第6話 毘沙門天様のお宅訪問

「純平達は、今から毘沙門天様の所に行くんっすね」

 背中に乗ったまま離れないリアナをおぶったまま、目的地に向かう。

 この地の神様の一人に、最初に会う様、閻魔様から指示が出ているのだ。

「でも、何しに毘沙門天様に会いに行くんっすか?」

 リアナはとても不思議そうに尋ねてくる。

確かに、会いに行けとの指示は頭の中にあるが、何故会いに行くのかという知識は与えられていない。

 閻魔様、適当過ぎだぜ!

「そりゃ、この争いを止める協力をしてもらいに行くため、かな?」

「そうよ。この地の古い神様なんでしょ?」

 神楽坂も、俺と同じ程度の認識の様だ。

「うーん。あんまり意味ないと思うっすよ。毘沙門天様は、ウチにも優しくしてくれるっすけど。今回の争い事には……。でも、ウチは難しいことは分からないっす」

 嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。リアナをおぶったまま、神楽坂と目が合う。

神楽坂も同じ意見みたいだ。

 どうも俺達は、悪い流れの時だけは、意見が合うようだ。


 リアナはもともと小柄なうえ、ウサギの獣人というのもあるのか、とても軽かった。

まあ、胸のボリュームはなかなかのものだったが。

 歩いている間、にやけた顔になりそうになる度に、神楽坂の氷の視線が突き刺さる。JKのこの視線はマジで辛い。

 あれから歩くこと、約三十分程度。

与えられていた知識と、リアナの案内で、毘沙門天様が住む所につく事ができた。


 その間リアナは、仲良くしてくれた人間達の話をしてくれた。

「本当に、純平達の世界の人たちって、凄く頭が良い人達が一杯いったっす。魔法が使えるようになる人は、あんまりいなかったっすけど。

この世界の住む所や、遊びは、殆どその人たちが持ってきてくれてたもんなんっすよ。

それに、ウチみたいな獣人にも、とても優しくしてくれたっす」

 どうも、リアナの元の世界では、獣人は人間の格下の存在として扱われたらしい。

だから、俺らの世界の人間から優しくされて、懐いていた獣人はかなりいたとの事だった。

 だからこそ、俺らの世界の人間が、戦いに参加を決意した時に、殆どの獣人は一緒について行ったらしい。

 ただ、リアナは争い自体が怖くて、逃げまどっていたらしい。

「自分らあんまり賢くないっすから。でも、人間さんマジ凄い人が一杯いたっす。頭の中だけで、デッカイ畑分の広さが必要な、難しい計算ができる人とか。

大きめの石一つで、元の世界をぶっ飛ばせる力を取り出す事ができるって、言ってた変わった髪型のおじいさんもいたっす。

他には、宇宙には全てを飲み込む穴がある? みたいな事を言ってる人もいたっす」

 うん?それ、まさかあの人たちじゃないよね。

 神楽坂も分かっているらしい。こいつ、若さを謳歌するだけのJKじゃなくて、学校の授業はちゃんと受けてるみたいだった。

「純平。また、失礼な事思ってなかった? 私、普段は勉強に勤しむ真面目なJKだったのよ」

 おお。相変わらず敏感でいらっしゃる。

「まさか、流石神楽坂さんと思っただけだよ」


「なあ、リアナ。今、その人たち何にしてるんだ? 

因みに、名前はノイ何とかとか、アイン何とかとか、オッペン何とかじゃあないよな?」

「そうっす! その人たち有名人なんっすか? 人間の寿命からすると、結構前に来た人たちだったと思うんすっけど。優しいお爺さんたちだったっす。

でも、変態さんじゃないけど、やたらウチの事触ろうとしてったっす。

確か、この争いが始まった後。何か、仕方ないからまた手を組むか、とか、やはりこうなってしまうのか、とか、ウチにはよくわからないこと言って、いなくなってしまったっす」

 おいおいおいおい。それ、洒落にならないじゃねえか!

 後、リアナは研究材料として、見られてた可能性が高そうだ。分野は違うはずだが、知的好奇心が抑えられなかったのか?

「か、神楽坂さん。これ、まずい気がするのは、僕の気のせいですかね?」

「純平。奇遇ね。私も、ヤバい感じがバンバンするわ」

 やはり、嫌な予感の時だけは、気が合うらしい。

 ほぼ間違いなく、リアナが言っているのは、原爆を作った人達の中核だ。その偉人たちが、やむを得ないから手を組むと言っている。もはや、嫌な予感以外しない。 

 閻魔様からの情報は、相変わらずザクッとしたものが多かったが、依頼の項目の一つに、大悪党(六欲天に来てから)以外は、魂を消滅させたりしない様にとの事だった。


 だから、あれが爆発してしまうと、依頼未達成になる可能性がある。

 因みに、神楽坂が俺を毎度フッ飛ばしていたのは、閻魔情報の、俺は死なないを鵜呑みにしていたからだ。

これも、どこまで信じていいか分からないので、神楽坂も今後は、自重してくれることになった。 

 まあ、今後もズドンと行く覚悟はしているが…… 


「ここっす」

「ここっすか?」

「純平? なんで、ウチのマネするっすか?」

 これが、この地を治める神の一柱の御殿?どう見てもへー○ルハウスです。本当に以下略。

「私も純平も、ちょっと驚いただけよ」

 毘沙門天なんて神様が住まう場所だから、塔、例えば五重塔とか、現代版にしてもスカイタワー的なものを想像していた。

 それがまさかの、へー○ルハウス風の、一戸建て住宅である。

しかも平屋。確かに頑丈そうではある。

 それに、周りは戦いの影響でボロボロなのに、この家だけは傷一つない。流石というべきか。


「ここのボタンを押すっす」

 門まで近づいて、リアナがインターホンを押す。

 うん。異世界感がまるでない。ちょっとお金持ちの知り合い宅に、訪問に来たような感じだ。


「どちらさまですか? 新聞と宗教の勧誘は間に合ってます」

 野太いおっさんの声が、インターホンから聞こえてくる。

宗教は間に合ってるって、アンタ神様だろ。

 神楽坂がインターホンの前に立つ。カメラがついているタイプみたいなので、中からも見えているだろう

「すいません。神楽坂エリと言います。とある方から、今の天界を正常化するよう依頼を受けまして。

こちらに来たら、まずは毘沙門天様に会いに来るよう、指示を受けていたんですが」

 数秒の沈黙。


「あー。あいつからのね。分かった分かった。今から開けるから、ちょっと待ってな魔法少女さん」

 インターホンの会話が切れる。プツリという音がして。何やら家のでガシャガシャと音がし始める。

 神楽坂は顔を真っ赤にして、インターホンの前で震えている。

こいつ、神様に喧嘩売ったりしないだろうな?


 一分程度待つと、玄関の扉が開いた。

棍棒と甲冑を身に着けたいかついおっさんが、へー○ルハウスから出てきた。何ともシュールな絵面だった。

 なんか、セキュリティー会社のCMっぽいな。

 さっきまで、怒りで震えていた神楽坂も同じことを思ったらしく、笑いをこらえている様だった。

「門のロックは空いているから、中に入っておいで」

 いかつい甲冑のおっさんが、そう言いながら手招きしている。

事前に神様と知らなければ、事案発生待ったなしだ。


「毘沙門天様ひさしぶりっす。遊びに来たっす」

 リアナは俺の背中から飛び降りて、元気に駆けて、玄関に向かった。

遊びに来たわけじゃないんだけど。まあいいか。

「おお、リアナ、お前もいたのか。息災そうでなによりだ」

 玄関前についたリアナの頭を、毘沙門天様はポンポンと撫でる。

「そうなんっす。もう駄目かと思ってたんすけど。純平が、ウチのお世話をしてくれる事になったんっす」

 その瞬間、毘沙門天様の目つきが鋭くなる。明らかに俺を睨んでいる。

何か、誤解されてますよね?

「貴様、不浄な臭いがするな。本来、この世界に来ていい人間ではない臭いだ。そんな奴が、リアナの世話だと? 何の世話をするつもりだ?」

 あー。駄目だ。完全に犯罪者を見る目だ。

「毘沙門天様。純平は優しいっす。虐めないでやって欲しいっす」

 リアナが、一生懸命俺の弁護をしてくれている。

 途中、神楽坂がぼそりと。まあ、殺人犯で性犯罪者予備軍だけどね、と言っていたのは聞かなかったことにする。

でも、俺の心にはしっかりとダメージが残った。

「まあ、リアナがそこまで懐いているならいいだろう。二人とも、そんなところに突っ立ってないで、こっちに来なさい」

「は、はい!」

「失礼します」

 俺達は家に入った。神様の家に入るなんて、何かスゲー興奮すると思ったが、家の中も普通だった。

少し広めの玄関に、大きめの靴箱。花なんかも飾ってある。全く神様の家らしさはない。

 靴を脱いで、玄関を上がろうとしたとき、毘沙門天様が急に耳打ちした。

「リアナにおかしな事をしたら、ワシが直接お前を地獄に送ってやるからな」

 なんだろう、俺はそんなに犯罪者の臭いがするのか?

「あら純平。あなた分かってなかったの?」

 おいおい神楽坂さん。あなた人の心読めるの?てか、いつも通り容赦ないですね。

「おかしなことなんて、する訳ないです。俺はリアナをちゃんと守ります」

 俺も流石に、見た目が十歳位の女の子に、本当に何かするような趣味はない。

「ならよい。客人二人とリアナ。こっちに来なさい」

 毘沙門天様を先頭に廊下を歩くが、フローリングに真っ白の壁紙、そこに棍棒、甲冑姿は、あまりにもミスマッチだ。

 そんな事を思っていると、毘沙門天様は、ちらりとこちらを振り返る。

「わしも、昔はもっと大きな塔に住んでいたんだが、上り下りが面倒でな。

その時、お前たちと同じ、日本人の営業マンと名乗る者が、日本で一番丈夫な個人住宅に住んでみませんかと勧めてきたのだ。

実際棲んでみると本当に良いぞ。全てが機能的だ、トイレや風呂も色んな仕掛けがついていて、今ではあまり外に出る事もなくなった」

 どうやら、へー○ルハウス風ではなく、本物の様だ。

神様を引きこもりにしてしまうとは、なんという罪深い家なのだろうか。

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