突然、未来人が来て実験台に選ばれたと知ったら。
能力を授けるからと一方的に言われた挙句、与えられた特殊能力は【何も無し】。大外れが当たったと告げられたら。
その実験が、殺し合いだと知って──生き残れるだろうか。
この物語の主人公は、取り得がなく。しかも、たった十五分間の幸福を味わうだけのために生きる女子高生。名は、御堂小夜子。
小夜子は平凡な毎日を愛するわけでもなく、ただひとりの幼なじみ長野恵梨香を愛していた。小夜子は恵梨香こそ『女神』だと信じ、惚れ込んでいた──と言えば聞こえはいいが、その沼はかなり深い。
だが、相手は『女神』である。小夜子が「えりちゃん」と呼んでセクハラをしても、「さっちゃんのエロすけ」とかわす。笑顔で。
さて、小夜子は過酷な実験を、その女神と過ごす時間のために生き抜こうと奮闘する。特殊能力は【何も無し】の大外れ。他の対戦相手は、特殊能力を持っている。生き抜くだけで、とてつもなく大変だと想像できることだろう。
けれど、小夜子はある日を境に『勝ち続ける』と誓う。
特殊能力を持っている対戦相手を、必ず仕留めると誓い、戦場で挫けそうになってもここで負けられないと己を奮い立たせていく。どんなに困難な相手を目の前にしても、特殊能力の持たない小夜子は向かい続けていく。
そうして、小夜子は学校での気持ちが変わる。
えりちゃんとの関係も、ちょっとずつ変わってくる。
えりちゃんの「さっちゃんのエロすけ」が愛おしくなる。
最後の試合だと挑む心境は、読んでいてウキウキしてしまう気持ちがよくわかった。ただ、まさかの展開に、私は狼狽してしまった。小夜子の気持ちを知るのは、無理だ。
絶望からの狂気と狂喜が素晴らしく、清々しい。激しい系の百合とは、的確に凝縮された言葉で間違いなかった! と思ったほど。
何人もの狂人たちが登場するこの作品を読めば、時には鈍器で殴られたような、時には刃物で切り付けられたような、時には鋭利なもので突き刺されたような感覚を味わうだろう。
「あなたの未来を許さない」は、それらの感覚を残す人が死ぬ系の激しい百合であり、素晴らしい作品だ。
──と、ここまで書いて、ふと思う。
さっちゃんの良さを、えりちゃんが一番知っていたのだと思うと、今更ちょっと悔しい。
アンチチート、無能力主人公
なかなか書きづらい題材だが
この作品は上手くそれを料理していた。
同じ作者としては尊敬に値するレベル。
約二十万文字とそこそこボリュームがある。
作者様の連載のモチベーションの
少しでもの足しになればと
随所気に入ったエピソードは
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少しネタバレになるかも知れないが、
近況ノートに感想欄も無いようなので
少々詳しくレビューさせてもらおうと思う。
まず、能力バトルにしてもバトルフィールドにしても
設定がしっかり作られている上に
人物の行動をリアルタイムで追跡し
その場にいて見ているように錯覚させる描写力。
また、お互いの能力が分かっていないという
心理的不安要素を主人公側からだけでなく
敵側からも描写していたのがとてもよかった。
命の駆け引きにおいて相手の得体が知れない事が
どれだけ行動を慎重にせざるを得ないかが
しっかり伝わる心理描写。
能力の使い方や相手の能力の考察なども
自らしながら読むと推理ものに近い楽しみ方もできる。
視点変更は疲れるという理由で嫌う人もいるだろうが
この作品に限っては魅力でしかない。
どう感じ、どう考察し、どう動くか。
人物ごとにしっかりとその違いを
描写して出せているのでその内容も見物だ。
物語が進むごとに変わっていく人物関係
主人公のヒロインに対する複雑で狂気にも近い愛、
主人公の戦いに対する心境の変容も通して読むと
面白い要素の一つとなっているのではないか。
個人的に最も評価したいのは度々ある
「緊張感のある終わらせ方」
すぐに先を読みたいと思わせるのは
一種のプロの手法だと思った。
これに関しては是非参考にさせてもらいたい。
その片鱗は二話において早速見え始めるので
とりあえず参考に読んでみようという方は
二話まで読んでみて欲しい。
キャラの名前や後半の展開まで語ってしまうと
流石に迷惑というものなのでここらで終わりにするが
これだけレビューが書ける程度には面白い。
もう少し評価されてもいい作品だと私は思う。
どんなラストになるかは全くの未知数、
それだけに今後の期待も大きい。
自らの小説の参考にでも構わない、
是非一読してもらいたい作品だ。