子供ではいられなくなった少年の、痛みと郷愁の短編小説。

 柔らかいタッチで、小学生のオトコノコの世代らしい交流や、父を亡くしたことをきっかけに変化を強いられた環境や自分自身への、本人も気付かない思いを描く。

 子供の頃の記憶を呼び覚まされるようで、懐かしさもあった。友人。家族。そうしたものへの静かな優しい感情。
 ノスタルジアだけではなく、父の死に起因する状況というのは、きわめて現代的でもあった。

 気持ちよく読める短編で、よく書けている。文章は及第点を軽々越えているのではないだろうか。

 万人にお勧めできる清涼剤のような小説だ。



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