死神と殺し屋斡旋業者から二重の依頼を受ける形で、
中学二年生の少年、依月八尋は人を殺す。
死神から特殊能力を借り、殺し屋として仕込まれた技術を使い、
手掛かりの残りにくい「自然な」やり方で、穢れた魂を刈る。
同じクラスの孤立気味の美少女、見谷未希に仕事現場を目撃され、
今度は未希その人に、同級生殺しの相談を持ち掛けられる。
変わったアプローチではあるけれど、美少女との急接近に、
戸惑う八尋、からかう死神、不穏な探りを入れる殺し屋上司。
存在と不在の境界が揺さぶられ、心理学とファンタジーの狭間で、
最も悲しい結末とは何だろうかと思う。
「悲」という強い印象を持つ文字を当てるのも、少し違うか。
強い印象を残しながらも、この結末はひどくやわらかい。
八尋は希薄な存在であろうと試み、人殺しの醜さを自覚している。
でも、超人でも機械でもなく、彼は生身の十代の少年だ。
昼休みは購買にダッシュしてカレーライスとクリームパンを買い、
イジメの構図に嫌悪を示し、未希に振り回されてときめく。
八尋が少年らしさを見せれば見せるほど、
殺し屋稼業との解離が埋めがたくなって、
決定的な結末の到来の予感に寂しくなる。
鮮やかな夏祭りの情景に、どうしようもない儚さが重なった。
存在していてほしかった。
不在はわがままでずるいんじゃないか。
でも、人は強くないから、消えてなくなるしかないんだろうか。
そういう形でしか報われない存在も、あるんだろうか。
深く穢れた大人の黒い欲望が渦巻く社会の中で、物心ついた時にはすでに闇の社会の中にあり、そんな運命のなか生きる道として殺し屋を生業とする少年は、自分が生きていくために自我を殺して、息を潜めて、社会の中の空気のように自分を消して生きていた。目立たないように暮らしていたはずなのに……そんな穢れの中で生きる彼の穢れない無垢な魅力に気が付いた少女は彼に強く惹かれていく。そして、彼の魅力に惹きつけられた少女たちによって彼の運命はやがて大きく動いていく……。
罪深き人たちの報い・制裁、そんな難しい答えのないテーマに、子供たちの身近な社会の小さく純粋な問題と、大人たちの全てを知るには深く大きすぎる巨大な闇のような問題とに向き合いながら、主人公たちは成長していき自分たちのその答えに近づいていきます。
死神、殺し屋、罪、そして幸福。そんな重いテーマを扱うのにふさわしい緊張感のある文章が、非常に力強くストーリーを引っ張っていきます。
物語はそんな難しいテーマに十分に応える力強く緻密な骨格と、読者を失望させない結末で見事にまとめ上げられています。
数ある小説投稿サイトの中でカクヨムならではの作品ではないかと思います。罪とか罰とか死とかそんなテーマに興味のある人はぜひ一度お読みください。