第3話 坂本と佐々木
-現在-
8月25日-上野公園-
「タケさんどうしたんですかね、何か持病でもあるのかなあ」
圭一は岳本宅を横目にビールを一口だけ飲んだ。
すると坂本がビールを勢いよくぐいっと飲み干した後、少し強めの口調で口を開いた。
「よう、佐々木よ」
圭一の目を、酒がまわり鼻を赤く染めた坂本の鋭い眼光が捕らえた。
「はっはい」
坂本の初めて見るその目つきに圭一はたじろい、いつもよりハキハキとした声を出した。
「俺たちのルールを忘れたんか?ここに居る連中はよ、来た理由はみんなばらばらだあ、
会社の倒産で借金まみれで逃げてきた奴
詐欺にあって家族に見捨てられた奴
犯罪犯して逃げてる最中の奴なんかもいるかも知れねえ…
でもたったひとつ共通点があんだよ
ぜーんぶ捨ててきてんだよ、ここに居る奴らは。
捨ててきたくせによう、連中も俺もお前も、そしてタケも…捨てたもんの何倍もの重たいもんを背負って生きていかなきゃならねえ。
そうゆう覚悟してまで捨ててきた過去を詮索するような事はするもんじゃねえ。
あいつが病気持ちだったとして、それを俺らに言わねえって事は、それすらもあいつにとっちゃ触れられたくない荷物なんだろうよ」
「そ…そうですよね。すいません」
そう言って俯く圭一の瞳にうつろう深い闇に坂本は気付いたが、見て見ぬふりをした。
「まあ、そうゆうこった。お前はまだここに来て間もないからよ、少しずつ理解していけば良いさ。」
坂本はベンチから立ち上がり、佐々木の肩を軽く叩いた。
「あっ、あの。ひとつ聞いて良いですか?」
「なんだ、今度は俺の詮索かあ?」
ため息混じりに坂本が言った。
「あっ、いえそんなんじゃなくて、さっきタケさんが坂本さんの命の恩人って話してたのがちょっと気になっちゃって」
「ああ、それね。そうか佐々木にはまだ話してなかったかあ、いやそれがよっ」
少し前かがみで坂本さんは語り出した。
「去年の年越しを目前に控えた頃だったかなあ、俺は俗に言う大掃除にあっちまってな」
「大掃除…ですか?」
「ああ、お前にはわかんねえか、まあいいや聞いてくれ。あの日は連日続いた雪で都内は大変だったわけよ、特に俺たちホームレスにとっちゃそれはもう地獄の毎日だったわけよ」
「あ、あれは凄かったですよね。確か30年に一度あるかないかの積雪量だってニュースで言ってましたよ」
「そうそう、とにかく凄かったわけよ。
みんな口々に今年はもう生きて年を越せそうにねえなあ、とか言っちゃって諦めムードよ。
そんで、俺は何とか生き抜こうと家を補強たり小銭を拾い集めたり必死よ。
そんな時に限ってえらい目にあっちまってな、本当俺の悪運にはつくづく脅かされるよ…」
-1年前-
12月31日
さるすべり 凸助 @decosuke
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