第5話 獣人リアナ(モフモフちゃん)との遭遇

「いくら何でも、今のは酷いだろ」

 意識が戻った俺は、神楽坂に抗議の声を上げる。

 モフモフちゃんは、神楽坂の陰に隠れている。立ち上がった俺を見ると、ふるふると震え出した。

「変態が生き返ったっす! エリさんヤバいっす。私達、犯されるっす」

「大丈夫よリアナ。このヘタレ童貞に、そんな根性はないわ。それに、何かあったら今みたいに、私が助けてあげるから」

 神楽坂は怯えるリアナの頭を優しく撫でていた。


 そうですか、そうですか。何か、俺が脳みそぶちまけている間に、とても仲良くなったみたいですね。

てか、その銃口、俺に向いたままなんですけど。

「か、神楽坂さん。つい、出来心だったんです。目の前にウサギの尻尾が見えたので、いてもたってもいられなくなって、ついモフモフと」

 その言葉にリアナは更に怯えてしまった。神楽坂の陰に完全に隠れてしまった。

「純平。この子怖がってるから止めなさい。それとも、次は本当に炎で消毒されたいの?」

 まずい。今までは、一撃で意識が飛んでくれていたが、火炎放射器は痛いなんてもんじゃ済みそうにない。

「わ、わかった。モフモフしない。モフモフ禁止にする」

「ほら、リアナ。純平は、ヘタレだから大丈夫よ」

「エリさん分かったっす。さっき言ってた、ヘタレの変態童貞キモオタ野郎って事っすね」

 おいおい神楽坂さん。何を教えてくれちゃってんですか。余計なワードが増えてますよ。

「そうよ、だから怖がらなくても大丈夫だから」

 そう言われて、やっとリアナは神楽坂の後ろから出てきた。

「リアナ、さっきは済まなかったな。あんまりにも可愛かったから、ついな」

 俺もちょっとやり過ぎた。それに神楽坂が恐ろしい。

「う、ウチが可愛かった? そ、そうっすか、それなら仕方ないっすね。そりゃまあ、魅力的っすもんね」

 おや? なんだか嬉しそうだ。

「そうなんだよリアナ、マジ可愛いし、魅力ありまくりだから」

「そ、そうなんっすよ。純平。分かってるっすね。仕方ないっすね~。まあ、モフモフってやつも、時々なら許してやるっす」

 お、チョロい。神楽坂とは正反対だ。


 『カチャ』

 ん?デジャブかな?また、こめかみに冷たい物が。

「純平。リアナに変な事しないのよ。それと、また失礼な事考えてたでしょ」

 俺は神楽坂を刺激しないように、ゆっくりと両手を上げる。

「変な事なんてしないし、神楽坂に失礼な事を思ったりもしない。する訳がない」

「そう? なら、いいんだけど」

 こめかみの冷たい物がゆっくりと外される。

やばかった。俺は一体、何回こいつに殺されないといけないんだ。


「純平。ウチ、さっきエリさんとお話して、お二人について行く事にしたっす。宜しく頼むっす」

 そう言って、手を差し出してくるリアナ。肉球やべえ、超気持ちいい!

 二人に悟られない様。感触を満喫する。

「純平。その、ウチがカワイイノは分かるっすけど。そろそろ離して欲しいっす」

 いかんいかん。時間が経過するのを忘れていた。後、神楽坂さん目が怖いです。


「俺は大歓迎なんだけど。でも、人間と他の二つの世界の人類って、仲悪いんじゃなかったのか?」

「ああ、その事ね」

 神楽坂は、俺が脳みそぶちまけている間に、リアナが教えてくれた事を話してくれた。 

 六欲天も、元々天国の一部なので、基本的にはみんな楽しく暮らしてたんだそうだ。

ただ、六欲天には住む人々は、欲を忘れているわけではない。寧ろ、欲を開放できてしまうらしい。

 なので、生前は善人として生きてきた人々の中には、こっちにきて、欲求を爆発させてしまうものがいるらしい。

そんな、己の欲の制御が効かないやつ等が、争を始めてしまって、今では拡大が止まらなくなった、というのが現状らしい。


「前は、エリさん達みたいな人間さんが、色んな技術を持ち込んできてくれて、みんなで楽しく遊んでたっす。なのに、皆どんどん争いに加わるようになって、ウチはどうしていいのか分からないまま、逃げ回ってたんっす」

 思い出してしまっているのか、リアナのウサギの赤い瞳はウルウルと涙を湛えていた。

「あっ」

 俺は無意識にリアナを抱きしめて、頭を撫でていた。捨てられた、子猫を放っておけない。そんな気持ちだった。

「そりゃ辛かったな。俺達は、この世界を滅茶苦茶にした奴等を、懲らしめるために来たんだ。もう大丈夫だからな」

 リアナも最初は身体を固くしていたが、抱きしめられて、撫でられるのは安心するらしく、向こうからギュッと抱き着いてきた。泣いてるんだろう。リアナが顔を押し付けている俺の服の上から、涙がしみ込んでくる。

「最初は変態さんかと思ってたっすけど。純平は優しいっすね。前は、人間さんも同じように撫でてくれてたっす。でも、こんなに抱きしめられたのは初めてっす。何か安心するっす」

 しかし、神楽坂は見逃してはくれなかった。

「純平。今のは善意でやったのは認めて上げましょう。ただ、見た目が完全に事案だから、直ぐに離れなさい」 


 見た目は十歳、半裸に見える少女を抱きしめる俺。確かに事案ものだった。

「そ、そうだな。これはいけない!リアナ、辛いだろうけど。一緒に頑張ろうな」

 俺は我に返り、リアナを離そうとする。

「も、もうちょっとっす」

 今度はリアナが離してくれない。駄目だリアナ。このままだと、今度は俺が辛い目にあうんだ。

「ま、まてリアナ。また今度な。ちょっと色々不味い事になりそうなんだ」

「嫌っす。さっき純平は、ウチの事モフモフしたいって、言ってたっす。さっきと違って、凄く安心するっす。もっとモフモフして欲しいっす」

 ああ、リアナかわいいよ。カワイイよ、リアナ。

でも、神楽坂さん。もう僕ダメですかね?

「ただの変態ではなくて、ロリコンだったみたいね。このヒキコモリ変態ロリコンキモオタ童貞ニートの性犯罪者!」

 おいおい、俺の称号どんどん長くなってね?それに、どれ一つ褒め言葉が入ってないよ。神楽坂さん。

しかも、殺人犯から性犯罪者にクラスチェンジしているし。

「か、神楽坂さん誤解です!」

 『パンッ』

 ああ、俺また死ぬのね。



「純平! 純平! 大丈夫っすか!?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 リアナが起こしてくれた。座り込んで、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

「びっくりしたっす。急に押し倒されたかと思ったら、純平の頭が無くなってたっす」

 おいおい、頭無くなるって、どんな威力の銃だよそれ。神楽坂さん怒りすぎっす。

「本当に心配したっす」

 リアナはまた泣きそうになっている。あ、頭撫でるくらいは良いよな?

「大丈夫、今はピンピンしてるから。そんな悲しそうな顔するなよ。な?」

 コクコクと頷くリアナ。良かった大丈夫そうだ。


「エリさん酷いっす。純平はウチを慰めてくれてただけっす。純平に酷い事しないで欲しいっす!」

「え、え! 私が悪いの?」

 突然矛先が向いた神楽坂が後ずさる。

駄目だリアナ、君はまだ死ぬには早すぎる。あの世だけど。

「そうっす。エリさんは酷いっす。純平は優しいっす。そんな事をしたらダメっす!」

 困惑する神楽坂。そうだよな、本人は性犯罪者から、少女を守ったぐらいのつもりでいるからな。

「な、なにを言っているのリアナ。私はそこの性犯罪者から、貴方を守ったのよ」

 困惑してても、俺の罵倒だけは変わらないんだな。ここまでくると感心する。


「純平は、ウチを抱っこしてくれただけっす。殺すなんてひどいっす。

それによく見たら、エリさんは何か凄い恰好してるっす。本当はエリさんが痴女さんだったんすね。危うく騙されかけたっす」

 まずい。背中の羽がバサバサしている。まだ俺は、君を失いたくない!

「それ以上はいけない!駄目だリアナ。殺される」

 俺は神楽坂に立ちはだかるように、座り込んだままのリアナの前に立った。

真っ赤な顔でプルプルしている神楽坂。もう駄目そうだ。魂すら打ち砕く一撃が俺を射抜くのだろう

「も、もういいわよ。好きにすればいいでしょ! 純平! その子の面倒はアンタが見なさい」

「そうっす。ウチは純平に面倒見てもらうっす」

 た、助かった……

神楽坂も女の子に銃口を向けるほど鬼ではなかったようだ。


「良かったっす。純平宜しくっす」

 そう言って、俺の背中に飛びついてくるリアナ、俺の背中に、リアナの小柄にしては豊かな胸が押し付けられる。こりゃたまらん。

「純平、リアナに免じて許してあげるけど。場合によっては、分かってるわよね?」

 魔法少女神楽坂の本気の殺気が俺に向けられる。

「も、もちろんだぜ、神楽坂。リアナはちゃんと面倒見るから」

「面倒見てもらうっす」

 変わらず嬉しそうに、俺の背中にしがみつくリアナ。

うんうん。おじさんが面倒見て上げるからね。あ、ヤバい。今のは本当に変態っぽかった。

 盛大にため息を吐く神楽坂。もう知らない! と、顔にかいてある。


「そういやリアナ、ちょっと気になったんだけど」

「なんっすか?」

 リアナは、今も俺の背中に抱き着いてご機嫌そうだ。

「さっき、俺が頭吹き飛ばされ時、スゲー心配してくれてたけど。ここの人たちって、死んでも直ぐに戻るんじゃないの?」

「戻んないっすよ?」

『えー!』

 初めて、神楽坂と俺の息が合った瞬間だった。

ビンクんとする俺、チョット引いた顔になってる神楽坂。

「ごめんっす。今の言い方は、正確じゃあなかったっす。

生きてた時に即死するくらいの状態になったら、戻るのに百年単位の時間がかかるっす

因みに、身体が消滅するくらいのに巻き込まれたら、魂事消滅する可能性もあるっす。戻れたとしても千年単位の時間がかかるっす」

 そうか、だから一回目に生き返った時、リアナはドン引きしてたし、二回目に死んだときは滅茶苦茶心配してくれたんだ。

「だから、純平が頭無くなった時は、本当に悲しかったっす」

 更にギュッとしがみつくリアナ。いやーたまりませんね!

ついつい、にやけ顔の俺になってしまった。

「そう、じゃあ次はどれくらい時間がかかるか、試してみましょう」

 うお!それは、ター○ネーターとかででてきた。ガトリンクって奴じゃないですか。

「神楽坂さん。駄目だって、シャレにならないって。今の聞いただろ?」

「だめっす。純平を傷つけたら、ウチ許さないっす」

「チッ」

 ガトリンクを消す神楽坂。リアナには甘いらしい。リアナ様様だ。

 そうか、俺も一つだけ能力貰っていた訳か。

うん?でも死んでも直ぐに蘇るって、地獄の亡者みたいじゃね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る