第5話 優しき騎士の英雄譚

砂漠城塞の街中を暴れ続けるこの想区のカオステラー、ドラゴン。

その巨大な口から際限なく吐き出される灼熱の息は、人々に恐怖を植え付けていた。

そんな中、この街中を守るために必死に戦っていたものがいた。

自らの戦い方を見出し、決意を固めた少女カーレッジと、その彼女を支えるべく戦うエクスたち。そしてカーレッジ率いる砂漠城塞の騎士団。

「第1射、放て!」

騎士の一人がそういった刹那、無数の弓矢がドラゴンめがけて飛んでいった。

しかしドラゴンの鋼鉄の体はその矢を一本たりとも通すことはなく、その猛攻を止めることはできなかった。


「くっ、どうすれば…!」

予想以上の強さを誇るドラゴンにカーレッジは手をこまねいていた。


「坊主!」

ジャンヌ・ダルクの力を得たタオがその鉄壁の盾で攻撃を防ぎながらエクスを呼ぶ。

「タオ!どうしたの?」

「こいつにいつまでもやられてるわけにはいかねぇ、足を止めないとな。

坊主、お前のその力であいつの足を止めてくれないか!?」

今エクスがコネクトしているのは、巨大な剣を持つ赤の女王だった。

確かに彼女の力を持ってすれば止められるかもしれない。

だが…

「接近するのが厳しいよ」

そう、このドラゴンの猛攻をかいくぐり足元まで行くというのはもはや無理に近い。

仮に突っ込んでもやられるのがオチだ。

「そうかもしれねぇ」

タオは呟く、それに続き…

「でも私やタオ様があの竜の攻撃を防ぎながら接近すれば可能です」

「そんな!?無謀だよ、それにそんなことしたらカーレッジもタオも!」

あまりにも無謀すぎる作戦にエクスは反対する。

「俺らのこともっと信用してくれ。

この戦い、絶対勝とうぜ。

相手はカオステラー。俺たちからしても必ず倒さなきゃいけない」

「タオ…」

「それにカーレッジはこの国を守ろうとしてるんだ、ドラゴンの攻撃なんざきっと防いでくれる」

タオの説得にエクスは答える。

「…わかった、あの竜の足を止める。

だから力を貸して!タオ、カーレッジ!」


タオとカーレッジがドラゴンめがけて駆け抜ける、それに続くように盾に隠れながら接近するエクス。

ドラゴンはエクスたちの目論見を知らないままただ暴走するように攻撃をし続ける。

「ぐっ…!持ち堪えろ、あと少しだ!」

ジャンヌ・ダルクの身体に、そう励ます。

「さすがにきつい…!エクス様、どのくらいの距離ならいけますか!?」

体力的にも限界を迎え始めたタオとカーレッジはエクスに訴える。

「まだ、もう少しだけ頑張って!」

少し、少しだけ。あと、ほんの少し。

届くその距離までしっかりと…


まだ、もう少し、あとちょっと…!


エクスはタオたちに言い続ける。


「今だ!二人とも道を開けて!!」

「待ちくたびれたぜ、坊主!」

「エクス様。行ってください、この国を守るために!」

エクスの合図とともに二人は道を開ける。

目の前にはドラゴンの巨大な体がある。

ターゲットはドラゴンの足、ただ一つ。

たった一つの狙いに全てを込めて、大剣を振り下ろす。


「はぁぁ!」

全てを込めた一撃はドラゴンの体勢を大きく崩した。

「これ以上の戦闘は無意味です…!どうかもうこの国に手を出さないでください!」

あくまで命を奪いたくないカーレッジはそう言い続ける。


しかしそれでもドラゴンは攻撃を止めることをしなかった。

「やはり…命を奪う選択しかないのか…!」

カーレッジは辛そうに言う、自らの選んだ選択では、この竜は退かない。

このままではまた前のように人を傷つけてしまう。

どうすればいい、どうすれば…。


「カーレッジ」

思い悩んでいたカーレッジに優しく声をかける人物がいた。

「エクス様…」

「落ち着いて。周りをよく見て。

皆まだ諦めてない、カーレッジを信じてる」

そう言われて周りを見る。

まだみんな諦めていない様子だった。

「…よし、皆さん!

あの竜を城壁の外まで押し込みます!」

まずは町の被害を最小限に抑えないといけない。

そう考えたカーレッジは全員に指示する。


おおおおお、と声を上げながら攻め続ける騎士たち、それに圧倒されながらドラゴンは徐々に後退していく。

「レイナ!」

エクスはレイナの名前を叫ぶ。

「わかってるわよ!行くわ!」

ミリー・ヴェルヴェットにコネクトしたレイナはその魔導書を用いて強烈な一撃をドラゴンに浴びせる。

思わず引き下がるドラゴンにさらに大きな一撃を与えるエクス。

たまらずドラゴンは城外に飛び出す。

続いてカーレッジたちもドラゴンを追って外へ出る。


「まだ戦闘が続く可能性は高いです。

整地されてない砂漠での戦闘は危険ですが、皆さん、気を引き締めていきましょう」

カーレッジは騎士たちに声をかける。

「グォォォォォン……」

ドラゴンは再び騎士たちに襲いかかる。

「させない…!」

カーレッジはすかさず飛び出し、盾で攻撃を防ぐ。


「なぜ戦うんですか、これ以上は無意味です。

このままではあなた自身の命が…!」

暴れ続けるドラゴンにカーレッジは問いかけ続ける。

「カーレッジ…その竜は…」

レイナはその竜がカオステラーであることを知っている。

その竜がどんな目的で攻撃しているのかはわからないが、カオステラーが言葉で引くものだとは思えなかった。


そしてその時、竜は大きく引き下がりやがて動きを止めた。

「なんだ?」

そしてその直後。

「…やべぇ、みんな!しゃがめぇぇぇ!!」

タオが叫んだその瞬間、超高火力のブレスが吐き出された。

幸い、砂漠城塞に直撃しなかったものの…。


「砂漠が抉れてる…!?」

エクスたちは戦慄した。

広大な砂漠が見えなくなる先まで抉れていたのだ。

「まだこんな技を隠し持っていたなんて…!」

レイナは恐怖に震えるような声で呟く。

「くっ、今の一撃に警戒しつつ迎撃態勢!

私たち騎士はこんなもので屈するわけにはいきません!」

カーレッジは指示をするも、先ほどのブレスの衝撃で傷ついた者、恐怖で立ち上がれない者も多かった。


「不味い…!」

カーレッジは思考を巡らせる。

しかしどんな考えも今のドラゴンの前では通用しない気さえする。

「いや。まだだよ、カーレッジ」

エクスは立ち上がり、コネクトを解除する。

「とりあえず、気絶まで持ち込もう。

あのまま放置したらいずれ砂漠城塞の方にも当たる。そしたら一巻の終わりだ」

「エクス…」

「坊主…」

「新入りさん…」

レイナたちはエクスを見る。

「…エクス様はまだ諦めてないのですね」

カーレッジは優しい声で言う。

「そういうカーレッジも諦めてなさそうだよ?」

カーレッジは無意識にまだその盾と槍を構えていた。

「あ…。確かにそうですね」

クスリと微笑むカーレッジとエクス。

「お前らだけにいい格好はさせないぜ」

「そうね、もう一踏ん張りいきましょう」

「そうらしいです。さぁ新入りさん、行きましょうか」

それに乗じてシェインたちも立ち上がる。

「…よし、僕たちは諦めない!行こう!」

エクスは白雪姫にコネクトし、再度ドラゴンに立ち向かう。


エクスたちは戦い続けた、疲労しても、諦めようとしなかった。

そんな姿を、周りの騎士たちは見ていた。

「あのブレスが来る…!」

そう感じたカーレッジは騎士を守るべくブレスの発動を阻止しようとするが…

「きゃぁ!」

勢いよく振り回した尻尾による攻撃をまともに受けて、吹き飛ばされる。


エクスたちの努力を虚しく、ブレスが発動する…と思われたその時。

大量の弓矢の嵐がドラゴンを襲いかかった。

彼らの奮戦を見た騎士たちが立ち上がったのだ。

一つ一つは弱いものでも、それを幾度も喰らい続ければ流石にダメージになる。

特に負傷している今のドラゴンなら尚更だ。

思わずドラゴンはブレスの発動を止めた。


「若い奴らにばっかり任せて、ただ見てるだけなんてダサいだろ?

オレらもまだ戦えますよ、騎士代表!」

「皆さん…。

もう一踏ん張りです、皆さん頑張りましょう!」

カーレッジの一声で一気に士気を高めた騎士たちは立ち向かう。


そして戦いは続き、日が落ち始めた頃…。

ドラゴンはあのブレス以上に大きな一撃を浴びせようとしてきている。

「恐らく、あのブレスを止めることはできないでしょう。

防ぐしか…ありません」

消耗しきった声でカーレッジは呟く。

「そんな!?無理だよ、カーレッジ。

防ぐなんて無理だ!」

エクスは声を荒らげる。

「いや、もうこれしかねぇ。

俺もサポートする。シェイン、お嬢、俺らを補助してくれ」

「…タオ兄がそういうなら」

「…わかったわ」

タオの提案にレイナとシェインは乗り気ではないが承認する。

「エクス様、私たちを信じてください。

必ずあの攻撃を防いで見せます、だからあの竜を止めてください」

カーレッジの強い表情にエクスは…。

「…わかったよ。みんな、絶対生きて帰ろう!」

絶対に生きて帰ることを条件に承認する。


ドラゴンは貯めた一撃を放とうとしている。

それを防ぐべく、シェインはコネクトしたいばら姫で攻撃の準備をし始める、大きな一撃で威力を弱めようという魂胆だ。

そしてそのあとはペリドットにコネクトしたタオとカーレッジがブレスを凌ぐ、その間に時計ウサギにコネクトしたレイナが二人の傷を回復…。

そしておそらく怯むであろうドラゴンにエクスが決める…という作戦だった。


「来ます!レイナ様、シェイン様、お願いします!」

ドラゴンは強烈なブレスを一気に吐き出す。

「眠りゆく者に送る最後の光!」

シェインは大きく叫び、いばら姫の必殺技を発動させる。

本来広範囲に光のダメージを与える技だが、今回はそれを一点に集中し、ブレスに向ける。

「これ、すごい力ですよ…!

相殺は間違いなく無理です!」

「元よりそのつもりだ!シェイン、ギリギリまで持ちこたえて下がってくれ!」

タオはシェインに指示をする。

「行くぜ、カーレッジ!」

「はい!タオ様!!」

シェインは下がり、タオとカーレッジは盾を身構える。

そして息を合わせ、力を込める。


ブレスが直撃する、大きな衝撃に思わず吹き飛ばされそうになる。

「二人とも頑張って!ハートブレイクの布告!」

時計ウサギの力で回復しながらカーレッジとタオは防ぎ続ける。

そしてやがてブレスの威力は弱まり始め…。

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

ブレスは拡散され、やがて散る。

「今です、決めてください、エクス様!!」

「ああ!!」

駆ける、ただひたすら、一心に駆け抜ける。

そして…

「これで決める!始まりのホワイト・スノー!!」

白雪姫の必殺技…ただひたすら一直線に走るその白き衝撃波はドラゴンめがけて…。

…貫く。


ドラゴンは倒れ、エクスたちはコネクトを解除する。

カーレッジはそっとドラゴンに近づき、息があるかどうか確かめる。

「まだ…生きてます。これでわかってください、これ以上戦い続けたら本当にあなたの命は消えてしまいます。

ですから…お願いします、退いてください…!」

カーレッジはドラゴンに優しく、しかし強く言う。


それに呼応したかのように、ドラゴンは目覚める、カーレッジを見つめて。

「カーレッジ!危ねぇ!」

タオは叫ぶも、エクスはそれを止める。

「大丈夫、彼女ならきっと…」

ドラゴンは砂漠城塞とは真逆の方向へ向き、飛び立っていく。


終わった、全てが終わったのだ。

戦いは、これで終わった。

騎士は歓喜の声を上げる。

その声を聞き、国民たちもまた外に駆け出し、勝利の雄叫びを上げる。

その中心にはカーレッジがいた。

「カーレッジ・ホープリリーフ。この国を救った、第二の英雄だ!」

誰かがそう言ったとき、彼女をこの国の英雄だと皆がそう言い始めた。


「あの、私は何も…」

「何もしてなくないよ、カーレッジは頑張った。英雄の称号、もらっていいと思うよ」

エクスはカーレッジにそう言う。

「エクス様…私はいつもあなたに救われてばかりですね…!」

感極まったカーレッジは涙を流しながら笑顔でそう言った。


そして…。

「…でも、私たちはこれで次の旅に行かないと」

別れを告げるような言葉を言って、レイナは調律の準備を始める。

「皆様…やっぱりあなたたちは只者ではないのですね。

姿を変える奇妙な奇術を持った、けれど優しくて強い人たち。

あなた達の旅に英雄ホープリリーフの加護があらんことを」

カーレッジは涙を拭き、エクスたちに別れの言葉を告げる。

「いつか、きっと遊びに来るよ!」

「またここの温泉も入りたいからな」

「ここの技術は凄いです、もっとたくさんのアイテムを見たいですから!」

エクスたちも続いて別れを告げる。

「もう大丈夫?

…カーレッジ、私はあなたに会えて嬉しかったわ。きっとまた出会えることを」

「…私もあなたたちと出会えて変われることができました。

これからは、私自身で進んでいきます」

「そうね、英雄だものね。

カーレッジ、頑張って!」


そして調律は開始され、カオステラーによって乱された想区は修復される…。



「ここでの物語も終わり…か」

「いいところだったよなぁ」

エクスとタオはそう呟く。

「新入りさん、タオ兄。姉御の体力が尽きる前に早く行きましょう」

「…それもそうだな」

二人は笑いながらシェインについて行く。

そのとき砂漠城塞では、もう一人の英雄として語られることになったカーレッジが国を守るために日々努力を積み重ねていた。

カーレッジ・ホープリリーフ。

魔物の命すら奪えなかった彼女はこの国を守り、英雄となる。

そんな優しい騎士の、この英雄譚はここで終わりを迎える。

そしてエクスたちの調律の旅はまだ終わらない、彼らの旅はまだ続く…。





優しき騎士の英雄譚、END…

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新約・優しき騎士の英雄譚 黒空-kurosora- @kurosora

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