第13話(最終話)カエルの山

どんな敵が最後に待っているかは解らない。だが、まだ体力の低いヨムコのところへ急ぐ。

「俺様を素通りできると思うなよ」

「誰だ?」

「初対面の人Aだ!」

コイツがドジでマヌケなのは、このセリフから推測できる。つまり、この山ガエルマシンに乗っているのは、前主人公だ! しかし、おかしいぞ。前主人公は、とっくの昔に死んでいるはずだ。

「そう、俺は主人公だ! 最後に確かめたいことがあって、俺はデータを残しサヨナラしたのさ」

「確かめたいことだと、主人公」

僕は相手を主人公と呼ぶ。僕はこの主人公のデータに打ち勝たないと、真の主人公に成れない気がする。僕は主人公に成りたくない気もするが、この戦いから逃げることはできないぜ。

主人公は語る。

「少し昔話でもしようか、ロウヘイ。キサマには池野と同等の力を感じる。まあその程度では、俺様には勝てんけど」

主人公は『池のカエル』という本を差し出す。取り合えず、僕はその本を読む。

『池のカエルは、山からやって来た強いカエルだよ』とか書いてあるぞ。ここを『池の楽園』と呼ぼうだと! 要するに主人公は、ユメだった山のカエルたちを『楽園』へと導いたのだ!

そして、池の楽園は今では、世界トップクラスの大帝国だ。バーンは、いつかそこを継ぐだろう。バーンが、池野料理長のユメよりも大きなものを見つけたなら、そうはならない気もするけれど…。『コックバーン』、黒板の戦いかあ。

主人公は自信を持って言う。

「俺は、山から池へ下りたカエル好きだ。ロウヘイは、池の地方の出身、俺は山の出身。俺が言いたいのは、『池のカエル』の方が『山のカエル』より強いのだ。俺の方がロウヘイより強いのだ!」

「アホかー! そんなことどうでもいい」

と、僕はトノサ呆れる。しかも、主人公は同じセリフを二度言った!

主人公は聞き流す。

「それは置いといて、俺は『カエルハンマー』しか使わない。ロウヘイは、トノサつまり主人公ギルドのあらゆる武器を使うがいい」

「僕もカエルハンマーしか使わないぞ。力と力、そして耐久力の純粋な戦いがしたいんだろう⁉」

しかし、主人公は首を振る。

「残念だが、力と力や耐久力の勝負にはならないぞ」

僕は力強く言う。

「ハンマーのパワーは、僕の方が上回っている!」

主人公が戦いの合図を送る。

「そう思ってんのならいいさ。思い知れ、若造!」

カエルハンマー同士の戦いが始まる。主人公の宣言通り、僕の思惑は綺麗に外れた。

トノサは主人公のハンマーをかわせない。それに対し、僕のハンマーは全てかわされる。一太刀も、僕は主人公に浴びせられないのか! 主人公は教えてくれる。

「ハンマーは、パワーだけじゃ当たらないぜ。俺は、技術を『託された』のだ」

主人公に託したとは、どういうことだ? 同じカエルハンマーでも、主人公とはテクニックが違い過ぎる。トノサは頑張っているが、何時まで持つものか? 一方的な戦いだ。

その頃、ヨムコは山登りをしていた。

「あなたがヨムコさんなのね」

「誰なの?」

と、ヨムコ。

「私は、『虹色のヒロイン』のデータよ。かつての主人公と通じ合った存在ね。私は、たくさんのブラッドを持っているの。今、主人公同士の戦いが行われている」

「ロウヘイが戦っている? 何のために」

と、ヨムコ。

ヒロインは話を続ける。

「私とヨムコさんが戦っても、体力のないヨムコさんに勝ち目はないわね。だから、私たちは戦わないのよ。そのかわり私は、虹色のブラッドで前主人公を援護する。ヨムコさんは、緑色のブラッドで何が出来るかしら?」

ヨムコは気圧されながらも言う。

「私は山を登るカエルよ。私がこの小さな山を登り切れば、ロウヘイが勝つんだから!」

「結果は見えているわね」

その頃、ロウヘイは追い詰めやれていた。主人公は言う。

「虹色のヒロインの多彩なテクニックで、俺は大きな力を得る。決定的だな、ロウヘイ」

くっ、そういうカラクリか。しかし、それだけではない。虹色のブラッドなどなくとも、コイツは十分強い。

何だ? テクニックなど僕にはない。しかし、圧倒的パワーが僕に溢れてくる。ヨムコのパワーだ! しかし、命中しないとパワーは無駄なのだ。ヨムコの力の方が、虹色のヒロインより凄いことを、僕が証明してやんよ。

僕は叫ぶ。

「山に登ったカエルの方が強い!」

僕は何を言っているんだ? でも、ヨムコは大きな力と信頼を得る。そんな未来を、僕が切り開く。

ところで、ペンとタオルは何処にいった? この戦い次第といったところだ。主人公は少し怯む。

「トノサの耐久力が大幅に上がっている。これが、緑色のヒロインのパワー」

主人公が怯んだのを、僕は見逃さない。強力なカエルハンマーが主人公を捉える。

手応え有り!

「虹色のヒロインの耐久力も、舐めんなよ」

と、主人公は本気になった。ウソを書けないペンは、何を描く? 僕は見てみたい。言っただろう、力と力、耐久力の勝負だと!

主人公の方が本当はより強い。主人公が技術戦を続けていれは、僕は確実に負けていただろう。主人公は言う。

「アイツの耐久力を、俺は証明していなかったなあ」

主人公のいうアイツとは、前ヒロインのことだろうな。

ハンマーとハンマーが、交互にぶつかる。いや、主人公の方が手数が多い。それでも負けるものか! ヨムコが負けるはずがない。しかし、僕の圧倒的劣勢だ。

僕は負けたら、どうなるんだろう? いや、負けた時のことなど考えるな。主人公のマシンも、やはりすごいガードだ。崩せないのか? 虹色のヒロインはタフだったのか。

「やったー! 登り切ったよ」

と、ヨムコの声が頭に響く。

緑色のヒロインのパワーを、僕は全て主人公にぶつける。主人公のカエルマシンはすり抜ける。命中しなかった…。渾身の一撃だった。

「よく見ろよ」

と、バーンの声がする。

よく見ろ? 何をだよ。主人公は言う。

「俺は『成立した対を成すプレゼント』を、つまり今のロウヘイの顔が見たかったのだろう」

主人公のデータは、満足して消えていく。

僕は勝った気がしない。僕はいつか、本当の意味であの人、主人公に勝ちたいよ。それよりも今は、山を登り切ったというヨムコのところへ急ごう。

ヨムコは、僕の渡したタオルで汗を拭う。ヨムコは文句ありげに言う。

「って何これ? タオルなのは解るよ。タオルに描かれているのは、山の途中でカエルスーツを着た私? 山の途中って、私は登り切ったよ。あと、この絵より私は美人だよ!」

虹色のヒロインは、元気よくヨムコに伝える。

「残念、ヨムコさん。この山は標高750メートルぐらいよね。1126メートルには、届かなかった。あと、真実のペンはウソをつけないから、ヨムコさんはロウヘイ君には、この絵の様に見えている」

ヨムコは叫ぶ。

「頑張ったのに…。そんなのウソだー! ロウヘイには、この絵の様に私が見えているんだー」

虹色のヒロインは、笑顔で消えていく。

「あの人のところに戻らないと…。あと、ヨムコさんは、そのままでロウヘイ君に気に入られているから、無理しなくていいのよ」

ノラさんも駆けつける。

「ロウヘイ、次の依頼だ。私が主人公トラップにかかった『獲物』を、逃がすと思うか?」

僕は言う。

「ああ、僕にはまだやることが残っているらしい。職を失わなくて良かった」

「ロウヘイは、カエルの山を探してこいー!」

「ああ、どっかにはあるよ」

僕とヨムコはカエルの山に登った…。コレはそんな物語だ。(完)

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主人公トラップ 大槻有哉 @yuyaotsuki

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