耽美的怪奇文学!

 精巧な筆致に乗せられるものは谷崎ふうの歪曲された美である。まぎれもなく条理に支配されたわれわれの世界にひそむ不合理の事件が、まるで事実のようなリアリティをもって描かれる。
 「私」のなんの変哲もない部屋が不浄なユートピアへと変貌する。しだいに部屋を満たす穢れていて、しかし美しいものたちの羅列はワイルドの短編小説のように鮮やかに提示され、その中心にまします「天使」といわれるただ美しく清らかな存在によって、たしかに「私」の日常は破壊されてゆく。
 「私」は彼と同じように死ぬのだとわかっていながらも、そうせざるを得ない脅迫によって、みずから美しい死へと突き進んでゆくことになる。
 短くも研ぎ澄まされたプロットと、ギミックとによる巧みなストーリー・テリングで、読者を一挙に美しいものへの憧れと、同時に頭を擡げるその「美なるもの」への恐怖とに突き落とす怪作である。