第3話いざ! 天上界 六欲天へ
あれ?思ってたんと違う。
デジャブかな?さっきもそんな事を思った気がしたが。
目の前に広がるのは、まさに戦場。
しかも、魔法が飛び交うファンタジーな戦場ではない。
もちろん魔法も飛び交っているいるのだが、圧倒的に多いのは銃弾、砲弾だ。
俺が求めていた異世界転生ものと違う。戦場のど真ん中でスウェット姿とかおかしいだろ!
紙装甲過ぎんだろ!そこだけでも、どうにかならなかったのかよ閻魔様!
取り敢えず俺たちは、大きめの廃墟の様な所の、陰に走って隠れる事にする。
「ふ、ふざけんじゃないわよ!」
隣で神楽坂が絶叫していた。多分、戦場の事を言っているのではないだろう。
神楽坂はオタクでもなさそうだし、戦いに来たのだ。戦場と言われたら、地球から来た人間なら、こっちのほうがむしろしっくりくるだろう。
「神楽坂、お前最高だな!」
「純平、この場で消し炭にしてやってもいいのよ」
神楽坂の格好。それは完全な魔法少女だった。
ピンクを基調としたドレスに、白のフリルがこれでもかと、あしらわれている。頭にもピンクのリボン。
背中には白い天使の羽が生えている。たまに羽が勝手に開いたり閉じたりしている。
しかも超が付くミニスカートだ。
「超かわいいって。写真を撮って永久保存したいくらいだぜ!」
姿は魔法少女だが、手に持っているのはステッキなどではなく、オートマチックタイプの拳銃だ。
銃口はピタリと俺に向かった。
「目撃者は殺す。慈悲はない」
神楽坂のトリガーに添えられた指に明らかに力が込められ始めている。
「ちょ、ちょ。神楽坂様。い、命だけは、命だけは。もう死んでるけど。命だけは」
光の速さで土下座する。まずい。神楽坂はマジだ。
「本当に褒めたつもりです。許してください」
「なんなのよこれ!一六にもなって、こんな格好ありえないでしょ!」
なんとか、俺への怒りは収まったらしい。
ただJK的には、こんなのオタクが着るものだから気持ち悪いと怒ってらっしゃる。
後は、俺の視線が気持ち悪いと。
「まあまあ、神楽坂。それが、閻魔様が言っていたチート装備なんだろ?いいじゃないか、俺なんかスウェットのままなんだぜ」
ギロリと俺を睨む神楽坂。
「こんな格好で歩き回る位なら、スウェットの方がまだましよ」
神楽坂の衣装への怒りはまだ収まらないらしい。
ただ、怒って喚き散らしている間も、天使の羽は閉じたり、開いたりしている。
神楽坂の怒りと、羽の動きのアンバランスさについ吹き出してしまった。
あ、ヤベ。
「か、神楽坂さん、一体何をなさろうとしているのですか?」
「純平がいったでしょ。チートっていうんだっけ。反則みたいなその力を試してみようと思って」
目の前には、さっきまであったオートマチックではなく、無反動砲の様なものを担いだ神楽坂が、俺を見下ろしている。
「ほんとごめんなさ……」
一瞬目の前が真っ白になった。あ、俺死んだな、もう死んでるけど。身体がばらばらになる感覚を味わいながら意識が途絶えた。
「ほら、さっさと起きなさいよ。身体はとっくに戻ってるわよ」
神楽坂の声で目が覚める。
バラバラになったはずの身体は、元に戻っていた。本当に死ねないらしい。
「本当は、魂の単位まで消滅させてあげようと思ったんだけど、手加減してあげたわ。感謝しなさい。
まあそれに、これでおあいこって事にしてあげるわ」
何とも物騒な事を言うな。でも、事故の件は許してくれるらしい。
「俺、元に戻るのどれくらいかかったんだ?」
「大体、五分くらいかしら、まあ、こっちの時間間隔って、今一よくわかんないけど。
でも、凄かったわよ。純平のバラバラになった肉片が、ピクピクと」
「ストーップ! 神楽坂さんそれ以上は聞きたくないです。メンタルがやられてしまいます」
そんな恐ろしい復元方法なのか。もうちょっと、光が集まって来て、みたいなファンシーな感じを想像していたが、グロ過ぎだろ。
「残念。純平、超ウケたのに」
神楽坂の方は心底楽しそうだ。仕返しできた事が本当に嬉しいんだろう。
「俺は、全然ウケねえよ! それに、何か俺の想像していた異世界転生と大分違う」
「そういえば、ずっと異世界転生とか言っているけど、何なのそれ?」
神楽坂は、首を傾げ、何言ってだこいつ?みたいな表情で俺を見てくる。
「よく聞いてくれた神楽坂! 異世界転生ってのは、最近のライトノベルの主流の一つともいえるジャンルでな、他人の命を救うために交通事故とかで死んだ人間なんかが、そのご褒美としてスゲー能力とかを、神様からもらって、新しい世界で大活躍するってのが定番なんだ」
喜々として喋る俺を、ごみを見るような目で見る神楽坂。
頼むよ俺はそれをご褒美だと思えるほど、訓練されてないんだよ。
「まあ、純平がキモオタなのだけはよく分かったわ。それに、大体合ってんじゃない異世界転生。
交通事故で死んで、閻魔様っていう日本の神様に会って、能力……。まあ、この装備の事はあまり考えない事にするわ。で、今から敵を成敗して活躍するんでしょ。何が違うのよ?」
「ちげーよ! ホントは能力貰うのは俺のはずだったの! そして、美少女に囲まれる筈だったの」
「そんな気持ち悪い発想してるから、一生童貞なのよ。それに、人殺ししてんだからご褒美なんて貰えるわけないでしょ」
前半は大いに議論の余地があるが、後半は弁解の余地もなかった。
「それに」
神楽坂はニコリと笑う。
「美少女ならここにいるじゃない。しかも直前までJKだったのよ」
俺は深い深い溜息を吐く。
「違うんだよ、もっと恥ずかしがり屋で、奥ゆかしい感じのとかが良いんだよ。そんな魔法痴女みたいな恰好してるやつとは違うんだよ」
神楽坂の顔がニコリから、ニヤリに変わる。そして肩のあたりがプルプル震えている。ついでに翼もバサバサしている。
しまった。言い過ぎた。
「純平。分かったわ、私がその異世界とやらにぶっ飛ばしてやるわ。どこの世界に飛んでいくかは、知らないけど」
無反動砲の次はロケット砲だ。ホント便利な奴だな。って感心している場合じゃない。
「ち、違う。神楽坂はまごうことなき美少女だ。いや、もはや女神と言って良い。め、女神さま。この哀れな小羊に慈悲をくだされ」
まずい。本当に魂ごと消滅されかねない。
「分かればいいのよ」
褒め殺しが効いたのか、神楽坂は武器を収めてくれた。
「そういえば神楽坂、何かすでに能力使いこなしてね?」
特に閻魔様からは何のレクチャーもなかった。行ったら分かるかとそれくらい。
「あー、それね。純平、こっちの世界の事なんか知っている?」
「うん?そういえば、こちらで意識が目覚めた時、今までのここの成り行きとか、地理的な物が何となく分かってるような状態だった」
「それよ。多分私は、その知識にプラスして、自分の能力についても、勝手に記憶に入ってる感じなの。武器の創造っていうの? 自分の意思に応じて自由に出し入れできるみたい。だから、今は何となくテレビとかで見たことある武器を試してみてる感じね」
ああ、だから魔法ステッキとかじゃなくて、銃とかなのか。
てか、とっさに無反動砲が出てくるJKって何なんだよ!
「じゃあ、その服もお前の趣味……」
ギロリと睨まれ続きの言葉を飲み込む。
「これは、こういうものらしいわ。残念だけど。この服のおかげで、物質創造が上手くアシストされてるみたい。何となくが、具体的に精密に補正されるみたいよ」
そうか、さっきの無反動砲とかは、何となくバズーカ! みたいな想像から出来上がった物みたいだ。
改めてまじまじと、神楽坂を見てみる。素材は言うことないので、正直滅茶苦茶かわいい。魔法少女としては定年だろうが、俺はそれでも愛して見せる。
「あんたもホント懲りないわね。次は痛みが実感できる程度に、いろんな所を吹き飛ばして上げようかしら」
ジロジロ見ていたのがばれてしまった。実はちょっと、とある領域から純白のものが見えていたのだが。この話をすると、本当に魂が消えてしまいそうなので、止めておく事にしよう。
「いやいや、神楽坂さんがあんまりに可愛いので、見とれてしまったのです」
はあっと、溜息を吐く神楽坂さん。
「取り敢えず。行くとこに行きましょうか」
「ああ、だな」
俺たちは、記憶? を頼りに目的地に向かう事にした。
次回、新しい仲間の登場です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます