シンノスケは、ここでしか読めないぞ!

 「剣客」という言葉に惹かれて読もうかと思ったが、「執事」という言葉で二の足踏んでいた作品。が、冒頭読んでみて、シチュエーションがなかなか面白かったので、読み始めた。
 最初の登場人物紹介の辺りで、あ、これは面白いな、と。
 ただし、中盤、後半のプロットはちょっと弱い。
 どの辺が弱いか細かいところは指摘しないが、中盤の展開は無意味なものが多く、後半のクライマックスは「ステラがピンチ」と「シンノスケが助ける」と「シンノスケが敵を倒す」と「シンノスケが記憶を取り戻す」を出来る限り同時にやってもらいたい。
 などと、欠点と思える場所から指摘したが、これらは全体としては些細な事。
 この作品には、これらの欠点を補う大きな武器がある。
 それは、「シンノスケのキャラクター」である。
 本来頼りになるはずの執事が、まったく役立たずの変な東洋人。しかも、ござる口調。なんすかこの、落第忍者ハッ〇リくんみたいな男は(笑)。強い!と見せかけて、てんで弱っちい。ご主人様のステラお嬢様の方が剣の腕が立つ。おまけに記憶喪失。
 ところがこのシンノスケ。読者に「こいつ実はすごいやつなんじゃないか?」という期待を持たせてくれる。
 本作で、読者が見たいシーンはなんであろうか?
 第二位。シンノスケがやらかすシーン。
 第一位。シンノスケがカッコよく敵を倒すシーン。
 見よ、この矛盾! だがこれは、ある意味物語の王道である。
 本作の続編が書かれるかどうかはわかないが、書くならば、是非連作短編でやってもらいたい。
 理由は簡単。連作短編なら、ひとつの作品内で、何度もシンノスケがやらかし、何度もシンノスケがカッコよく敵を倒すから。
 パターンはこれ。
 正義感の強いステラが事件に首を突っ込む→シンノスケがやらかす→ステラ、ピンチ→シンノスケがカッコよく助ける。
 これだけ。プロットはいらない。
 やって欲しい話も勝手にリクエストする。
「シンノスケ、舞踏会に行く」
「シンノスケ、犬を預かる」
「シンノスケ、女子寮に潜入する」
「シンノスケ、誘拐される」
「シンノスケ、時限爆弾を解体する」
 まだまだやれそうだが、これくらいにしておく。もう想像するだけで、楽しい。

 さて、好き勝手なことを書いたが、作者もいろいろ都合があるだろうから、以上のことは無視してくれて結構。だが、これだけははっきり言っておく。

 シンノスケはおそらく最高レベルの、魅力的なキャラクターである。このまま埋もれさせてしまうには、惜しい。出来ればもう少し、彼の活躍を見てみたい、というのが本音である。そういった期待を込めて、本作の星は、二つとする。