第12話 愛しきライバルへ

トメさんとノラさんが、激しくぶつかる。山ガエルの影響で、トメさんは不安定かつ強力な能力に目覚めた。

バーンは悔しそうだ。

「池野という人物と俺は別人だ。だが、今だけでも力が欲しい」

トメさんとノラさんの記憶が、トノサに伝わる。

『今から私は、イヤ、もう一人のノラに、トメという名をやろう』

『何で偉そうなの、もう一人のノラ?』

二人のノラは、大切そうにヘアピンを使っている。

『私はノラじゃねぇーぞ、池野とやら』

『なら、こうしましょう。池の楽園の迷い子は、みんな『ノラ』。私もノラ』

記憶を背負い、トメさんとノラさんは戦う。僕とバーンが入る余地はない。どうすればいいんだ、トノサ。

トメさんは言う。

「本当はロウヘイ様が羨ましいのでは、ノラさん?」

「くっ、それはトメさんもだ!」

トメさんとノラさんは、何で戦ってんだっけ?

いつの間にか、二人はただの喧嘩になっているぞ。

『ヘイ。私が主人公になってもいいんだぜ、池野のダンナ』

『う~ん。ノラの気持ちは嬉しいんだが、ドジで間抜けでないと、主人公のブラッドは発現しないんだよ』

これは、ノラさんと池野さんの記憶だ。

トメさんは叫ぶ。

「私がどれだけドジと間抜けに憧れたか、知っていますか!」

ノラさんもぶつかる。

「それは今でも、私は憧れている!」

僕は褒められているのか? バカにされている気がしてならない。とにかく、トメさんとノラさんは、池野さんにこだわって認められたかったんだ。

トメさんとノラさんは、本気で戦っている。これが、愛しきライバルというやつか。他人の僕からすると、バカな行いにしか見えない。でも、この二人も必死なんだ。

「じっくり眺めている場合ではない、ロウヘイ」

誰だ? 誰の声だ。聞き覚えはないが。懐かしい声だ。まさか…トノサの声か⁉ トノサの声が頭に響く。

「ヨムコは山へと向かった。止めなくていいのか、ロウヘイ? それとも、今のヨムコは池のカエルではないとでも?」

えっ? ヨムコはまだ体力ないだろ。僕はどうしたらいいんだ。この戦いは役には立っていないが、僕の力が必要な時もあるかもだ。

山ガエルはトメさんに倒された。その山ガエルは、最後の力を僕に託した。

「このペンにはウソはつけないぜ、ロウヘイ。俺の名はカザンだ。いや、だった、だな。俺はな、ペンにウソをついて、とある才能を憎んだ。だから、俺の理論に代わる理論を生んでくれ」

とある才能だと?

「記録にない才能たちは、たくさんあるのです」

と、トメさんは少し気が晴れたらしい。ノラさんも言う。

「どうする、ロウヘイ? 記録する必要はない」

そう、才能なんて記録するから、決め付けるから、おかしいんだ。

山ガエルのペンを、僕は見る。山ガエルはタオルもくれた。人間用のタオルだ。真っ白のタオルだが、僕にどうしろと? トノサは言う。

「キミが最後の敵を倒していけば、ペンは走る。その時タオルに描かれるものこさ、『主人公トラップ』から脱却したものだ」

「トノサも一緒だろ?」

「ドジでマヌケな主人には、このトノサ様が必要らしい」

「だから、必要だと言っている。何度も言わせんな」

と、僕はトノサから目をそらす。

今のヨムコは、まだ体力がない。もしもヨムコが、あの時の緑色のヒロインのままならば! 主人公のブラッドは、ヒロインを援護する。

トメさんの毒は抜け切らない。でも、ノラさんは言ってくれる。

「こちらは、何とか片付ける。バーン様の力は必要だから渡せないが、トノサを信じて行け、ロウヘイ!」

バーンも言う。

「俺も後から援護する。カメラに頼り過ぎんな、友人」

僕は言う。

「解ったよ、愛しきライバルのバーン」

「おかしな言い方すんな、ライバルロウヘイ」

しかし、トノサの言う最後の敵とは何だろう? オリースか? いや、多分違う。

しばらくして、何かが押し寄せる。戦う必要はない。だけど、逃げることは無理だ。これは、ヨムコへウソをついた報復みたいなもの。

もう僕は、ヨムコはウソをつかなくとも、強いと信じられるよ。

「トノサ、最後の戦いだ」

「ロウヘイよ、ドジでマヌケなキミは、また戦渦に巻き込まれると予言しよう。だから、最後って言わず、しばらくは相棒だぜ」

「はい」

トノサの言う通りかもな。

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