第二章 ゲームデバッガー編

第六回 夢破れた男は、ただ惰性に生きる


 夢を諦めた僕は、普通の企業にシフトして就職活動を開始する。

 前回では就職活動は悪あがきと伝えたが、普通の企業だと意味合いが違ってくる。

 通常企業なら、就職活動は自分の売り込み活動だ。

 結果、僕は無事に卒業前に就職を確定したのだった。


 そこからはただただ平坦であった。

 その仕事に目標も全く見いだせないから、無難に仕事をこなす。

 給料をもらう。

 ゲームに費やす。

 夢なんて追わなくなったから、SNSをやって初めて彼女を作った。

 二十一歳で童貞を捨てた。

 今まで夢を叶える為にイラスト描きだったりプログラムの勉強に割り振っていた時間は、彼女との交流の為に全て注いだ。

 次第にゲームに金を回すより、彼女とのデート代に金を回すようになる。

 ゲームに対する関心も徐々に薄れてくる。

 そう、彼女にはまり、彼女の肉体にも溺れた。


 まるで、ぽっかり空いた穴を埋めるかのように。


 僕の人生の中心は、ゲームクリエイターになる為に動いていたのだが、その時は彼女中心に変わっていた。

 彼女とデートする為の資金を稼ぐために仕事をし、報酬を得た。

 仕事に対する出世欲なんてこれっぽっちもない。

 ただただ、金が欲しかっただけだ。

 

 そんな人間が、支えがなくなると仕事にも意味を見いだせなくなるものだ。


 一年後、彼女と別れた。

 全ての時間を彼女に費やした。

 それがなくなったのだ。

 僕の胸にはまた、穴がぽっかり空いた。

 何の為に仕事をしているのだろうか、何の為に生きているのだろうか。

 世界の全てが、灰色に見えたのだ。

 友人は心配してくれたのだが、僕の心には一切届かない。


「あぁ、俺はゲームを取ったら何も残らない人間なんだな」


 その夢だけに特化して人生を生きてきたから、取り上げられたら没個性。

 僕の頭の中に、「自殺」という二文字がよぎった。

 しかし、それを止めるかのように専門学校時代の友人から連絡が入ったのだった。


「なぁふぁいぶ、お前、ゲームデバッガーにならない?」


「……は?」


「今さ、チェックする人間が足りなくなってきちゃってね。上司から知り合いで来てくれる奴はいないかって言われたんだ。真っ先にゲームに対して情熱的だったお前が思い浮かんだのさ」


 ゲームデバッガー。

 簡単に言えば発売前のゲームタイトルをプレイして、バグを取り除く人達の事だ。

 その友人は熱心に僕に待遇面等を説明してくれる。

 ゲームデバッガーはアルバイトで時給制だが、保険等の料金を差っ引いても、地方の小規模企業で働いていた僕の給料と大して変わる事がなかった。

 ただし、場所は間違いなく自宅からは通えない。

 つまり一人暮らしだ。

 給料は低いからそこまで金は自由に使えないだろう。

 だが、その時の僕は即決した。


「ああ、やるよ!」


「決断早いな! なら善は急げ。明後日に面接受けられるかい?」


「もちろん。会社はさぼる」


 もう僕には今の会社にしがみつくものは一切ない。

 さぼってでもゲームデバッガーになりたかった。

 しかも誰もが知っている超大手企業だ。


 僕は早速行動に出る。

 親を説得する。

 もちろん反対されるが、仕送り等は一切受けないし迷惑をかけない、後は二十五歳までに正社員になれなかったら別の仕事で正社員になる事が条件として言い渡された。


 そしていつ辞めてもいいように、次の日には上司を呼んで仕事を辞めるかもしれない旨を伝えた。

 引き留められたが、そんな事は関係なかった。

 その上司とは関係が悪くなったがそんな事はどうでもいい。仕事が決まったら一か月位我慢したらおさらばだ。余裕で我慢できる。


 そして、ついに面接の日になった。


 ――続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る