第7話 毘沙門天様は我関せず!?
「ここが、わしの自慢のリビングだ。寛いでくれ」
自慢のリビングって、神様どんだけ家好きなんだよ!
俺たち三人は、勧められたソファーに腰をかける。
ああ、スゲー。昔、金持ちの友達に行った時の記憶がよみがえる。
あの時は家に帰って、両親にソファーの話をしたら、じゃあ自分で稼いで、座れる身分になれと、身も蓋もない事を言われたな。
まあ、今になって思えば当然の事なんだが。
テレビも、100インチ以上ありそうな物が鎮座している。一体こっちで何の番組が映るんだろうか。
毘沙門天様もどっしりと、向かいの側のソファーに腰かける。西洋風のソファーでなければ、中国の武将と言った感じなのだが。
「改めまして、私は神楽坂エリ、こちらは私の下僕、今野純平です」
「宜しくお願いします」
うん?神楽坂さん、今さらりと俺の事、下僕と言ったよね?
「ああ、閻魔からの依頼を受けて、最初にここに来いと言われたのだろう?」
「はい、言われたというか、そんな知識を入れられたような感じです。でも、知識にある、目的は、毘沙門天様に会うという事だけでした」
毘沙門天様はニヤリと笑った。
「ははは。相変わらず閻魔大王の奴は、適当な事をしておるな。
どうせ俺にも手伝って欲しいとか、そんなところなんだろうよ」
神様が手伝ってくれるなら、まさに千人力、万人力。神楽坂も期待に満ちた目をしている。
「て、手伝ってくれるんですか!?神様が手伝ってくれるなら、スゲー助かります」
「いや、手伝わんよ。わしは今回の争いに介入も、手伝いもする気はない」
がくりと肩を落とす俺と神楽坂。
「ほら純平。ウチが言ったじゃないっすか。毘沙門天様優しいっすけど、手伝ってはくれないっすよ」
リアナは既に、話に飽きている様でぬいぐるみで遊んでいる。
神様の家にぬいぐるみ?
「それと、我が主である帝釈天様や、同じ眷属である四天王達も同じだと思うぞ」
「な、何故ですか? 天界がこんなに荒れているのに、何で手を出さないのですか?」
神楽坂の質問。当然だ。古くからいる主の様な存在の彼らが、なぜ動こうとしないのか?
「主ら、勘違いしているな。わしらも昔は大いに争った時代があった。
閻魔の奴はその時の喧嘩に負けて、今の役職についている位だ。まあ、わし等の喧嘩は魂を消滅させるほど、殺伐とはしておらんかったがな」
ああ、何か聞いたことがある。そうだよな、自分たちもしてたんだ、後進達の喧嘩なんて、いつもの事なのだろう。
「閻魔が困っているのは、魂そのものを消してしまう輩が多数いて、色々具合が良くないからだ。
でもな、それは閻魔の仕事で、わし等の仕事ではないからな」
これは、完全に脈無しだ。
だったら閻魔様、何のために、毘沙門天様に会いに行く指示出したんですか!?
「それともう一つある。この争い、波旬の奴が面白がって、絶対手出しするなと言ってきたのだ」
ああ、遂に出てしまった。この世界の地理が分かった時に、お会いしたくないランキング№1と思っていた。
天魔波旬。第六天魔王。他化自在天。
かつては、あの織田信長が自称していた存在。
この争いの首謀者や、倒すべき敵の情報はまだ入っていないが、そいつらの親玉をラスボスとするなら、
波旬は最強の裏ボス。アルテ○ウェポンみたいな奴だろう。
「あのー。俺達がこの件んで、波旬に目を付けられる事は、有ったりするのでしょうか?」
「なに?その波旬って奴、そんなにヤバいの?」
神楽坂は波旬を知らないらしい。横から話に入ってくるが、とにかく今は先を聞きたい。
「うむ。多分、奴も介入はせんと思うぞ。
ただ、閻魔の使いだと知られると、潰しにかかってくる可能性はある
奴の中で、これは娯楽なのだ。娯楽を邪魔されるというのは、誰でも嫌なもんだろう?」
これは良くない流れだ。
でも、神楽坂はチート能力を与えられている。勝てないまでも、逃げることぐらいはできるかもしれない。
「毘沙門天様。もし、もしですよ。こちらの魔法少女と、波旬が戦ったらどうなります?」
「ああ?まあ、お嬢ちゃんの服は、閻魔が用意した中で最高の物だろう。新しく神格に到った者ぐらいなら、別けなく捻り潰せるぐらいに強力だ。才能と練度にもよるが、場合によっては、わしとも戦えるかもな。
ただ、波旬と対峙した場合、奴が消えろと思ったら、消える。それくらい力の差がある」
魔法少女という単語に反応されたが、毘沙門天の言葉に沈黙した。
想像以上に悪い話だ。目を付けられた瞬間に、目標達成不可能、それどころか消滅させられる。
神楽坂も、顔色がかなり悪くなっている。
裏ボスなんてレベルじゃなかった。エンカウントしたら、即終了。
ゲームだったらクソゲー扱いか、バグ扱いだ。
「まあ、でも、あいつはそうそう出てこんと思うぞ。面倒くさがりの上に、今は観戦を楽しんでいる。
多分、大丈夫だ……多分、な?」
毘沙門天様、途中から自信無くなってるじゃないですか。しかも、最後は疑問形になっているし!
まあ、でもどちらにしても、諦めるという選択肢はないわけだから仕方ない。
「波旬の事は、何となく分かりました。遭遇しない様に、気を付ける以外ないみたいですね」
「違うぞ、嬢ちゃん。邪魔だと思われない様にだ。そう思われたら終了、そうじゃなければ、奴は何もしてこない。全然意味が違う。」
神楽坂は、分かったような、分からない様なという表情をしている。
「毘沙門天様。そしたら、もし遭遇してしまっても、波旬が邪魔だと思わなければ、大丈夫って事ですか?」
「そう言う事だ。まあ、会う事はないだろうけど。考え方としてはそれでいい」
よく分かった。邪魔だと思われた時は、どこに逃げようが、隠れようが消されるし。
邪魔だとさえ思われなければ、会ってしまっても問題ないという事か。恐ろしいほどの気分屋だ。
神楽坂も理解してくれたようだ。
リアナはわれ関せずと。ぬいぐるみと遊んでる。
途中何度か、暇だから遊んでくれと言われたが、待ってくれるよう宥めなている。
「毘沙門天様。私達、悪い奴を成敗するようにとだけ、閻魔様に言われているのですが。具体的に誰を倒せばよいのですか?」
確信的な質問だったが、閻魔様情報は抜けが多い。本来最初に教えていて欲しいくらいだ。
「ふむ。悪い奴というのは微妙な表現だな。六欲天は欲望を否定するわけではないからな、まあ閻魔が言いたいのは、魂を消滅させ過ぎた者と。これから、魂を大量に消滅させてしまう可能性がある者達を、止めるなり、消すなりしてくれ、という意味だろう」
てことは、やっぱりあの人達も止めないといけないって事か。
神楽坂と目が合う。やはり、同じことを考えているらしい。
「でもな。わしも魂の管理をしているわけではないので、誰がどうとか正直分からんのだ。元々興味も介入する気もなかったしな」
「毘沙門天様、高名な科学者三人組がどこにいるかご存知です?
一人は、そこにある機械の原型を考案した人なんですが」
俺は、リビングの端にある、PCを指さした。
6画面ある。毘沙門天様は、天界でデイトレードでもしているのだろうか?
「おお、やつか、奴なら仲間の二人と研究所にこもるといっておったな。場所は……」
研究所にこもるか、ほぼ確定だな。
しかも、彼らはあれを作った事を、晩年後悔していたと聞いている。
話は聞いてもらえそうだ。
「うんうん。思い出した。場所はリアナに教えるから、案内してもらえ。ロス穴モス天界研究所とかいう地下の研究所だった気がする」
「「ダジャレかよ!」」
神楽坂とかぶってしまった。ちょっと嬉しい。
神楽坂は大分不満そうだ。なんでだよ!
「うん?まあよく分からんが、ここからそんなに遠くはないから。
リアナ、場所は……だ。この二人を案内してあげなさい」
「分かったっす。ウチについてくるっす」
自分が役に立てそうだと分かり、リアナは嬉しそうだった。
大きな胸をドンっと叩いている。神楽坂ではこうはいかない。
「純平君?」
ああ、そうですよね。
神楽坂は、今まで見たことが無い表情で俺を見ている。人間、怒りが頂点に達するとこうなるのか。
これが噂の、怒りが有頂天に達した状態か。天界だけに……
「お、俺は、神楽坂の慎ましい胸も好きだぞ」
ダメだ、フォローになってなかった!?
腹部に強烈な痛みを感じ、俺はしばらく意識を失った。
「純平、純平。しっかりするっす」
また、リアナが起こしてくれた。
「ありがとう。リアナ」
「純平が、ウチの事好きなのは分かるっすけど。幾ら貧乳だからって、エリさんにあんな事言ったらダメっすよ」
おいおい、リアナちゃん。俺よりドストレートじゃないか。
俺を注意しようとしたみたいだけど、思いっきり地雷踏み抜いてるぜ!
「エリさんも、いくらチッパイだからって、純平を殴ったらダメっすよ。純平はウチのお世話をしてくれるんっすから」
ああ、もう駄目だ。もしかしたら、今からこのへー○ルハウスの、耐久実験が行われるかもしれない。
神楽坂の羽が、今まで見たことないくらいバサバサしている。それに、何かちょっと神楽坂浮いてない?
「おい、嬢ちゃん。痴話喧嘩はここでは止めてくれよよ。自慢の我が家を消滅させられては困る」
「クッ!」
何とか堪えたのか、神楽坂の羽の動きが止まった。顔は真っ赤なままだが。
ナイス、毘沙門天様。俺とリアナとこの家は守られた。
まあ、外に出た瞬間に、俺にだけ特大の一撃という事もありえるが。
やっと、元との姿勢に戻った俺に、毘沙門天様が話しかけてくる。
「それと純平とやら、お前いくら何でも弱すぎるな。地獄の亡者の戒めで、死ねないようになっているが、それだけだとどうしようもあるまい」
そういうと、毘沙門天様は自分の小手を外して、こちらに投げてきた。
「本当は、わしも波旬に関わりたくないのだが、それはちょっとあんまりだろう。閻魔も無茶させよるわ」
「毘沙門天様これは?」
「膂力を上げる小手じゃ。まあ、力持ちになる位の効果はある。リアナを守ってもらわんといかんからな」
毘沙門天様はリアナには過保護の様だ。
「まあ、リアナを守れなかった時は、わしがお前を直々に地獄に送ってやるから安心しろ」
全然安心できない事を言いながら、毘沙門天様は豪快に笑っていた。
「ありがとうございます。毘沙門天様。リアナは必ず守ります」
そういって、俺は小手を付けてみる。うん?特に変わったことはない。
「まあ、後で外に転がっている岩でも、殴って試してみろ」
家の中で試すなよと、目で言われている。
「純平。これから改めて宜しくお願いするっす」
そう言うとリアナは、また俺の背中にしがみついてきた。
「ふむ。リアナがそんなに懐くのは珍しい。純平とやら、本当に頼んだぞ」
「はい。もちろんです!」
地獄送りは嫌です。それに、リアナが傷つくのも嫌だ。
こうして、新たにアイテムと行き先を得た俺たちは、毘沙門天邸を後にして、ロス穴モス研究所に向かう事になった。
しかし、こんなおやじギャグをひねり出す爺さん達とか、本当に大丈夫なんだろうか?
不幸な事故だったんだ! 道連れ転生!? 神様からも地獄行きを宣告されてた俺には、チート能力は付与されませんでした! 今永 有哉 @imanagayuuya1
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