第五回 第一章最終話 就職活動は学生時代の集大成


 就職活動、それは苦行である。

 皆、専門学校で知識や実績を身に付け、先生に「大丈夫!」と励まされて戦場に送り出される事だろう。

 今、その成果が試される時なのである。


 重要なのは実力か?

 それともコミュ力か?

 いや、両方とも最低限必要なのだ。どっちも必要が正解。

 ではもっとも必要なのは、このエッセイを読んでいただいている読者なら耳にタコが出来ている位聞いていると思うが、「コネクション」である。

 コネが出来ていれば、そもそも就職活動なんてやっていないのだ。

 コネがある人はインターン(インターンが分からない人はネット検索をしよう。自分で調べるのも勉強だ)制度で入社し、そのまま正社員として決めている。

 じゃあ就職活動している人は何なのか?

 はっきり言おう。

 クリエイター職(他の職業はわからないが)で言うならば悪あがきだ。


 考えてみてほしい。

 ゲームクリエイター限定で話すが、この職に就きたい人間は、毎年軽く百は越えているという。その中で選ばれるのはたった数名だ。

 百人の中で、選ばれるだけの才能を持ち合わせていないといけない。

 そして問おう。

 今の貴方に、百人の中から選ばれるだけの才能を持っていると強く言えるだろうか?

 なかなかそんな人はいないだろう。

 ゲームクリエイターで就職活動をしている時点で、ほぼ入社は絶望的だ。

 だから、悪あがきと言ったのである。


 僕もその一人だった。

 大企業からデベロッパーの小さい企業、全てに自分をアピールした。

 しかし、面接すらしてもらえなかった。

 つまり僕は、ゲーム業界での才能は皆無と判断されたに等しい。

 それでもギリギリまで諦めず、一社だけ面接の機会を与えられた。

 この時の僕は、社会人経験どころかバイトすら未経験。

 それでも面接でしっかり受け答え出来れば、絶対に受かるはず。

 そんな都合がいい妄想を浮かべながら面接に挑んだ。


 結果は惨敗だ。

 僕は無難な受け答えしかしなかったのだ。

 ではどういう内容だったかを記述しよう。

 この面接は集団面接である。


「まず当社に面接した理由を伺ってもよろしいですか?」


「はい! 私は御社のゲームが大好きで(嘘。研究の為にがっつりプレイした程度)、御社の為に貢献したいと思い志望致しました!」


「なるほど、プレイしたゲームはなんですか?」


「○○と△△です。どれもストーリーが素晴らしく、フルコンプする位やりこみました!」


「ありがとうございます、では次の方」


 隣にいた男が答え始めた。

 だが、僕は彼の答えに驚愕した。


「私ははっきり言って、御社のゲームは一切やった事ありません。ただ募集をしていたので志望しました」


 面接官も、僕もびっくりした。

 ストレート過ぎる!


「特に理由はないのですか?」


「はい、これといってありません。私はゲームを作る情熱に関しては誰にも負けません。ゲームが作れるのであれば、会社の知名度等はこだわりません。その証拠をお持ちしましたので、時間がある時に見てください」


 すると彼は鞄から十枚以上のCD-ROMを取り出したのだ。

 CDの表面には、恐らくゲームのタイトルが書かれている。

 全て、彼が自作したゲームだった。


「この中で、御社が望むようなゲームがあるのなら、私は御社の力になれると確信しています。私からは以上です」


 彼の目には力があった。

 恐らく、絶対的な自信なのだろう。

 あまりにもストレート、横暴だと思われるだろうけど、逆に面接官は僕を含めた他の面接希望者は無視して、彼に対して集中的に質問をしたのだった。


 僕や彼以外の面接希望者の受け答えは、あまりにも印象に残らないほど平々凡々だったのだ。

 結果は即日にわかり、落ちた事を通知するメールが送られてきた。

 恐らく、あの彼が採用されたのだろう。

 彼のようにたくさんゲームを作った訳でもなく、ただ無難に受け答えをしていただけの人間には何も魅力はないだろう。

 

 ここで僕は、学生時代に何も努力していなかった事を思い知らされた。

 いや、努力はしていたのだが足りなかったのだ。

 企業が求めるほどの力に達していなかったのだ。


 僕は、小さい頃から夢見ていたゲームクリエイターの道を諦めた。


 さて、僕が好きな作品に「仮面ライダー555」というものがある。

 その中にある言葉を引用させていただこう。


「おい知ってるか。

 夢を持つとなぁ、時々すっごく切なくなるが、時々すっごく熱くなる、らしいぜ」


「知ってるかな。夢っていうのは呪いと同じなんだ。

 途中で挫折した者はずっと呪われたまま、らしい」


 これは第八話『夢の守り人』という回で、ライダーに変身する主人公と、怪人側の主人公が言ったセリフである。

 まさに、これこそ夢自身を語っているセリフだ。

 僕の場合は呪いになっている。

 自分で挫折したからだ。

 自分で納得した形でない状態で挫折したからだ。

 今でも僕の胸の中には夢がくすぶり続けている。

 諦めが悪いけど、どうしても叶えられなかったけど、叶えたかった夢。

 熱くなるけど呪われる、薬にも毒にもなる、これが夢だ。


 甘い考えは捨てろ、現実を見ろとは言わない。

 だが、これだけは言わせてほしい。

 夢を追うなら、自分の時間を全て費やす位の覚悟を以て、全力で挑め、と。

 でないと、僕みたいに今も中途半端で世の中を生きていく事になるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る