あの夏の一球を、君に捧ぐ。
- ★★★ Excellent!!!
完璧なプロローグ──!!
まず、一読して、どころかたった数行を読んで驚いたのは、そのプロローグの〝完璧さ〟である。世辞でなく、これには本当に感心した。
じりじりと灼けつくような太陽に、張り裂けそうな心拍、噴き出す汗と恐ろしいほどに緊迫した空気。これぞ、まさしく正しき読書体験、である。
そして特筆すべきはもう一つ。この作者の他の作品を読めば分かると思うが、プロローグを終えて、途端に文のスピードを緩めている。これが作者の平易な文体、穏やかな筆致の真骨頂というべき部分なのだが、これがうまく作用している。
プロローグの駆け抜けるようなアレグロ、それ以降のゆるやかでなだらかでおだやかなアンダンテ。これが実に効果的に、視点人物の心境の変化を、雄弁に物語るわけである。
巧い! どんどん巧くなる!
同作者の「東大男と中退女」を拝読したときの衝撃が、さらに何倍にもなって襲ってきたような感覚である。まだ進化するのか──心底、恐ろしい。
緻密な内面と情景の描写においてはなかなか他の追随を許さない、筆者の小説を、どうかご一読されたい。
願わくばこのレビューが当作品と、作者の他の作品へ、触れるきっかけになれば幸いである。