エピローグ



 その日も、赤ずきんはおばあちゃんのところへ行くために、一人森の中を歩いていた。


「赤ずきんちゃん大丈夫かな? 一人でお使いに行けるかな?」


「本当エクスは心配性よね。大丈夫よ、あの子は賢い子だから」


 エクス達は、影に隠れながら赤ずきんの様子をこっそりと観察していた。


「まあ、エクスの気持ちも分かる俺としては、何とも言えないな」


「なぜタオ兄は分かるのです?」


「そりゃだって、シェインが一人で買い物に行くなんて言ったら、それはそれは心配でな」


「もう! シェインはそんなに子供ではないのです! それこそ、シェインだって負けないくらい賢いのです!」


「でも、武器屋に行ったら、いくら使うか分かったもんじゃないだろ?」


「あ………………それは、それはですね………」


 タオの発言に、先ほどまで自信満々だったシェインの額からは一筋の汗が流れ落ちる。


「そうね、シェインだったらカツアゲしてでもお金を工面しそうよね」


「姉御! シェインはそんなに自分勝手な人間じゃないです! そもそも、姉御はシェインのことをそう言う風に思っていたのですか!?」


「いえ、別にそう言うわけじゃないけれど……あれ? そもそもシェインって人間なのかしら?」


「今はそんなこと重要じゃないのです! カツアゲの話は撤回してください!」


 そう言って、シェインがレイナに近づいたその時、近くにあった木の枝にぶつかる。


「い、痛いのです……」


 シェインは額を撫でながらも、辺りには大きな音が響いてしまう。


「誰かいるの?」


 不審な物音に気付いた赤ずきんは、訝しげに声を上げた。


「ほら、出番だぞエクス! うまいこと誤魔化してこい!」


 そう言ってタオはエクスの背中を押す。

 タオに押されたエクスは、よろめきながらも、何とか体勢を維持し赤ずきんと向き合った。


 今日も特徴的な赤い頭巾を被りながら、美しい碧眼で彼女は言った。



「あれ? エクスおにいちゃん……?」



「――――ッ!?」


 赤ずきんの予想外の言葉に、エクスは言葉を詰まらせる。

 記憶の無いはずの彼女がエクスの名を口にする。

 それは、誰も描いていない物語。

 だが、驚きを隠せないのはエクスだけではなかった。


「うーん、どうして知っているんだろう? どこかであったかな……?」


 そんな赤ずきんに対し、エクスは優しい笑みを浮かべながら答える。


「えへへ…………たぶん……人違いだね」


「そうだよね。いきなりごめんなさい。私、おばあちゃんのところに急がなくちゃ。またね」


 それだけを言って、赤ずきんは森の奥へと消えていく。その背中を、エクスはずっと見つめていた。


「エクスのことを覚えているなら、きっとあのオオカミのことも覚えているさ」


 タオがエクスの肩に腕を回しながらそう言う。


「そうね。きっと、そうよ……」


「シェイン達がやったことは間違いではなかったのです! そうですよね? 新入りさん」


「うん、そうだね……僕も、そうだと思うよ!」


 青々とした森の中、エクス達は赤ずきんが去っていた方をいつまでも見つめていた。


 そんな時だった。森の中のどこかで遠吠えが聞こえたのは。


「がおーー」


 そんな可愛らしい声が、エクス達には聞こえた気がした。


 赤ずきんは、森の奥を目指し今日も歩く。


 そして、誰に言うわけでもなくぽつりとつぶやくのだ。



「ふふふ……ありがとう……エクスおにいちゃん……」



 今日も赤ずきんは、おばあちゃんの下へと急ぐのであった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

再・赤ずきんの想区―たった一つの願いと共に― 悠木遥人 @yuuki-qi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ