時には我慢するのも大事ということで

暑い日差しの中をトウヤと二人で歩いていた。

トウヤの顔が赤ではなく青なのは今日のテストのできが芳しくなかったからだろう。

こいつ理系科目苦手だからなあ。


「トウヤ、そんなに物理のテストできなかったわけ?

俺、結構丁寧にお前に教えたつもりなんだけど」


「そうなんだよ。サトリにそりゃ丁寧に教えてもらってさあ。

結構いけてんじゃねえの!? って思ってたわけよ。

そしたら、解答欄足りなかった」


足りなかったってなんだ。

あれか? 最後の論文を書けってやつ書きすぎたとか。


「意味が分からない」


「そのまんまだよ。一段回答ずらして書いてた……」


「ああ、そういうことか。諦めろ」


「もう少し慰めろよ! やっちまったよなあ。

マークシートとかならまだなんとかなったかもしれねえけど、普通に記述だったじゃん。あれじゃあどう頑張っても間違いは間違いだもんなあ」


マークシートでも間違いは間違いだと思う。

トウヤは普段しっかりしてるくせに、たまにドジ踏むんだよな。


「そういうわけでサトリ、今日はお前の家で勉強します」


「どういうわけなのか全然わからない」


「なに、だめなの」


「いいけど。ササイ先輩の家じゃなくていいの」


「先輩は明日論理のテストだからな。俺の勉強で邪魔しちゃ悪いだろ」


そういうことか。俺らの学年はまだ論理の授業は受けていない。

だからトウヤに別の科目を教えることで、ササイ先輩が自分の勉強ができなくなっては申し訳ない、ということか。


「俺らは明日、世界史と英語のテストか。どっちもあまり得意じゃないな」


「安心しろ、俺も苦手だ」


「なにを安心するんだそれ。でもトウヤは文系科目成績良いだろ」


「サトリに言われても嬉しくねえなあ。サトリが苦手な科目ですらテストじゃ俺より成績いいの知ってるんだぞ」


そういわれると、まあ、そうなのだが。

普段の勉強料が違うので仕方ないと思う。

陸上部とササイ先輩に精を出すトウヤと、帰宅部で彼女もおらず勉強以外特にすることのない俺なのだ。

彼女……。いないというか。そうでもないと言うべきか。


「そういやサトリこそミズクチと勉強しなくていいのかよ」


「サクラはアサカとミカヅキと勉強するって言ってた」


「へー、じゃあタダシも暇なんだ。誘う?」


ミカヅキがアサカやサクラと勉強するということは、ミカヅキの彼氏であるタダシは暇だろうという直球な推理。

だが残念。それははずれだ。


「タダシはケイスケとケイスケの家で勉強するって言ってた」


「なぁ、ちょ、マジで!?」


「マジで。つまりタダシはササイ先輩の家で勉強してるわけだな」


もちろんササイ先輩とケイスケは別々の部屋があるから、ほぼ無関係だろうけど。


「やっぱり俺らもケイスケの家に行くか」


「行かないから。ササイ先輩の邪魔したくないんだろ?」


「うう、そうだけど。……そう、だよな。タダシにはミカヅキがいるしな。先輩のためにも俺は我慢すべきなんだよな」


珍しくトウヤが我慢している。

そうでもないか。普段は欲望に忠実に生きているこいつだが、ササイ先輩のこととなるととたんに大人っぽくなる。

ササイ先輩がトウヤにどんな教育をしたのか教えてもらいたいもんだ。


「はー、仕方ないな。今日はサトリで我慢してやるよ」


前言撤回。トウヤはちっとも大人っぽくなんかない。


「別に我慢しなくていい。俺は一人で勉強する」


「サトリ、そう言う冷たいこと言うなよ。だからお前はぼっちなんだよ」


「ぼっちでも問題ない。誰かと一緒じゃなきゃ生きていけない方が気持ち悪い」


「そう怒るなって。俺と仲良く英語の勉強しようぜ」


別に怒っているわけではないが、ここはまあ、俺が折れるべき何だろう。


「ガリガリ君リッチ」


「ソーダ味でいいか」


「リッチだ」


「へーへー、わあったよ。サトリの機嫌は安いんだか高いんだかわかんねえな」


けたけた笑うトウヤと並んでコンビニを目指す。

安いもんだろ、それくらい。

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青春トーク 水谷なっぱ @nappa_fake

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