ロケット商会先生の作品には様々な魅力がありますが、「バカ」「熱い」「強敵」「激戦」などの要素と主人公の葛藤や決意を感じたい方にはぜひお勧めです。まだどの作品も未読なら、この作品を最初の一作にしましょう。
各作主人公やツァーヴや『女神』を連想させる原点的なキャラクターや描写もありつつ、「この商店街の最高のバカ共はここにしかいない」と思える最高のドラゴン殺しストーリーです。感動で語彙が減ること請け合い。「クソ」と「殺す」しか言えなくなります。この作品を読み終えた時、きっとあなたはこう叫ぶことでしょう。
「間抜けヅラしやがって!!」
とある町に襲来したドラゴンの脅威に商店街の草野球チームが立ち向かう。
そんな日常と非日常が混在する現代の竜殺しの物語だ。
主人公のケンジを始め、チームメンバーはロクでなしの不良少年や中年オヤジばかり。
俺たちがやらねば誰がやる。意気込みは盛んだが、学もなければ特別な力があるでもない、ただの素人の彼らにあるのは根性だけ。
消防庁の聖騎士団ですら全滅したドラゴン相手に勝つつもりで、走り込みやポジション練習を始める。
どいつもこいつも正気じゃない!
普通は死ぬ。絶対に死ぬ。あまりの頭の悪さに考えるのをやめた途端、一気に物語に引き込まれた。
命知らずのバカたちが身体を張って意地と執念で打線をつないでいく光景に思わず手に汗にぎり、血がたぎる。
コールド負け寸前まで追い詰められても諦めない勇姿にいつしか熱い声援を送っていた。
気づいたらこのチームの熱狂的なファンになっていた。
ドラゴンのブレスでも燃やせない雑草魂に刮目せよ!
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=愛咲優詩)
我々は日常生活の中で、あまりドラゴンを殺そうとは思わないし、無理にドラゴンを殺す理由もなければ、本当に殺しにかかることもないだろう。まして、実際に殺せてしまうことなど在り得まい。
現代社会にドラゴンが存在したとして、それを殺そうとし、実際に殺せてしまう一般市民というのは、確かに地方商店街の頭が悪い連中しかいないのだろう。舞台設定と登場人物の噛み合いにおける納得感、説得力、現実味が凄まじい。
続編の書きやすい設定、終わり方ではないし、著者の過去作品で明確なクロスオーバーの類は見た覚えがないけれど、物語のその後を傍観したいと思える良質な短編。
「ドラゴン」と「商店街」。非日常の象徴たる神話生物と日常の象徴たる互助組合。この親和しないはずのワードをつっつけたタイトルがまず強く目を惹く本作ですがその中身はどうかと言うと……驚くほどに相反する二要素が違和感なく絡み合う、質の高いエンターテイメント小説となっております。
粗筋を大雑把に説明すると「商店街を襲う災害に街の荒くれ者たちが立ち向かう話」です。こう書くと「災害」がドラゴンなこと以外は案外オーソドックス。この手の話は「災害」が強大であればあるほど、「荒くれ者たち」が魅力的であればあるほどのめり込めるものですが、これがまあお見事。どちらの描写も際立っています。
まず「災害」たるドラゴン。本作の「0日目」はドラゴン退治専門家の聖騎士団とドラゴンの戦いを通じてドラゴンの強大さを示すための章となっています。そしてその強さですが、半端ないです。RPGでありがちな、こちらの装備が整っていない序盤に終盤のボスが襲ってくる負けイベントならともかく、ドラゴンと対峙しているのはドラゴン退治専門家の聖騎士団。彼らが敗れたらその後に控えているのは街の草野球チーム。勝てるか。掛け値なしにそう思います。
そして「荒くれ者」たる草野球チーム「新桜庭ゴブリンズ」。彼らのキャラ立ちも見事です。ドラゴンに立ち向かうメンバーには「新桜庭ゴブリンズ」以外の人員も含まれているため野球が出来る9人+αという多人数が作中に登場しますが、この全員が全員違う個性を持っていて魅力的です。個人的にはゴブリンズの主砲、ホセ・ミラモンテスが話すホセ語がセンス溢れていて最高でした。トモダチ!
コメディ一辺倒かと思いきや身体の芯が凍るハードな展開や心が打ち震える熱い展開もあり、とにかく飽きさせない作りとなっています。果たして新桜庭ゴブリンズは見事ドラゴンを打ち破り、平和な商店街を取り戻すことが出来るのか。あまりにも無謀で、あまりにも感動的な伝説のゲームを皆様も是非ご観覧下さい。プレイボール!
剣一本でドラゴンを殺すには、剣一本でドラゴンを殺すだけの英雄が求められる。
剣千本なければドラゴンを殺せないなら、千人の雑兵を磨り潰せば良い。
いずれも、それほど難しいことではないのだろう。初めから「ドラゴンを殺すための条件」を満たしている、その前提でドラゴンを殺す。
そんなものは「毎日野球の練習を続けた高校球児は、野球が上手い」――それと同レベルの、何の不思議もない、至極当然の話だろう。勿論、それは無価値ではない。下手な野球より上手な野球の方が見ていて楽しいし、高校球児がバッティング力増強バットでドラゴンに鉄球を打ち込む、そんな竜退治があっても良い。
本作の主人公達が属するのは平凡な地方商店街の、喧嘩っ早い草野球チーム《新桜庭ゴブリンズ》だ。大抵の草野球チームにおいて、メンバーの大半に戦闘能力はない。新桜庭ゴブリンズには知能を暴力性に割り振ったり、倫理を生存性に割り振ったりしたメンバーが多い分、一般的な草野球チームよりは戦闘能力が高いが、それでも一般人の枠は出ない。最新鋭の生物兵器が加わっても、それだけではドラゴンは殺せない。余裕など一切ない。
復讐と生活、そのために遊びを加えず、ドラゴンを殺すための手法を用いて、ドラゴンを殺す。直線的だ。
そうでなければ殺せないほどドラゴンが強い。ドラゴンを殺そうとしているのは、普通の人間なのだから。それほど野球が強いわけでもない、愚かな会話や振舞いばかりする人間だ。
人間がドラゴンを殺す物語として、極めて見事な傑作。