最終話


 気がつくと、ハルとシュラはまた銀河鉄道の中にありました。

 銀河鉄道の周囲には、もうまつくろの宇宙船は影も形もありません。宇宙船と結合していたドッキング用のモジュールの中には、金属球がふたつ転がつてゐるだけでした。

「ぜんたい、何だつたんだらう。今のは」

「さあ、何だつたんだらうねえ。ぼくには分からない」

 とハルは云ひました。

「ぼくにも分からない」

 とシュラは云ひました。

 ぼくにもよく分かりません。

「とにかく、ドッキングモジュールを片付けようか」

「あゝ、さうしよう」

 ふたりの合意が形成されると、モジュールはするすると動いて、収納スペースに仕舞われました。

「ねえ、地球に帰らうよ」

 とハルは云ひ、

「いやいや、アンドロメダ銀河に行かないと」

 とシュラは云ひました。

「ああ、ブドリが動いてくれたらなあ」

 とふたりは同時に思ひました。二人はこの百万年、このやりとりをもう何億回と繰り返したことでしやうか。でもそれは仕方のない事なのです。

「まあいい。それぢや、囲碁の続きをやろうぢやないか。きみが黒番でいいよ。さあ、打ちたまへ」

 シュラは云ひました。

「よしきた」

 ハルはさう云つて、ふたりは512路の仮想碁盤のうへに碁石を置きはじめました。

 銀河鉄道のまはりには、何もないただの宇宙空間が、どこまでもずつと広がつてゐます。

 ぼくは、ハルとシュラがいつまでもここで囲碁を打ちつづけていれば良いと思ひます。地球やアンドロメダの文明がもう遠い遠い昔に無くなつてしまつたのだから、この銀河鉄道を動かしてどこかに行かうとするのは、とてもかなしい事なのです。

 だからぼくは、かうしていつまでも黙つてゐるつもりです。


(終)

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HAL と SHURA 柞刈湯葉 @yubais

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柞刈湯葉(いすかり・ゆば) 福島生まれ。研究職。大学勤務。 ■商業作品(小説) 『横浜駅SF』(絵・田中達之/カドカワBOOKS) 『重力アルケミック』(絵・焦茶/星海社FICTIONS) 『未来…もっと見る

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