第七回 夢を叶えたら、さらに試練は続く


 面接がスタートしたが、まずは軽いテストが行われた。

 詳しくは言えないが、簡単に言えば「こういうゲームがあったとしたら、何処をチェックするか思いつく限り記入せよ」というもの。

 プログラム経験があった僕は、余裕で15個位の箇所を思いつき筆記は終了。

 そしてようやく面接なのだが、たかがアルバイト面接。簡単だろうと思う人間はいるかもしれない。

 だが、そんな事はない。

 何故なら、発売日前のゲームをテストしてもらうのだから。


 つまり、ゲームデバッガーというのは、企業秘密を弄らせてもらっているのだ。


 その面接で、秘密を守れそうな人物かどうかを審査するわけだ。

 そんなのがただの面接で終わる訳がない。


 でも必ず聞かれる質問と言えば――


「弊社に入社希望された理由はなんですか?」


 ――である。


 僕は、もうストレートに言った。


「正直御社のゲームはやった事ありません。御社ですでに働いている友人に誘われて受けさせて頂きました。一時期はクリエイターとして色々な会社に面接を挑みましたが、力及ばずその道を諦めました。でも、今度はデバッガーという方面でゲーム業界に関わりたいと心から思いました」


 そう、御社のゲームが好きです、なんてのは皆言ってるだろう。

 なら、正直にすべてをさらけ出してやろうと思った。

 それが面接官に響いたのか、ほぅ、と言った。

 掴みは上々だろう。


「でも、それなら弊社でなくてもよかったのではないですか?」


「仰る通りなんですが、私の友達に熱狂的な御社のファンがおりまして。あそこはいいぞ! って強く言われました(笑)」


 面接官もちょっと笑ってくれた。


「それと誘ってくれた友人が、環境も良いと言っていたのもあり、まずは面接して決めようと思いました」


「まるで、私達が試されているみたいですね」


「実際ホームページ等の文面では会社の中身はわかりませんから。なので面接を受けて、自分の目でしっかり確認したいと思いました」


「それで、どう感じましたか?」


「はい。是非ここで長期的に働きたいと思いました。後、正社員を狙えるならとってもありがたいですね」


 そんな感じで面接を行ったのだった。

 実はその面接官が僕の上司になる訳だが、皆「御社のゲームが大好きですって言うから、俺は聞き飽きていた」との事。

 僕の志望動機はタイミングがよかったのかもしれない。


 そして気に入られたのか即日入社が確定し、仕事を辞める一カ月後に働く形となった。

 アルバイトという形であれど、夢に見たゲーム業界の入口に足を踏み入れたのである。

 僕の心は、まさに踊っていた。







 引っ越しも終わり、すぐに働く形になった。。

 まずは初日という事もあり、どういう感じかを見てもらって午前中で上がってもいいという内容だった。

 僕が所属したチームは、バグを発見するだけではなく、文章の誤字脱字だけではなく日本語としておかしくないか、後はゲームバランスに問題ないかという、ゲーム全体のクオリティを重点的にチェックする部署だった。

 なので、おかしい点があったらしっかりと調べ上げ、開発に直接報告をするのだった。

 求められるのは同じ作業をする精神的体力、そして報告する際に簡潔に的確にまとめられる文章能力だった。

 僕は偶然通りすがった時に大きなバグを見つけ、試しに文章をまとめてみた所、合格点を頂いた。専門学校で習った文章の書き方が少し活きた結果だった。

 午前中だけの業務だったのが、「大体出来そうだな」という判断で結局一日チェックをする事となった。

 今まで遊んできたゲームの知識、そして今まで学校で学んできた事が活きる形となった初日に、僕は大きな手応えを感じた。

 それと同時に、学校で学ぶ事の大切さをより痛感した一日だった。


 働き始めて一カ月経った頃、僕は開発チームとの会議に参加できる機会を頂いた。

 正直、これを狙っていた。

 実際に働いている開発陣に直接、話を聞く事が出来る。

 元クリエイターを志していた人間にとって、直接現場の意見を聞けるなんてまたとないチャンスだ。

 僕は上司に連れられて開発棟へと向かい、そのチームの部屋へ辿り着いた。


 そこで目にした光景は、僕の甘い華やかな夢を打ち砕いた。


 まさに、戦場と言っても過言ではない。


 お昼時だというのに、床で寝袋に入った状態で寝ている女性がいた。

 栄養ドリンクを片手に、目を充血させて、目の下にクマを作りモニターと睨めっこしている男性がいた。

 五人位の男女が輪を作り、ほぼ口論に近い大声でゲーム内容について議論している。

 そして作業中に意識を失ったのか椅子から落ちるように地面に倒れ、しばらくしたら這い上がるように再び着座する人までいた。

 僕は目を見開いた状態で驚いていた。


 すると上司が声を掛けてきた。


「まぁ最初は皆そんな顔をするな。ゲーム業界――いや、クリエイティブな業界は華やかなイメージが先行しているがそうじゃない。皆こんな風に身を削って、もう何も出ない所まで削って物を完成させる。ゲーム業界はその中でもかなり過酷な場所だろうね」


 上司が苦笑する。

 そして僕は考えた。

 夢を叶えた。その先にはこのような戦場が待っていた。

 果たして、僕のような軟弱なメンタルで、この戦場で戦い抜いていけるのか。

 答えは、見つからなかった。


 多分、叶えるだけならやろうと思えば誰でも出来るのだろう。

 だが、継続させる事こそが、一番大変な部分なんだろう。

 

 そんなのは前からわかっていたものの、この現実をこの目で見るまでは「余裕!」と思っていた。

 だけど、全然余裕じゃなかった。


 僕は、この業界でやっていけるのか、とても不安になり始めていた。

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夢破れた男の、経験談 ふぁいぶ @faibu_gamer

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