジョン探索型RPGなのだが、一番の特徴はキャラを得るための課金の方法である。
普通のスマホゲーならばネット上の仮想通貨で決済して課金を行うものだが、この『ぱらいそクエスト』はそのような方法は存在しない。
課金を行う方法はただ一つ。お店でゲームを購入した金額によりガチャを回せる、というものだ。
ダウンロード販売やスマホゲーに人気がシフトしてきている今、ゲームショップにとっては強力な販売促進ツールになり得る画期的なシステムだ。
しかも、参加費用は10万円弱と、個人経営の小さなゲームショップの懐にも優しい。
「しかしこんな田舎の、しかもゲームメインで扱っているわけじゃないお店にまでお誘いがあるとはねえ」
「いいじゃないですかこれ! 面白そうですよー。参加するんですよねもちろん」
興奮と興味から目を輝かせポニテを揺らす旭川。しかし一方の大平は渋い顔だ。
「うーん……。面白そうではあるけど、これ、企画元がこの『ぱらいそ』ってゲームショップなんでしょ? なんか怪しくない?」
「まあ言われてみれば確かに……。いくらあのヒル・ゲインツが関わっているとはいえ、いちゲームショップがここまでできるとは考えづらいですよねー」
「よし、旭川くん、偵察に行ってきて」
おつかいを頼むくらいの軽いテンションで大平が言う。
「はーい……って、えっ!? 都内にですか!?」
「だってほら君たち夏のイベント行くんでしょ、お盆あたりの」
「あー」
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「というわけで、きちゃったねー、『ぱらいそ』」
「きちゃいましたねー」
都内某所、10階建てのマンション。
その1階に『ゲームショップぱらいそ』はあった。
商店街で手に入れたコロッケ片手に入口から店内をうかがいつつ、旭川と
二人は都内で行われていた夏の大規模同人誌即売会にコスプレ参加し、もう一日都内滞在を延長して『ぱらいそ』を偵察しにきたのだ。
余談だが、二人がコスプレしたキャラは、某軍艦擬人化ゲームのパスタの国からきた重巡洋艦姉妹である。高清水が姉、旭川が妹。キャラの性格を考えると逆な気もするが。
「まあ今日の分は大平さんが滞在費持ってくれるって話だし、楽しんじゃいましょうかね」
「
「まじめだなあ千秋ちゃんは。ちょっとネットで調べてみたんだけど、このお店、いろいろすごいみたいだよ」
「いろいろ?」
「そ。いろいろ。じゃあさっそく実際に見てみよっか」
「わわっ、待ってくださいよー泉さん」
コロッケの残りを口に放り込み、ずいと店内に入店していく高清水。旭川は慌ててその後を追う。
「いらっしゃいませー、ぱらいそへようこそん♪」
「!?」
店内に入ると、胸元を大きく露出したオレンジ色のメイド服の女性に歓迎される。
突然のことに呆然としている旭川をよそに、高清水は生き生きとしている。
「ひゃー、セクシーメイドさん! おっ、あっちには絶対領域なミニスカメイドさんにチャイナドレス風まで……!」
花の蜜に誘われる蝶のようにふらふらと奥へ引き寄せられていく高清水。
「…………」
「……あれ? お姉さんどうしましたー? なっちゃんに見とれちゃってます? じゃあじゃあ、大サービスで……」
ぼんやりしている旭川が自分に見とれていると勘違いしたのか、胸の大きなメイドさんが勝手に服を脱ぎ始める。
「じゃーん! 『冷やしなっちゃん』始めましたっ!」
服の下から出てきたのは、きわどいビキニ姿。
「えっ? ええっと……」
さらに困惑する旭川。自身もメイド姿でバイトしていることがあるとはいえ、さすがにここまでぶっ飛んでいると頭が追いついてこないらしい。
そのとき、《なっちゃん》と名乗るビキニの女性に飛びかかる巨大な影が!
「オー! 私の女神なほうぐぉ!」
「はいはい、ストーップ。そういうのは店内ではご遠慮くださいねっと。……ったく、めんどくせぇな」
がしっ。
長身で黒いロングの巫女さんに軽々と引きずられ、Tシャツとジーンズというラフな格好の謎の外国人が店の奥に姿を消す。
一方、なっちゃんは平常なままでにこにこと笑顔を振りまいている。
(どうやらわたしは異世界に転移してしまったようです、てんちょう……)
いろいろとついていけていないまま、ふらりと店内に歩を進める旭川であった。
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(へー、しかしこのお店、品揃えがすごいなあ。うちはレトロ中心だし、そもそも中古しか扱っていないし、こういうのはすごく新鮮だ。さてさて、シューティングは……と、おお!?)
旭川が店内を物色していると、なにかが見えそうで見えないきわどいミニスカートなメイドさんがポップを貼り直している。今、旭川は棚の低い位置のソフトを見るためにかがんでいる。と、いうことは……。
(おおお……見えそう、けど見えないっ! このギリギリ感がそそるんだろうなあ、世の男性方は。この女子力、見習わないと……)
旭川の視線に気づき、作業の手を止めてバッとスカートのすそを押さえるメイドさん。見ているのは同じ女子だというのに、なぜか必要以上に慌てているように見える。
「……み、見えました?」
「見えてない! 見えてないですよ!? このギリギリ感な女子力、見習わないとなーって感心してました!」
「そ、そうでしたか、あはは……」
ちょっとばつが悪そうに微妙な笑みを浮かべながら、「では、ごゆっくりどうぞー」とそそくさと去っていくミニスカ絶対領域メイドさん。
(ん……? わたしなにか変なこと言ったかな。……お? なんだろう、これ)
たった今メイドさんが貼り直していたポップが旭川の目に留まる。
(なになに、『ゲーム対決して勝てば買取金額が二倍』……二倍!? はー、たいした自信だなあ)
そのとき、「うおおおおおっ!」と歓声が上がる。カウンター横に設置されている大型モニターのあたりからのようだ。
近づいてみると、ギャラリーの雑談が旭川の耳に入ってくる。
「すげぇぞあのねーちゃん! 店長と互角にやりあってたぞ!」
「ああ、でもやっぱりさすがは店長だな。ぎりぎりのところで持っていったな」
ギャラリーをかきわけて進むと、ゲーム機の前で地面に崩れ落ちている大きなおだんご頭の姿があった。
「泉さんっ! どうしたんですか!」
「あー千秋ちゃん。やられちゃったねーコレ。音ゲーなら負けないと思ったのになあ」
巨大なモニターに映し出されているのは、対戦型の音楽ゲームのリザルト画面。
1P、2Pともにフルコンボの表示だが、わずかに2P側のスコアが上回っている。
「さっすが美織お姉さまなのですよー。音ゲーもそつなくこなすとはおみごとなのです」
「ふぅ、なかなかきわどいところだったわね。下手すりゃ負けるところだったわ」
2P側のパッドを握っていたのは、ピンクのチェック柄のワンピースに白いエプロンという、こちらもまたメイド服姿なので店員なのだろう。
お嬢様風の少女に美織と呼ばれる、ゆるふわロングな見た目中学生くらいの少女。
(泉さんに勝つなんて、とんでもない実力!)
と、旭川はそこでふと先ほどのギャラリーの会話を思い出す。
(店長……? あの子が、てんちょう!?)
何重にも驚きを隠せない旭川。
「じゃあ、残念だけど通常の買取価格ってことで……ん、そこのポニテさん、このおだんごさんのお友達?」
「あ、はい、そうですけど」
美織が旭川をじぃっと見つめる。
「うん……あれがこうなって……おふぅ! きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
旭川に熱烈な視線を送りながら考え込んでいたかと思ったら、突然咆える美織。
ビクッ、と身を縮こませる旭川。
「ポニテさん! あなた、ゲームは得意?」
「あ、シューティングならそこそこ自信がありますけど……」
「シューティング!! ばっちりじゃない!」
美織が大げさにガッツポーズを決める。
「あなた、うちの店で働かない?」
「どこがどうなってそうなるんですかっ!? そもそもわたしは旅行客なんですっ」
「えーそうなの? 残念……」
いきなりの交渉決裂にしばし考え込む美織。
「仕方ないわね。じゃあ、あなたが勝ったらそこのお友達の買取価格を三倍、いや四倍でいいから、私と勝負しない?」
「へっ!?」
「その代わり、あなたが負けたら、このメイド服を着てくれないかしら……!」
そう言いながら美織がカウンターから取り出したのは、赤と黒のゴシックドレス風のメイド服。
某スマホシューティングのメインヒロインが着ているものとそっくりだ。
「その話乗ったーっ!!」
「泉さんー!?」
高清水、完全復活。
ああ、なんかこれだけ店内がメイド服に埋め尽くされている時点でちょっと嫌な予感はしていたんだよなあ……とあきらめ半分の旭川なのであった。
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「じゃあいい? この対戦シューティング『三國無頼ブレード』で勝負ね。三本勝負、二本先取で勝利よ」
「見たことないタイトルですけど……似たようなのやったことあるんで、たぶん、大丈夫です。やります」
三國無頼ブレード。通称SBB。
三國志の武将がなぜか空を飛んで弓を撃ったり剣で斬りつけたりしながら敵兵をなぎ倒していくという、ちょっとアクション要素もある大味なシューティングだ。
基本は横スクロールシューティングだが、対戦モードでは画面が上下に二分割されており、コンボ数や溜め撃ちゲージによって相手に特殊攻撃を送りこみ、体力を削りきれば勝ちとなる。
キャラのタイプによっても様々なバリエーションの特殊攻撃があり、単調になりがちな対戦シューティングを熱いものにしてくれている。
タイトル画面から対戦モードを選び、キャラクターセレクト。
美織は『張飛』を選択。
「パワータイプですか……じゃあこっちは」
美織の選択を見て、旭川は『諸葛亮』を選択。
「ふぅん。妖術タイプね。トリッキーなとこ選んでくるじゃない」
第一戦。
美織の張飛はショットをほとんど使わず、斬り攻撃メインでばっさばっさとザコ兵を斬り倒し、コンボをつなげていく。
一方の旭川はというと、こちらはショット中心で着実に遠距離から潰していく。
「ほらほら、斬らないとコンボ数稼げないんじゃないの?」
「…………」
美織の挑発を無言で受け流す旭川。
「ほーら、もうゲージ溜まった。いっけー!」
張飛の身体が光り、画面が暗転する。
先程とは比べものにならない速さで自慢の蛇矛を振るう張飛。
画面上の敵が一掃され、旭川側の画面へ亡霊弾――コンボをつなげて兵士を倒すと、倒された兵の亡霊が敵陣に弾となって送られるシステムだ――が大量に降り注ぐ。
旭川はうまいことかわしながら耐えるが、これほどの量の弾ではさすがにかわしきることは不可能。じわりじわりとダメージが蓄積し、ついに諸葛亮が倒れる。
「うおおおおおおおおっっっっっっ!!」
「やっぱつえーわ店長!」
「シューティングまでこの腕前とは……死角なしだな!」
「死ぬがよい、って言われて死にてえ……」
美織の圧倒的なパワーに沸くギャラリー。
「あらあら。ポニテさん、シューティングが得意って言うんだから、もうちょっと楽しめると思っていたんだけど、期待外れだったかしら?」
「ふ、ふふ……」
挑発を続ける美織の言葉に、不敵に笑う旭川。
「な、なに?」
「こうでなくっちゃ! 燃えてきましたよー!」
満面の笑みを浮かべる旭川。
「戦意喪失ってわけじゃないみたいね。よし! じゃあ二戦目いくわよ!」
第二戦。
一戦目では一切ゲージを使っていなかった旭川。そしてゲージは次へ持ち越し。ということは……。
先に動いたのは……旭川!
「美織さん! ゲージってのはこう使うんですよっ!」
諸葛亮の身体が光る。……が、何も起こらない。
と思いきや、張飛側に突如として現れる赤壁。画面の左半分が覆われ、行動範囲をせばめられる。
「ふぅん、妖術か、うざいわね!」
「まだまだー!」
さらに諸葛亮の身体が光り、妖術発動。
鎖でつながれた燃え盛る船が張飛に襲いかかる。
急ぎ蛇矛で船を破壊しようとするも、さすがにこの行動範囲では避けることも船を破壊するのも間に合わず、張飛が倒れる。
「ああああああああっっっっっっっっ!!」
ギャラリーがどよめく。
「店長が一本取られたぞ!」
「あのポニテの人……策士だな! いや軍師か!」
いつもの美織の強さを知っているだけに、旭川の反撃は衝撃的だったようだ。
「妖術タイプの特徴の溜め撃ちゲージ複数本ストック……『連環の計』ね。一戦目は溜めに徹してたわけだ。私としたことが不覚だったわ」
「美織さんがゲージを使い切ったところで二戦目に入ればいけるかなって思いました。うまくハマってくれてよかったです」
リザルト画面で止めたまま、淡々と会話を続ける二人。だがその落ち着いた内容とは裏腹に、双方心底楽しそうな表情だ。
「ふん、最終戦、また振り出しからの勝負よ。全力で潰すわ、ポニテさん」
「望むところですよ! こちらも全力で行きます!」
「あ、ちょっといいかな?」
唐突に高清水が割り込み、美織に耳打ちする。
「……? ……うん、わかったわ」
「じゃ、そんなわけで!」
「……?」
何かを伝え終わると、再びスッとギャラリーに混ざり込む。
「じゃあいくわよ! ポニテ……いや、千秋さん!」
「! やりましょう!」
美織に名前で呼ばれてまんざらでもない旭川である。
最終戦。
双方、兵士を斬り伏せ撃ち落とし、コンボ数を稼いでいく。今度は斬り攻撃の性能が低い諸葛亮も、だ。
「その斬り性能で着実に稼げるなんて、やるわねー」
「どうもです!」
律儀に礼をする旭川。
だかしかし、性能差は覆せず、先に張飛のゲージが溜まる。
「おお! 店長のゲージが先に溜まったぞ!」
「……あれ、でも発動させてないぞ?」
美織はまだゲージを使わない。ギャラリーに動揺が走る。
そうこうしているうちに、諸葛亮もゲージが溜まる……が、まだ動かない張飛。
「なんで!? なんで店長動かないんだー!?」
「たぶん……お互いに牽制しあっているんだ。見たところ、実力は拮抗。むやみにゲージを使い切るとそこにつけこまれる」
「なるほど……!」
均衡状態のままステージは進み、ステージボスが現れる。
ボスから撃ち出される高速バラまき弾。その一瞬を逃さずゲージを発動させたのは……旭川!
「ここっ!」
諸葛亮の身体が光り、張飛側の画面左半分が赤壁に覆われる。
さらに右端には高速弾を撃ち出すボス。
次々と被弾する張飛、絶体絶命。
「おおおお!! これでさらに妖術発動で諸葛亮の勝利確定か!?」
そのとき、旭川の頭に疑念がよぎる。
(!! 美織さんがこの状態で何も策を用意していないはずはない……。
しかもさっき泉さんに何か入れ知恵されていたはず……。
いやでも、ここで『連環の計』発動でトドメになるんじゃ……?
ダメだ! 安全のためにもう少しゲージは取っておかないと!)
この一瞬の迷いが命取り。
美織の体力はわずかに残り、その瞬間を見極め美織がゲージ発動、張飛の身体から今まで以上に激しい光が発せられる。
「あっ!」
慌てて妖術を発動する旭川。
燃え盛る船が美織側に出現する。
「あまいわっ!」
なんと、張飛の姿は消え、旭川側の画面に現れていた。
残体力わずかのときに発動できる張飛の潜在能力『一騎打ち』だ。
そして画面右端から諸葛亮へ向かって飛び、蛇矛で一閃。
さらに硬直している諸葛亮へ高速弾が被弾。
ついに……
「うわああああああああっっっっっっっっ!!」
名勝負を称えるギャラリーの歓声とどよめきがいつまでも続いていた。
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「あー、負けちゃったなあ……」
「ねえ、千秋さん。なんであのとき妖術発動しなかったの? あそこでやられてたらさすがに私もタイミング的に厳しかったかもしれないのに」
「んと……美織さんほどの腕ならなにかまだ秘策を持っているかもって。あ、あと最終戦前に泉さんからなにか耳打ちされていたから、それもなにかあるのではと気になって躊躇しちゃいました」
「ああ、あれ?」
美織はやれやれ、と肩をすくめて高清水に目を遣る。
「特になにも。『千秋ちゃんのゴシックメイド、必ず勝ち取ってね』って。まあ、その行動自体で怪しんでくれるかなーとは期待していたから大成功!」
「い、泉さん……どっちの味方なんですか……」
「もちろん、アレ着てほしかったんだから美織ちゃん応援してたに決まってるよ!」
「……ですよねー」
「さーて千秋さん」
「はっ、はいぃ?」
「脱いで! そして私にそのポニテを捧げよ! 今すぐ!!」
「ひえええぇぇぇぇ……」
首根っこをつかまれたねこのようにずりずりとスタッフルームへ引きずられていく旭川の悲鳴がこだましていた。
「うんうん! 誰しも一度は通る道よね!」
「いや、お客さんにやったらどう考えてもいっぱいいっぱいアウトやろ……。あのポニテさんええ人そうやからよかったものの。あとでこってりしぼらなあかんな」
美織の暴走をカウンターからチャイナドレス風メイドさんと清楚系メイドさんが静観しているのだった。さもこのドタバタが日常風景であるかのように。
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「……で?」
「まあ千秋ちゃんもノリノリよ。ばっちり火属性の乙女になってたね」
『ぱらいそ』での一部始終を大平に語る高清水。
そう、ゴシックメイドになったあとの旭川はといえば、「全部、燃えちゃえ!」「この惨劇はね、全部私のせいなの……」などなど、美織からのオーダーもないのにばっちりセリフまで合わせてくれる始末。
美織に至っては、「惜しい! こんな逸材が野に放たれているなんて!」と本気で悔しがっていたようだ。
「いやほら、なかなかシューティングのキャラのコスプレってないですしね! あの同人ゲームは除くとして」
「……で?」
「「たのしかった(です)!!」」
「ああ、そう……。よかったね」
「いやーまさにあそこはゲーム好きの
「泉さんにとってはそりゃあれだけメイドさんがいるんじゃあ、そうですよねー」
「…………」
いや、ほんとはヒル・ゲインツがどれだけ関わってるのかとか、『ぱらいそクエスト』の開発の進捗とかそういうの調べてきてほしかったんだけどな……、と大平は頭を抱えてしまう。
(いや、でも)
いまだに楽しそうにはしゃいで話しているポニテ娘とおだんご娘をながめつつ、大平はしばし、考える。
(それだけ本気でゲーム好きがやっているお店なら、まあ、乗ってみるのもありなのかもな……)
はるか遠き地にある
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