折りたたみ傘

南枯添一

第1話

 空模様が怪しかったので、折りたたみ傘を持って出た。

 案の定、スーパーまであと少しのところで、雨粒が大きくなった。

 傘を出した。ところが開かない。柄のところに開くボタンがあるのだが、押しても押しても開かない。複雑な仕掛の傘で、そいつがおかしくなっているのだ。諦めて、マニュアルで開けようとしても、その仕掛の何かが引っかかってるらしく、びくともしない。

 そのうち、雨が強くなり、身体が濡れ始めた。力づくで開けようとしても、頑固に動かない。頭に血が上ってきた。カリカリして、折ってやろうかと、膝に傘を振り下ろした。

 これが痛かった。後で見たら、青黒く腫れ上がっていた。

 それで、キレた。

 今度は道路脇の金属製の手すり目がけて、思い切り傘を振り下ろしたら、一発でへし折れて部品が飛び散った。

 まあ、仕方がない。

 見た目はどうでも壊れた傘だ。多分どうやっても開かないだろう。それでも、見た目が壊れてなかったら、棄てられない。折れてバラバラなら棄てられる。だから、却っていいことだ。

 そう思うことにした。

 そう思って、スーパーから食い物を買ってきた。

 冷蔵庫が使えないから、まめに食い物を買いに行かないとならない。

 傘と違って、簡単に棄てられないものを壊すと面倒なことになる。それでもまあ、無理矢理にでも冷蔵庫に押し込めてよかった。

 それでも、そろそろ限界だ。冷蔵庫の中でも腐り始めてる。

 やっぱり、キレちゃいけない。

 傘と違って、ビール瓶なんかを振り下ろすとホント、面倒なことになる。

 冷蔵庫の中でも腐り始めてる。

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折りたたみ傘 南枯添一 @Minagare_Zoichi4749

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