第2話閻魔様と遭遇!? そして異世界へ

 あれ?思ってたんと違う。

通路に従って進む事五分ほど。大きな扉の前に、俺たちは立っていた。

 門番らしき二人が立っている。

ただ、どう見ても鬼だった。天使や精霊なんかではない。見まごう事なき鬼だった。

「純平。先に言っとくけど。私これで地獄行きとかだったら、最期にもう一度あんたを縊り殺すわ」

 神楽坂さん目がヤバいっす。その視線だけで死ねそうです。

「だ、大丈夫だよ神楽坂さん。行き先がまだ決まったわけじゃないだから」

アハハハはと乾いた笑いしか出てこない。


 門番の鬼二人は俺たちをちらりと見ると、門を開いた。

門の先は巨大な広間だった。チョットした野球場位の広さだ。

門番の鬼が中に入るように促す。


 広間の壁は全て本棚になっていた。何の本かは分からないが、ぎっしり詰まってる。

そして正面には。

「やっぱりそうなりますよね」

「純平、あんた、覚悟だけはしときなさいよね」

 閻魔様である。間違う訳がない、ありとあらゆる昔ばなし、伝承その他で描かれている閻魔様だ。

鬼がいた時点で、女神さまは完全に諦めていた。神様には違いないが、実物の閻魔様は半端ない圧力を放っている。

「い、行くしかないですよね」

 俺はあまりの閻魔様の迫力に、神楽坂にまで敬語になってしまう。

「この状態で、逃げられると思うわけ?」

「で、ですよねー」

 我ながら、実にヘタレである。まあ、ヘタレだからこそニートなんてやっていたんだが。

しかし、神楽坂は肝が据わっている。まあ、初対面の俺にあれだけボロカスに言えるくらいだ。そうなのだろう。


 仕方なく閻魔様に向っていく。

近付くたびに実感する。閻魔様デケー。多分20m位はありそうだ。進撃の何とかみたいだ。その場でパックリいかれたりしないよな。

 そんな事を思っていると、閻魔様が口を開いた。

「やあ、君達、そこの席にかけてくれたまえ」

お、意外と声はごつくない。話し方も気さくな感じだ。これは期待が持てるかもしれない。

「は、はい!」

「失礼します」

 俺たちは勧められた椅子に座った。

クッションが効いて、中々座り心地が良かった。

ただ、革張りの椅子だが何の革なのかは分からなかった。初めての触り心地だ。

「これ、人間の革よ。多分」

 神楽坂が世にも恐ろしい事を言っている。

「おお、よく分かったね。これは大罪を犯した人間の革でできている。中はそいつの中身だ。因みにその状態のまま意識は残してある」

 これはまずい。地獄の言い伝えは色々あるが、これはちょっとシャレにならない。

てか、クッションが効いてって思ったけど。この下には人間の中身的なものが入っているんだよね。

「まあまあ。取り敢えず我慢して座ってくれ。君たちも私の事は多分知っていると思う。閻魔大王とよく言われる存在だ。一応神様なんだけどね」


 本当は羽の生えた、もっと人間っぽい神様に会いたかったです。出来れば美女の……

 神楽坂は何もしゃべらない。余計な事は言わない方が良いと判断したのか?

「それで、君たちの死因と今まで歩んできた人生で、審判を下さないといけないわけだけど」

 閻魔様はそう言いながら、ノートの様のものをめくっている。多分あれが閻魔帳というやつなんだろう。

「今野純平君」

「はい!」

急に名前を呼ばれたので、返事と共に起立してしまった。

「うん。君はね。残念ながら地獄行きなんだ」

 え?あれ、おかしい。俺の夢見ていた世界と違う。

「え?じ、地獄ですか?僕、そんなに悪い事しましたっけ?」

 とにかく怖い。でも、理由も分からず地獄行きなんて嫌だ。このソファーだってシャレになってないんだ。

「まあ、死ぬ直前まで大した人生でもなかったし。普通なら、天国にも地獄にもいかず。輪廻転生の輪に戻ってもらうのが普通なんだけど。君、人殺しちゃったからね。」

 そう言って神楽坂を指さす閻魔様

 え!え!? 血の気が引くのを感じる。ああ、意識を失うってこんな感じなのか。

いやいや、駄目だ。とにかくここでぶっ倒れる訳にはいかない。ヘタレでも、地獄だけは勘弁だ。

「あのー。閻魔様。確かに僕は神楽坂さんを死なせてしまいました。でも、助けようと思ったんです。本当です。信じてください」

 こうなったら、必死で弁解するしかない。

「あー。うん。そういうのはね、こっちで分かるようになってるから。君がなんか変な事考えながらだけど。神楽坂君を助けようと、飛び出したのは知っているよ」

 変な事を考えながらというフレーズに、神楽坂が反応した。変な誤解を生んでいる。凄い殺気が伝わってくる。

 取り敢えず。今、神楽坂と目を合わせては危険だ。

「そうなんだよ。だからちょっと困ってるんだよ。中々ないんだよ。助けようとして、一緒に死んじゃう人って結構いるんだけど。助けようとして殺しちゃう人って」

 そう言いながら頭をポリポリ掻く閻魔様。


「それと、神楽坂君ね。君も残念ながら地獄行きなんだよ」

「な!」

 今まで、少し余裕の表情だった神楽坂の顔が青白くなっている。

「いやー。これは本当に君には気の毒な話なんだけど。若くして死ぬのって罪なんだよね。

因みに、今野君の場合については、家族全員から死んでも構わないと思われてたのでセーフ」

 いやいや。全然セーフじゃないから。俺、家族全員からそう思われたの? 地獄に落ちるよりそっちがショックだよ!

 神楽坂の顔はドンドン青くなっていって。確かにショックだよな。俺もショックだけどね!

「ただね。神楽坂君に関しては、本当に可哀想だと僕も思うんだよ。まあ、殺されたみたいなもんだしね」

 ちらりと、こちらを見ないでくださいお二人さん。


「だから、ちょっとお仕事してくれないかなと思ってるわけ」

「仕事ですか?何をしたらいいんですか」

 神楽坂は少しだが安心した様だった。問答無用で地獄行きよりは、ましになったわけだから当然だろう。

「その前に、この世界について簡単に説明をさせてね。この地球って、君達が住んでた世界と、後二つ別の世界が有るんだ。パラレルワールド?って言ったら分かりやすいのかな。

ただ、あとの二つの世界は全く別物でね。有体に言うと、魔法とかそういうのが発達している世界なんだけど。イメージつくかな?」

 まさに異世界。俺が望んでいる世界。

「はい!わかります」

「あ、いや、君には話してないから」

 やはり俺は地獄確定らしい。

「はい、何となく分かります」

「うんうん。何となくで大丈夫。それでなんだけど、あの世については、三つの世界は統合されてるんだ。そして、そこの二つの世界で死んだ人間が、あの世で大暴れしてるわけ。

僕はちょっと手出しできないから、成敗してきてほしいんだよ」

 何言ってだこいつ。分かりやすいJKの表情を垣間見た気がした。

「あー。もちろん戦う為の能力や武器とかは、こっちが用意するから、大丈夫。チートってやつだよ」

 異世界での冒険、チート能力。俺の関係ないところで話だけが進んでいく。

「二つ、質問良いですか?」

「もちろんだよ」

「一つ目は、私はその戦いに勝てばどうなるんですか?」

「うん。二つ選ぶことになる。天国に行くか、人間に輪廻転生するか」

「分かりました。ご依頼に関しては、お受けさせて頂きます」

「そうか、それは助かるよ。ありがとう。じゃあ、もう一つは?」

「なぜ、閻魔様やその眷属の方々が、それをなさらないのですか? 私はただのJKですよ」

「それがね。彼らが暴れてるのは、地獄ではないんだよ。六欲天というところでね。一応、天国扱いの場所なので、手が出せないんだ」

「そうですか……。事情は何となく分かりました。宜しくお願いします」

 神楽坂は深々と頭を下げた。

「良かった。そう言ってくれると助かる。因みに僕の名前とかは出さないでね。大事になるから」

「分かりました」

 俺、完全に忘れ去られてる?

「あのー。僕はこれからどうしたら」

「うんうん。今から地獄に送るからちょっと待ってね」

 いやいやいやいや。あっさりし過ぎだろ閻魔様。

「閻魔様どうか御慈悲を。何でもします。仕事、仕事をください。なんでもします」

 こうなれば恥も外聞もない。媚びろ、媚びるんだ俺!

「ん?今、なんでもするっていったよね」

 まさか、このセリフをあの世で聞くとは思わなかった。でも、地獄は嫌だ。

「はい。何でもします。地獄だけは嫌です」

「うん。じゃあ、君も六欲天に行って、神楽坂君を手伝ってあげて」

 やった。活路が見えた。しかも、転生ではないけど。異世界冒険が始まるんだ。

「私は要らないんですが」

 じろりとにらむ神楽坂。

「神楽坂さん、いや、神楽坂様後生です。連れて行ってください」

 神楽坂は大きなため息を吐く。

「後生って、もう死んでんだけどね。いいわ、連れて行ってあげる」

「あ、今野君には、言っておかないといけない事があるから」

 なんだろう。伝説の勇者的な、何かがもらえるのだろうか。

「君、一応、善意だったけど人殺ししてるから、能力とかは素のままで行ってもらうから、まあ一つだけ人間の時と違うのは、絶対死ねないって事くらいかな」 

「へ?」

 とても間抜けな声が自分から出ていた。魔法で暴れている者がいる世界で、引きこもりニートの素の能力で、しかも死ねないときている。それって地獄とあまり変わらなくない?

「うん。だから君、本来は地獄行きなんだからね。そのくらい我慢してね」

 閻魔様は心も読めるらしい。


 「じゃあ、今から転送するから頑張ってね。神楽坂君の能力と武器は、向こうに行ったら何となく分かると思うから」

 そんな適当な説明の言葉が聞こえた瞬間、俺たちの意識は暗転した。

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